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謁見の間へ

「あの……準備できました」


 エミリーの緊張した小さな声に一斉にみんなが扉を向く。

 エミリーが一歩室内に足を踏み入れると、みんなが驚きに目を見開いた。



(え……何? やっぱこんな綺麗なドレス似合わなかったかしら……)


 エミリーが不安に思い、視線を逸らすと、すっと手を取られた。

 驚いて顔を上げると、嬉しそうに微笑むルーカスと視線が合う。



「とても美しい。やっぱりこのドレスはエミリーにとても似合っている」


 少し頬を染めて、優しげに微笑むルーカスにドキドキと鼓動が高鳴る。


「あ、ありがとうございます」



 エミリーに目を奪われていたアドルフは、二人の甘い空気にはっとして、ルーカスの隣へと急いで駆け寄る。

 そしてルーカスの手を払いのけると、エミリーの手をとった。



「エミリーとっても綺麗だぞ! でもその……今度は俺の贈ったドレスを着てくれるか?」


 アドルフが恐る恐るというようにエミリーの返事を待っていると、エミリーはふっと顔を緩ませる。


「ふふっ! アドルフくんありがとう! でもアドルフくんには今までたくさん助けてもらったし、服だってたくさんもらったわ! だから私にそんな気を遣わなくて大丈夫よ」



 エミリーの言葉にルーカスとバーナードは吹き出し、口元を押さえ後ろを向く。

 アーノルドはため息を吐き、ファハドは可哀想な者を見る目でアドルフを見つめた。


「これは完全に好意に気づいてもらえてませんね……」


「家族扱い……」


「まぁ仕方ないよな……アドルフだし」


 みんなの散々な言いようは無視し、アドルフは何とかエミリーに伝えようと必死に言葉を探す。



「いや……その、気を遣ってるとかじゃなくて……エミリーに俺が贈ったドレスを着て欲しいんだよ!」


 エミリーは首を傾げてアドルフを見つめる。


「え? でも今までアドルフくんにはたくさん服買ってきてもらったし、その服を着てたじゃない?」


「そ、そうだけど、そうじゃないんだよ! えっとだから普通の服じゃなくて、俺の色のドレスを着て欲しいってことで……」


 


 トントン


 アドルフの言葉を遮るようにノックがなると、老齢の執事がすっと頭を下げて部屋に入って来た。

 そしてルーカスの側に来て耳元で小さく何事かを告げると、ルーカスは頷いた。


「アドルフ、話し中に悪いが時間切れだ。陛下から今すぐ謁見の間に来るようにとのお達しだ。エミリー行こうか?」



 ルーカスの優しげな笑みに、またドキリと鼓動を跳ねさせながら、エミリーは頷いた。

 そして差し出された手にそっと手を重ねる。


「あっ……と、とにかく俺からもまたドレス贈るからな!」



 アドルフの切羽詰まったような声に、エミリーはきょとんとしてアドルフを見つめる。

 その声に何となく素直に受け取ったほうがいいのだろうかという気持ちになり、エミリーが頷いた。


「ありがとう! それなら動きやすい服が嬉しいな」


 エミリーはにっこり笑い、返事をすると、ルーカスにエスコートされ部屋を出て行った。


 アドルフははーっとため息をついてエミリーの姿を見送る。


「……いや……だからそうじゃないんだよ……」


 力のない悲しげな声で呟くアドルフに、部屋に残された者たちがそっと励ますようにアドルフの肩に手を置いた。






「ふっー」


(大丈夫よ。大丈夫。以前のように振る舞えばいいのだから……)


 エミリーは深呼吸をして自分に言い聞かせる。

 最近は貴族令嬢のマナーとは無縁の生活をしていたので、変に緊張してしまう。

 王太子の婚約者であったころなら、他国の王侯貴族と会うのは日常のことだったのだ。


 エミリーは大きな扉の前でもう一度大きく深呼吸をする。



「エミリー? 大丈夫か?」


 エミリーの様子に隣でルーカスが心配そうに見つめる。


「ええ。大丈夫です」


 ルーカスはエミリーの表情に苦笑を浮かべる。


「大丈夫そうには見えないな……」


 ルーカスはエミリーの手を取ると、両手で優しく握り込む。


「大丈夫。我が獣王国はエミリーを歓迎している。父上も母上もエミリーに興味津々なんだ。獣王国では光属性の特殊魔法を扱うものなどほとんど生まれないからね。君自身を知りたいのだろう。だからいつも通りのエミリーで大丈夫なんだ」


 ふっと優しげに微笑むルーカスに、エミリーの固まっていた体がほぐれていく。

  エミリーはルーカスに向かって微笑み、大きく一つ深呼吸をする。


(そうね……優しいルーカス様のお父様とお母様だもの。きっと大丈夫よね)


 エミリーの様子にルーカスはニコッと微笑み、小さく頷く。


「それじゃ行こうか?」


 ルーカスの言葉を合図にゆっくりと謁見の間に続く扉が開いた。

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