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みんなで

「な……何をおっしゃるのですか! 一国の王太子を危険な場所に連れて行くなどできません!」


「そりゃそうだよな! びっくりした! まさかエミリーを一人だけ行かせる気かと思ったじゃねーか!」


「今までのルーカスの行動見てりゃ、そんなの有り得ねーだろ!」


「うん」


「やっぱりこうなりましたか……」


 エミリーが否定の言葉を口にする中、みんなまるでエミリーの声など聞こえていないかのように会話を進めて行く。



「そんじゃ、とりあえず他のやつに引き継ぎしとかねーとな。しばらくかかるだろ?」


「それより先に陛下にお話ししなければいけないでしょう」


「じゃあそれはルーカスとアーノルドに任せて、俺達は旅の準備でも進めとくか」


「多分今は魔物のせいで使えない道あるから、調べとかないといけない」


「あ、あの……みなさん……?」


 みんな口々に自分たちのこれかの行動を整理している。間違いなくこの発言はこの場にいるメンバーがエミリーに同行するという前提の話だ。

 エミリーが呆気に取られて呟くと、ルーカスがにこりと笑う。



「どうした?」


「どうした? じゃありませんよ! ヴァージル王国は危険です! それに他国の人間である皆さんが、もし見つかってしまえば、本当に戦争になってしまうかもしれないのですよ?」


 エミリーが真っ青になって反対するが、ルーカスはケロッとした表情で言い返す。



「隠密には慣れているし大丈夫だ。他国との国交を絶っている私たちがエミリーのことを知っていたのは、いろいろな国に潜入しては情報を集めていたからだ。それに見つかった時はウォルター・ベイリーの件について、使者として来たのだと言えば大丈夫だろう。先に侵入して来たのはヴァージル王国のほうだからな」


「だ、大丈夫じゃありません! 確かに先に侵入したのはヴァージル王国ではありますが、獣王国から見てオルティス領は王都とは反対方向ではないですか!」


「道に迷ったと言えば……」


「流石に真反対の方向に道に迷うのは無理があります! それにルーカス様は王太子殿下ではありませんか? 魔道士団長である彼とは訳が違います!」



 家臣であれば、王国の考えを無視した勝手な行動として言い訳もできるかもしれない。

 しかし、王族である王太子が侵入者として捕まれば、国の総意として敵対するつもりなのだと取られても仕方がない。



「しかし、だからこそ滅多(めった)なことはできないはずだ。私と行動を共にしている君に、すぐさま手を出すことはできないだろう?」


「え?」


「あちらにとっても、禍根(かこん)を残すと考えると軽率な行動はできない。それに同盟国もない獣王国が他国から攻め入られることがないのは、我が国に単独で挑んでも勝てないと思われているからだ。そんな強国の王太子に下手に手は出せないだろう?」


「それはそうかもしれませんが……ですがやはり、みなさんを危険に(さら)す訳には……」



(ルーカス様はどうしてそこまでして、私を守ろうとしてくださるのかしら……光属性魔法の使い手は獣王国では貴重というのはわかるけど……オルティス領へ行きたいのは私のわがままなのに……)


 エミリーが(うつむ)き、考え込んでいると、ルーカスがエミリーの手をそっと取る。



「ルーカス様?」


「元々隣国であるヴァージル王国の情勢を探ることは、必要なこだ。だからエミリーが気にすることはないんだ。しかし、そんなに気にするのであれば、無事に獣王国に戻れた時には私のお願いを一つ聞くというのはどうだ?」


「お願いですか?」


「ああ。エミリーにしか頼めないことがあるんだ」



(私にしか頼めないことって光属性の魔法にかかわることかしら? でもきっとルーカス様は優しいから、私が気遣わないように言ってくださっているのかも……それなら断り続けるのも失礼だわ)



「わかりました。私にできることでしたら!」


 エミリーが顔をあげ、微笑むと、ルーカスも優し気に微笑み頷いた。



「決まりだな! 君のことは私が必ず守る」


「違うだろ! 俺たちで守るだろ?」


 エミリーがアドルフに視線を向けるとアドルフがニカっと笑う。



「そうだな。私たちがついている」


 一人でオルティス領に向かうことは正直言って不安だった。捕まれば、魔物に遭遇すれば、殺されるかもしれない。

 そう考えれば怖かった。


 まさか自分のわがままにみんなが付き合ってくれるなど考えてもみなかった。

 みんなの優しい笑みに目の奥が熱くなる。


(まさか生き延びるために逃げて来た獣王国で、こんなに優しくて温かい人たちに会えるなんて……あの時は思いもよらなかったわ……)



「エミリー?」


 エミリーの様子にルーカスが優しい声で呼びかける。



「みなさんありがとうございます! よろしくお願いします! 私、みなさんに出会えて本当に良かったです」


 エミリーの涙を(にじ)ませた表情にみんなが優しく微笑む。そしてルーカスがそっと頭に手を乗せた。



「私もエミリーに出会えてよかった」


 (なぐさ)めてくれる優しい手にエミリーはなんとか涙を堪え、笑みを浮かべた。



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