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獣化の制御方法

「…………話はわかった」


 そう言いつつもルーカスは不満げに眉を寄せている。

 その様子にビクビクしながら、アドルフがか細い声を出す。



「ほ、本当に仕方がなかったんだって……」


「だからわかったって言っただろう。でもエミリーを危険な目に遭わせたことに変わりはない」


「うっ……以後気をつけます」


「ごめんなさい……私もやっぱり外に出るべきではありませんでした」



 もとはと言えば、エミリーが勧められるまま外に出たから、こんなことになってしまったのだ。


「僕も誘ったから……ごめんなさい……」


 エミリーに続き、耳をぺたりと垂れさせ、ファハドが頭を下げる。

 三人の様子にルーカスはため息をついた。



「いや、今回は緊急事態だったから仕方がない。私もすまなかった。自分がその場にいてエミリーを守れなかったことが、嫌だったんだ」


 ルーカスは拗ねたように視線を逸らす。


「えっ?」



 エミリーがルーカスの意外な様子に声をあげると、ルーカスは苦笑を浮かべる。

 そしてエミリーの前に来ると、そっとエミリーの頬に手を当てた。


「だからエミリーが気にすることはない」


 ルーカスの優しげな笑みに、エミリーは顔を赤く染める。


(ルーカス様はいつも突然だわ……)




「ちょっ! ルーカス、お前ほんと油断も隙もないな!」


 アドルフはエミリーとルーカスの間に入ると、ルーカスをきっと軽く睨む。ファハドも、エミリーの腕を優しく掴むと、守るように自分の方に引き寄せた。


 そんな二人をルーカスは邪魔するなと言わんばかりに、不機嫌に睨む。

 エミリーが苦笑すると、落ち着いたアーノルドの声が遮った。




「そんなことより、ファハドは獣化したのですよね?」


「うん」


「それではやはり、エミリーさんの魔法は暴走状態にある獣化の制御ができるということですね? ファハド、その時のことを詳しく教えてください」


「うん。獣化には一気に力を解放すること、同時に自分の大切な人たちを守りたいって強く思うことが必要なんだと思う」


「なるほど……」



 アーノルドは顎に手を当て頷くと、続きを促す。


「獣化すると力の制御も感情の制御もできなくなる。勝手に力が体の中から溢れ出して自分ではどうにもできない」


「ええ、今までもそう言われていましたね。だから獣化は命に関わると……」


「でもエミリーの魔法はその溢れすぎた力をギュッとまとめてくれる。力を解放した時、僕は二人を殺されるかもって、恐怖と怒りでいっぱいだった……でもエミリーの魔法はそんな心も癒してくれる。優しい気持ちにさせてくれるんだ。だから自制心を取り戻せるんだと思う」


「なるほど……光属性の結界と癒しの特性ということでしょうか……それではやはり我々の獣化の制御には、エミリーさんの力が必要不可欠ということですね」


「あの……そのことでお話が……獣化の暴走を止める魔力を流すには直接触れなければいけないんです。そうでなければ強い魔力で包むことができないのです。それで私から提案がありまして……」



 エミリーが手を上げると、みんなが不思議そうに見つめる。



「提案とは?」


 ずっと考えていた。

 前回や今回はエミリーがすぐに直接触れられたからよかった。

 しかし、エミリーが側に行けない状況にある時はどうすれば良いのかと……



「試したことがないので、自信を持っては言えないのですが……私の魔力を込めた魔石を、みなさんに身につけていただくのはどうかと思ったのです」



 何もないところに強い魔力の塊を飛ばすのは難しい。

 だがエミリーの魔力を込めた魔石ならば、良い目印になる。

 元々同じ魔力は引きつけやすいうえ、魔石は魔力を吸収するのだ。その力を利用すれば離れた位置から力を流すことが可能なのではと考えたのだ。



「それは試してみる価値はありそうですね……でも魔石はどうします? 獣人族は基本的に魔石を使うことがないので、今手元にはありません。それに魔石は貴重ですし、買える場所も限られているでしょう?」


「実は私が一つは持っているのです。ですが全員分は……少し遠回りにはなりますが、ハワード侯爵領は魔石採掘で有名です。そちらによれば購入できるかと……」


「なるほど……私は良いと思います。ルーカスたちはどう思いますか?」


「ああ。私も良い案だと思う。エミリーが獣化した者に毎回近づくのは危険だと思っていたんだ」



 ルーカスの言葉に、みんなが同意し頷く。


「そんじゃ途中で寄り道だな。明日出発か?」


「そうだな」



 話は終わったとみんなが一息ついた時、ルーカスがバーナードに目配せする。

 するとバーナードが頷き、ばっと立ち上り、ツカツカとアドルフの前まで歩いて行くと、ガシッと頭を鷲掴んだ。



「え?……な、なんだよ……」


「さて、次の予定が決まったんだ。だから、お前は大人しく寝ておけ!」


「おい! 痛い! 痛いって! わかった! わかったから、大人しく寝てるって!!」


 アドルフはバーナードに引きづられ、叫びながらルーカスの部屋を出て行った。

 厳しい言葉を言ってはいるが、みんなアドルフの体のことを心配しているのだ。


 エミリーは苦笑を浮かべ見送ると、ふと考え込む。



「エミリー? どうした?」


「あ、いえ……その……」


「魔物のことか?」


 エミリーの考えを見透かしたように、ルーカスが尋ねる。

 エミリーは頷くと、不安に思っていたことを話した。


「はい……真っ昼間に、それも中級魔物が町中に三体も同時に現れるなんてことあるのでしょうか? 確かに町は荒れていましたが、あれは初級魔物の仕業に見えました。まるで私たちを待ち構えて、中級魔物が現れたような気がして……」


「それは私も気になっていたんだ。先日の獣王国での中級、上級魔物のことといい……これはもしかしたら、何か大きな力を持った存在がヴァージル王国内に入り込んでいるのかもしれないな……」


 エミリーの不安げな表情にルーカスが優しく肩を叩く。



「まぁそれでも俺たちは全力でエミリーを守る。だから心配しないでくれ」


(そうよね……大丈夫。私はルーカス様たちを信じていつもの)


 ルーカスのエミリーを心配するような優しげな笑みに、エミリーも嫌な考えを振り払うように笑みを返した。


「はい!ありございます」


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