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穏やかな話し合い?

『くっ…………』


「レイラ? どうかしたの?」


『私の(つか)わした配下がやられたようだわ……』


「えっ!?……そんな……だってあれは強いから大丈夫だって……」


 マチルダは顔を真っ青にして、頭を抱え込む。


「どうしよう……どうしたらいいの……」


『ちょっと見くびっていたわ。どうやらあちらにも手練(てだれ)がいたようね……でも大丈夫よ、マチルダ』


「で、でも獣王国には結界があるから、上級魔物は普通には送り込むことができないのでしょう? だからウォルターを使うって……それにウォルターほどの魔力でも一体しか無理だったのに……」


 マチルダの必死な形相とは裏腹に、鏡に映るマチルダは余裕がある笑みを見せる。



『そうね。でもそれなら(おび)き出せばいいのよ』


「誘き出す? でもどうやって……」


『大丈夫よ。これだけ魔物がヴァージル王国に出没しているのだもの。きっと奴らはやってくるわ。大丈夫。全てうまくいくわ』


「そ、そうよね。レイラの言うことは絶対だもの! 大丈夫! 大丈夫よね!」


 マチルダの盲信的な態度に、鏡に映るマチルダは嬉しそうに仄暗(ほのぐら)い笑みを浮かべる。


『ああ……可愛いマチルダ。そうよ。ずっと私の言う通りにしていれば問題ないわ』


 背筋が冷えるようなぞっとする声は、マチルダには届いていないのか、彼女は安心したように鏡に映る自分に向かって微笑んだ。





 あれから王宮に戻った一行は、それぞれ戦闘で消耗していたこともあり、翌日に話し合いの場が設けられることとなった。


 ウォルターは本人の意思ではなかったとはいえ、獣王国に攻め込んだのは事実だ。

 今は貴賓(きひん)用の牢屋に閉じ込められている。



「ウォルター・ベイリーだが、最近の記憶は抜け落ちているようだ。今回の件は自分が操られた末の行動だから、ヴァージル王国は関係ない。どうか自分の処分だけで済ましてくれいないかと顔を真っ青にして懇願してきたよ。まぁ元よりそのつもりだがな」


「そうですか……」



 魔道士団長である彼が操られるなど、どんな(そし)りを受けても仕方がない。

 それも国境を侵すなど、とんでもないことだ。


 それでもやはりマチルダに操られていたと思うと、エミリーとしては気の毒に思ってしまう。



「あの……ルーカス様……大変厚かましいお願いであることは承知しております。ですがどうか彼の処分、極刑だけは……」


 ルーカスはふっと笑うとエミリーの頭を優しく撫でる。

 エミリーがびっくりして顔を上げると、さらに笑みを深くする。



「エミリーは優しいな。彼は君を追放した一人だろう? 大丈夫だ。そんな不安そうな顔をしないでくれ。私も操られていた彼に極刑は望まないさ。こちらの被害もエミリーのおかげで大したことはないからな」


「ありがとうございます! ルーカス様」


 エミリーが笑みを返すと、ルーカスは小さく頷く。



「やっぱりエミリーは笑顔のほうが似合う」


 突然優しく頬に手を添えられ、エミリーが顔を真っ赤に染める。



「お、おい! ルーカス! 近い!! 近いって!! 離れろよ!!」


 アドルフはルーカスをエミリーから遠ざけようと素早く立ち上がる。

 しかし、くらりと体勢を崩し、バーナードに受け止められた。



「あぶねーな。アドルフ、お前やっぱり部屋で休んどけよ。まだ獣化の疲れが残ってるんだろ?」


「だ、大丈夫だって! 支えてくれてありがとな」


 困ったように笑うアドルフに、バーナードが呆れたようにため息をつく。



「彼女のことが心配なんでしょう?」


「大丈夫。アドルフがいない間、ルーカスのことは僕が見張ってるよ」


 アーノルドとファハドの言葉に、アドルフは焦ったようにエミリーの表情を見る。

 そして勢いよくブンブンと頭を振る。



「いや! そんなんじゃねーよ!」


 アドルフのわかりやすい態度にみんなため息をつくが、エミリーだけは首を傾げる。



「アドルフくん、まだ調子が良くないなら私も部屋で休んでいた方がいいと思うよ」


「いや! 本当に大丈夫だって!! それよりも今はヴァージル王国のことだろ!?」


 アドルフの言葉に全員が表情を引き締める。




「ウォルター・ベイリーが覚えている限りのヴァージル王国の内情を聞いたのだが……」


 ルーカスが心配気にエミリーを見つめる。

 エミリーは覚悟はできているというように、小さく頷いた。



「やはり先日のファハドの報告にもあったとおり、国中に魔物が(あふ)れているらしい。そして彼の私見でもやはり、まるで何かに引き寄せられるように集まっているように感じたそうだ」


「いったいヴァージル王国で何が起こっているのでしょうか……」


「それはわからない……ウォルター・ベイリーも魔道士団長として国内に出現する魔物の討伐と調査に向かおうと思っていたそうだ。しかし、王宮を出ようとした時にマチルダ・キャンベル男爵令嬢に会ってからの記憶が一切ないらしい」


 エミリーはぎゅっと自分の手を握りしめた。



(彼女はいったい何をしたいの……邪魔な私を亡き者にしようというのは、異常だとは思うけどまだわかるわ。でも魔物が国に蔓延(はびこ)るのは彼女にとっても脅威でしょうに……それなのにベイリー魔道士団長を私の捜索に向かわせて国境を侵すなんて……)


 何やら得体の知れないものを感じて背筋が冷える。



(ふぅ…………ダメね。しっかりしないと! 私には守りたいものがあるのだから!!)


 エミリーは頭を振ると、強い意思を込めてルーカスを見つめる。



「ルーカス様、私は一度ヴァージル王国に戻ろうと思います」


「エミリー何をいうんだ!? 君は危険を感じたからこそヴァージル王国を出たのだろう? それなのに魔物の出現も多くなって、さらに危険になっている今、戻ろうと言うのか?」


 ルーカスが厳しい表情でエミリーに問いかける。


 エミリー自身、そのようなことは百も承知だ。

 しかしヴァージル王国には、エミリーが家族のように思っている大切なオルティス領の民がいるのだ。

 たとえ今はオルティス領に現れていなくとも、各地に出現している魔物が、いつオルティス領に現れるかはわからない。


 獣王国に来て、自分の光属性の魔力が魔物を弱体化させることを知った今、安全なところでただ傍観しているなんてできない。



「それはわかっています……ですが私の家族同然のオルティス領の民を無視することなどできません。自分の目でみんなの安全を確認したいのです」


 エミリーの決して譲らないという強い意思を感じ、ルーカスはやれやれというように息を吐き出した。



「何を言っても無理そうだな……」


「ルーカス! まさかエミリーを一人で行かせる気かよ!?」


 アドルフの責める声に、ルーカスは呆れたようにアドルフを見つめる。


「まさか私がそのようなことをすると思うか?」


 ルーカスは視線をエミリーに戻すと、有無を言わせぬ笑みを浮かべる。


「もちろん、私も一緒に行くに決まってるだろ」

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