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戦闘と違和感


 キンッ! キンッ!


 剣がぶつかる音が響く中、エミリーは怪我をして後ろに後退している獣王国の兵士の元へと走る。



「大丈夫ですか?」


 エミリーは傷ついた兵士の前で膝を折ると、声をかけた。

 兵士は戦場に現れた美しい女性に一瞬驚いたように目を見開くが、すぐ慌てて返事をした。



「わ、私たちは大丈夫です! それよりもご令嬢、あなたは早くこの場から離れたほうがいい。危険です!」


「いいえ! 先ほど宣言した通り、私は彼を止めるために来たのです。私も皆さんと一緒にできることをいたします」



 エミリーはにっこり笑うと、兵士たちに向けて両手を広げ、目を閉じた。


(今はとりあえず、ここにいる怪我をした人たちを治癒させるのが先だわ……)



 エミリーは心の中で今後取るべき自分の行動を整理する。

 そして「よしっ!」と小さく頷くと、力を解放した。



治癒(ヒール)


 傷ついた兵士たちの周囲がキラキラと柔らかい光で満たされる。

 すると一瞬の間に兵士たちの傷が消えていく。

 その光景に兵士たちは驚きに目を見開きながら、エミリーへと視線を向ける。



「す、すごい……」

「これが光の守り手様のお力か……」

「なんて優しくて温かいお力なんだ……」

「ああ……それになんて美しい……」



 至る所でそんな声が上がるなか、エミリーはふっと息を吐き出して、兵士たちの様子を確認する。


(全員傷は治ったみたいね……よかった)


 エミリーが安堵していると、兵士たちは姿勢をただし、エミリーに向けて頭を下げた。



「えっ!?」


 全員の示し合わせたような行動に、エミリーは驚き視線を一歩後退する。


「我らのような一般兵にもこのような高度な治癒魔法を施していただきありがとうございます」


「我ら光の守り手様のため、全力でお守りいたします!」


「え? いえ……あの私は当然のことをしただけで……それに私は守り手というわけでは……」



 傷ついた人がいて、治癒魔法を使えるならば普通の行動ではないだろうか。

 エミリーが困惑気味に兵士たちを見つめると、兵士の一人が「いいえ」と大きく首を振る。



「我が獣王国は治癒魔法を使えるものはほぼおりません。使えても数人を癒すのが精一杯で、我らのような一般兵は薬による治療がほとんどです。こんな高度な魔法を、それもこのような大勢にかけるなど、相当消耗されたことでしょう……」


(え……そんなものなの? 普通これくらいの人数すぐ治せるものよね……)



 エミリーは昔から魔力量が多かった。

 故に、一般人の魔力量というものがわかっていないのだ。

 確かに歴代の光の守り手と比べれば力は弱いかもしれない。

 しかし、一般人のそれとは比べものにならないほどに強い魔力を持っているのだ。


 エミリーが困惑しながら兵士たちを見つめていると、兵士たちはまるで崇拝(すうはい)するような視線をエミリーに向ける。

 エミリーはその視線に引き()りそうになる頬をなんとか抑えた。


(ど、どうしてこんなことに……)



 その時、キンッという一際大きな剣を弾く音が響いた。



(はっ!! そうだわ! 今はそれどこれではなかったわ!!)


「み、皆さん無理はなさらないでください!」


 エミリーは兵士たちに言葉をかけると、ルーカスたちが戦闘をしている方へと走って行く。

 そのエミリーの後ろ姿に兵士たちの熱い声が上がる。



「我らもこうしてはいられない! 守り手様がお力をお貸しくださったのだ! あの方を全力で守るぞ!!」


「「「「おーーーー!!!!!」」」」


 背後からの熱い雄叫(おたけ)びに居心地の悪さを感じ、エミリーは小さくため息を吐いた。


(そんなにすごいことはしていないと思うのだけど……しかも光の守り手と勘違いされているようだし……まぁ、でも今は時間が惜しいから仕方ないわ。士気が上がったなら結果オーライかしら……)


 エミリーは諦めたようにふっと息を吐き出しながら、今度は気持ちを引き締めるため大きく息を吸い込んだ。


「よし!!」





 エミリーがルーカスたちの元に戻ると、みんなが無事であることにふっと安堵の息を吐く。

 みんながそうそう怪我をするとは思ってはいないがやはりこれだけの魔物の数だ。不安は拭えない。



 ルーカスはウォルターと対峙(たいじ)し、アドルフ、バーナード、ファハド、アーノルドがウォルターの周囲にいる中級、下級の魔物の相手をしている。



(ウォルター・ベイリー……さすがは最年少で魔道士団長にまでなっただけのことはあるわ)



 ルーカスとウォルターの戦闘は凄まじい速さで、エミリーでは目で追うだけで必死だった。

 ウォルターは魔法での攻撃を次から次へと繰り出し、ルーカスは剣で攻撃を防ぎながらも、少しずつウォルターとの距離を縮めていた。

 魔法による攻撃は基本的に遠距離戦に有利だ。

 完全に距離を縮めてしまえば、身体能力の差から間違いなくルーカスに軍配があがる。


(ルーカス様! あと少しです。頑張って!)



 心の中で声援を送りながら見つめていると、ルーカスの後ろから下級魔物が飛び出してきた。


「ルーカス様、危ない!!」



 エミリーは咄嗟(とっさ)に魔法でルーカスと魔物の間に防壁をはる。

 間一髪(かんいっぱつ)のところで魔物はエミリーの防壁に弾き飛ばされ、ルーカスは体勢を崩した魔物を剣で切り裂いた。

 ルーカスは一瞬エミリーに目配せすると、礼を言うように微笑んだ。



(無事でよかった! だけど……何かおかしいわ……あれだけみんな必死に倒しているのに……)


 アドルフとバーナードが中級魔物の相手をし、ファハドとアーノルド、そして他の兵士たちが下級魔物を倒している。

 エミリーが怪我をした兵士を癒し、騎士団の団長であるアドルフやバーナードが合流したおかげで、みんなの士気が上がり次々と魔物を倒しているのだ。


 それなのに魔物たちが減る気配がない。

 先ほどルーカスを襲った魔物もそうだ。

 突然そこに現れたように見えた。


 エミリーは違和感に戦場をぐるりと見渡す。

 そしてある一箇所を見つめると大きく目を見開いた。


(あ、あれは……どういうこと!?)


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