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到着

「すまない。話が逸れてしまった」


「いえ。私が途中で質問したせいですから」


 エミリーの言葉に笑みを浮かべると、ルーカスは続きを話し始めた。


「光の木が枯れかけたのは王宮内に魔族が侵入したことが原因だった。魔族は王子を操り、国を乗っ取ろうとしていたんだ」


「獣王国の王族である王子は魔力耐性が高いはずですよね? その王子を操ったのですか?」


「ああ。とても力の強い魔族だったようだ。当時、獣王国には二人の王子がいたのだが、体が弱く、魔力耐性の低い第一王子を狙ったようなんだ」


 まさか滅多に現れない魔族が関わっていたことも驚きだが、国まで乗っ取ろうとしていたとは……


 魔物は魔族に従うと言われている。

 そして魔物と魔族は闇属性の魔法を扱い、光属性の魔法に弱いとされている。

 エミリーの力に魔物の動きが鈍くなったのもそのためだ。



「光の木は闇の力を操る魔族にとって邪魔でしかない。だから光の木を排除しようとしたのだろう。しかし、光の守り手によってそれは阻まれた。魔族のかけた闇属性の魔法を解いただけでなく、枯れかけた光の木を元に戻すどころか、あそこまで大きく成長させたんだ」


「そうなのですか……すごいですね……」


 自分にそんなことができるかと考えると絶対に無理だとエミリーは思う。

 枯れそうな植物を元気な状態に戻すことはできても、あんなに大きく、王宮を覆うほどに成長させるなど……まさに異常なほどの魔力だ。



(五百年前の光の守り手は途中で力に目覚めたらしいけど、私はずっと魔力を使ってきたから、自分の魔力量がだいたいどれくらいかわかるもの……)


 みんなに期待されながらも、その期待には応えられないのだと思うと、どうしても落ち込んでしまう。

 そんなエミリーの様子にルーカスは苦笑を浮かべる。



「エミリー? 私は別にあなたが守り手であるかどうかはどちらでもいいと思っている。光属性の特殊魔法自体が珍しいのだから、それを使えるだけでも貴重な人材だ。それにエミリーはあれほど光属性の魔法を使いこなしているんだ。誇っていいと思うぞ? それに何よりアドルフを助けてくれた。それだけで十分だ」



 今まで光の守り手であることこそが重要なのだと思っていた。

 ヴァージル王国でエミリーが王太子の婚約者となったのは光の守り手であると言われていたからだ。

 みんなから光の守り手として期待されたエミリーにとって、こんなふうに言われたのは初めてだった。


 思わぬ言葉にきょとんとしてルーカス見つめる。

 そんなエミリーにルーカスは柔らかい笑みを見せる。


「本当にアドルフを助けてくれてありがとう」


 その優しげで暖かな微笑みに、心がぽっと暖かくなる。

 エミリーはくすぐったい気持ちに頬が自然と(ほころ)ぶ。


「ルーカスさん、こちらこそ、ありがとうございます」






 そうして話している間に気づけば王宮の入り口についていた。

 門が開き中に招き入れられ、エミリーは目を見開いた。


 遠くから見ても美しい建物だったが、近くで見ると細かい細工もはっきり見え、さらに素晴らしい。

 木が美しい王宮を(おお)う景色は壮大で、神秘的な雰囲気も感じられる。



「おかえりなさいませ」



 それまで動き回っていた使用人がルーカスの姿を見ると、ピタリと動きを止め、みんなが頭を下げる。

 ずっと気軽な感じで接してもらい、アドルフたちも仲の良い友達のような口調だったので、ルーカスが王族というのを忘れそうになっていた。

 しかしこうしてみんなに敬われ、威厳のある姿を見ると、やはり彼は王族なのだと思い知らされる。



(みんな良い表情をしているわ……きっとルーカス様は良い王太子なのね……)


 その場にいる人の表情や態度でエミリーはそう確信する。

 これほど敬われているのだ。

 きっと獣王国の王族は国を良い方向に導ける素晴らしい人たちなのだろう。


 それに比べてヴァージル王国はどうだろう……

 それまで安定して国を治めていた陛下は謎の病により、眠り続けている。

 それを支えていた宰相もまた同じように眠り続け、その代理の息子たちは一人の女性に入れ込み、挙句精神操作されるという悲惨な状態だ。


 エミリーは国外追放された身だ。

 今となってはどうすることもできないが、せめて自分の領地の民だけは健やかに過ごせるようにと願わずにはいられない。



「エミリー、手を」


 エミリーがその声にはっと気づくと、ルーカスが馬をおり、エミリーへと手を差し出していた。


(ダメね……自分の考えに集中しすぎちゃったわ)



「ありがとうございます」


 エミリーがすぐに笑みを作り答えると、ルーカスは穏やかに微笑んだ。

 太陽に照らされキラキラと光を反射する髪にどこか神秘的に見える白虎獣人特有の耳と尻尾、明るい日差しの中でさらに鮮やかに見える蒼色の瞳。

 芸術品のように美しい笑みを見せるルーカスを直視したエミリーはドキッと心臓が大きくはねた。

 自分を落ち着かせるため大きく息を吐くと、エミリーはルーカスの手にそっと自分の手を重ねた。

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