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信頼

「さて、今後のことが決定したのはいいんだが、アドルフの獣化のことは話し合わなくていいのか?」


「そういえば、まだ話を聞いていなかったな……アドルフ、あの時のことを話してくれるか?」


「おう! って言っても所々しか覚えてないんだよな……あの時はエミリーが危ないって思ったら、体がすっげー熱くなって、目の前が真っ赤に染まったんだ。それからは何も覚えてないんだよ……」


 アドルフが困ったように眉を寄せる。



「でもエミリーの声で正気に戻っただろう?」


「そうそう! なんか遠くからエミリーが俺を呼ぶ声が聞こえてきて、夢から覚めたみたいに、ぼんやりとエミリーの顔が見えたんだ。でも体の自由が効かなくて……体が燃えるように熱くて……勝手に腕が動きそうになって、必死で抵抗してたんだ」



 確かにあの時のアドルフはとても苦しそうな顔をしていた。エミリーはいつもの元気に戻ったアドルフの様子にそっと安堵の息を吐いた。


(本当にアドルフくんが無事でよかった……)




「ではエミリーの魔法で体の自由が戻ったのか?」


「うーん……その時の記憶があんまりないんだけど……あたたかい何かに体が包まれて、そしたら感覚が戻って来たんだよな〜頭がはっきりしてきて、体がすっごく軽くなってさ」


「エミリーはあの時アドルフの体を包むように魔力を流してたからな。やっぱりエミリーの光属性魔法の影響だよな?」


 バーナードの言葉にルーカスが考え込むように顎をに手を当てると、小さく頷いた。



「エミリーが力を使ってすぐ、アドルフが正気に戻ったことを考えるとそれしかないだろうな。ところでエミリーは何故あの時光属性魔法を?」



「えっと……そうですね……突然体の中から自然と力が溢れてきて、何となくアドルフくんを光属性の魔力で包み込めばいいんだって思ったんです。何故そう思ったかは、わからないのですけど……」


「そうか……これまでの事を考えると、エミリーは違うと言っていたが、私はやはりエミリーが光の守り手なのではないかと思うんだがな」


 ルーカスが顎に手を当て、考え込むようにエミリーを見つめる。

 エミリーはルーカスから目を逸らし、ぎゅっと手を握り込んだ。



「それは……私は違うと思います……」



 確かにあの時の感覚は不思議なものだった。

 しかし、ヴァージル王国では光の守り手だと周りが噂したせいで追放されたのだ……

 やはり確信がないのに頷くことはできない。



「光の守り手は光の神から力を与えられた存在だ。そして私たち獣人族は光の神の隣人であった獣の神たちが創った。だから光の守り手の中には自然と獣の神たちとの繋がりがあるのではないだろうか?……そして獣の神と近しい力を持つ獣人族が暴走した時の止め方を無意識のうちにわかっていたのではないかとな……」


 ルーカスはエミリーの表情に困ったように眉を下げると、安心させるように微笑んだ。



「私はエミリーが光の守り手であるかもしれないと個人的に思っただけだ。もし違ったとしても君を否定したり、邪険(じゃけん)な扱いをするわけではない。だからそんな不安そうな顔をしないでくれ……」


 エミリーは目を見開くと自分の顔にそっと手を当てる。



(そんなに顔に出ていたのかしら……)


 王太子の婚約者であった時は常に冷静を装い、決して感情を表に出さないように努めていた。

 だからこそ、まさか相手に気づかれるほど表情に出してしまっていたということが自分でも意外だった。



(きっと彼らと出会ったからね……)


 獣王国に来て、信頼できる人たちと接するうちに仮面が外れてしまったのだろう。

 自然に笑い、楽しみ、喜ぶ。

 そんな素直な自分を受け入れて、助けてくれる彼らには感謝しかない。

 だからこそ……




「私は自分が光の守り手であるのかはわかりません。それに本当に獣化を止める力が私にあるのかも……ですが……みなさんが今後、獣化して自分の意思ではどうにもならない時は、私で力になれるならお手伝いをしたいと思います」



 はっきりとまだ自分の力を認めることはできない。

 それでも自分にできることがあるなら、少しでも彼らの力になりたい。

 エミリーが決意を込めてみんなを見つめると、アドルフがニカっと笑う。



「ありがとな、エミリー! エミリーがいてくれると心強いよ! でもさ、俺は光の守り手がエミリーであったとしても、違うとしてもさ、エミリーが俺たちと一緒にいてくれることが嬉しいんだ!」


「アドルフくん……」


 その表情から、心から思ったことを伝えてくれているのだと感じる。


 ルーカスはアドルフの言葉に頷くと、エミリーに優しく笑いかけた。

 そんなやりとりにまた心が暖かくなる。


 するとポンっとエミリーの肩に優しく手が置かれる。



「まぁ、まずはヴァージル王国への調査だな。アドルフも言ってたが、もちろん俺もエミリーの光属性魔法は頼りにしてるぜ! よろしく頼むぞ!」



 バーナードがニカっと笑うと、アーノルドがため息をつきながらバーナードの手を叩く。



「バーナード……女性にはそう気安く触るものではありませんよ」


「い、いや! だってアドルフだって手を握ったり、ルーカスなんてもっと触れたりしているだろう?」


「バーナードはちょっと……」


「何でだよ!!」


 ファハドの苦い顔に、即座にバーナードがツッコミ返す。

 エミリーは堪えきれずに笑い出した。


「あっ……つい、すみません」



 バーナードはエミリーの自然に出た笑みに、ニカっと笑う。



「いや、やっぱり美人は気難しい顔してるより、笑っていたほうがいいぞ」


「バーナードに言われるとちょっと……」


「なんか嫌だよな……」


「だから何でだよ!!」


 嫌そうな顔のアドルフとファハドに、またもすぐさまバーナードが言い返す。それをやれやれというようにルーカスとアーノルドが見つめる。

 そんな穏やかな時間に、エミリーは自然と笑顔になる。



「みなさん、ご迷惑をおかけすると思いますが、オルティス領までの旅の間もどうぞよろしくお願いします!」


 みんなは柔らかく優しい笑みを浮かべるとそれぞれ頷いた。

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