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獣王国の守り手

「え? 城?」


 エミリーはポカンとした顔でルーカスを見つめる。


(今、『我が城』って言った? 城って普通に考えれば王宮のことよね? 王宮ってことはまさか……)


 エミリーの表情で混乱が伝わったのか、バーナードが説明をしてくれる。


「ルーカスはこの獣王国の王太子でもあるんだよ。王族は白虎獣人ってのは獣王国では常識なんだが、あんたは外から来たから知らないのは当然だよな」


「お、王族!?」


 エミリーはすぐさま頭を下げる。

 しかし、それを止めるように、ルーカスがエミリーの手を取った。



「そう、かしこまらなくていい。あなたは貴重な光属性の、しかも守り手とまで言われた人だ。どうか王宮で保護させてほしい」


「で、ですが……私は光の守り手ではありません!」


 ルーカスはエミリーの言葉に不思議そうに首を傾げる。


「なぜ光の守り手ではないと思うんだ?」


「私は光の守り手と噂されるようになってから、歴代の守り手たちの文献をひたすらに読んできました。その全てが素晴らしい力で、とても大規模なものでした。私にはそれほどの力はありません……ですから私は自分が光の守り手とは思っていないのです……」



 隠していれば王宮で安全で安心な暮らしができたかもしれない。

 しかし、(だま)すようなことはしたくない。

 ヴァージル王国ではそう思いながらも、あえて否定はしなかった。

 その結果、国を追われることになったのだ。


 誰かに自分が守り手だと言ったわけではない。

 あれは間違いなく、マチルダの思惑が絡んだ精神操作の魔力のせいである。

 しかし、それでももっと大声でそう宣言していれば、何か違っていたのではと、どこかで思ってしまうのだ。


 ルーカスはエミリーを見つめるとふっと笑いかける。


「あなたはとても誠実な人のようだ。確かに文献に載っている光の守り手たちは大きな力を持っていた。だがその全員が最初から大きな力を扱えていたわけではない」


「それはどういうことですか?」


 エミリーは(いぶか)しげにルーカスを見つめる。


「エミリーは五百年前の光の守り手の文献を読んだことはあるか?」


 エミリーははっと目を見開く。

 いろいろな文献を見てきたが、五百年前の光の守り手の文献だけほとんど見つけられなかったのだ。

 五百年前の光の守り手は歴代の中でも最高峰の力を持っていたと言われている。

 しかし文献がなかったので詳細はわからない。



「ルーカス様は五百年前の光の守り手の詳細な文献を見られたことがあるのですか?」


「ああ。五百年前の光の守り手は私の先祖にあたるからな」


「え?…………」



 エミリーは大きな衝撃を受けて固まる。

 まさかあれほど探しても見つからなかった光の守り手が獣王国の王族に関係するものだったとは思わなかった。

 獣王国は国交を絶っていたのだから、そう考えればヴァージル王国に情報がなかったことは当然だ。


「で、では五百年前の光の守り手は獣人だったのですか?」


「いや、違う。確かに獣人は神の力の一部を預かっているとされている。だから魔物に対する耐性が強いんだ。その中でも獣王国の王族はさらに他の獣人より耐性も強く、光の神の使いとも言われている」


(獣人たちが光の神の使い? 初めて聞いたわ……)


「しかし五百年前の光の守り手は人間の女性だったんだ」


「人間だったのですか?」


 獣人が神の使いと言われていたのも初めて知ったが、ルーカスの先祖が人間であり、光の守り手だったということは驚きだ。

 人間であったということは、他国から国交を絶っているはずの獣王国に嫁いで来たということなのだから。



「ああ。彼女は元々ローゼンタール国の平民の女性だったようだ」


「その女性がなぜ獣王国に?」


「五百年前、ローゼンタール国に迷い込んだ獣王国の王太子を彼女が助けたそうだ。しかし彼女は魔力すら無いと思っていたようで、魔法も全く使えなかったようだ。しかしその彼女が突然、光の守り手の力に目覚め、次第に大きな力を使えるようになった」


 エミリーはずっと探していた五百年前の情報に驚きつつも、聞き逃すまいと真剣な表情でルーカスの言葉に集中する。


(もしかしたら私ももっと大きな力を扱えるかもしれないってこと? でも、それは本当に私が守り手だった場合よね……)



 エミリーの表情にルーカスはにっと口元を引き上げゆらゆらと楽しげに尻尾を揺らす。


「どうやら相当興味があるようだな?」


「それは……ずっと探していた情報ですから……」


 エミリーが素直に告げると、ルーカスはさらに笑みを深めた。


「それならやはり、王宮に来るべきだ。彼女の力が最高峰と言われた所以(ゆえん)は獣王国を支えるほど大きな光の木を育てあげたからだ」


「光の木ですか?」


 初めて耳にする言葉にエミリーは首を傾げる。



「光の木は確かにすげーよな。あれは初めて見たら圧倒されるぜ! それにあの木のおかげで獣王国は守られているんだ」


 それまで黙って会話を聞いていたバーナードの言葉にアーノルドとファハドも同意するように頷く。

 エミリーの興味がさらに強くなったことに気づいているのか、ルーカスがダメ押しのように告げる。



「光の木は王宮の中庭にあるから、王宮まで来ないと見れない。国宝だから、王族の許可がなければ間近では見れないんだ。さらに五百年前の光の守り手の文献も王宮にあるし、こちらも持ち出し禁止だから、王宮でしか読めないぞ」


 さぁどうする?とでも言うように、ルーカスが首を傾げる。

 獣人特有の縦に長い瞳孔が、まるで獲物を狙っているようにきらりと光る。

 その美しくも妖しげな光に魅入(みい)られそうになり、ぶんぶんと頭を振って、エミリーは考える。


 今のままずっとこの森で過ごしていく訳にもいかない。それならばやはり何か動き出さなければいけないのだ。


 エミリーは覚悟を決めるとパッと顔を上げた。


「それではルーカス様、そのご招待お受けいたします。どうぞよろしくお願いします」


 エミリーの言葉にルーカスは満足気に微笑んだ。

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