恥をさらして生きてます。
「いやぁ、やはりこのカップルはいいですなぁ」
部屋から聞こえてくる少し・・・かなり気持ちの悪い声。一応、女の子の声なので気持ち悪いは辞めてあげるべきなのだろうが残念なことに彼女をマイルドに表現する言葉は出てこない。
それがこの水瀬栞の残念なところなのだろう。
彼女を理解するには少し時間を巻き戻し数時間前へ。
高校生の彼女は当然、平日は学校にて勉強に勤しんでいる。勤しんでいる。はずである。
そして昼食の時間は一人教室の端っこでクラスの女の子たちが最近流行りのコスメやアイドルの話をつまみに母の作った弁当を食し、誰と会話するでもなく午後の授業へ入る。授業自体は滞り無く終わり用事があるのかさっさと片付けて帰る者、部活に向かう者、教室で談笑している者、色々といるが彼女はそのどれにも属さない。敢えてどれかに合わせるのなら一番初めの「用事があるのかさっさと帰る者」に該当するのかもしれないが決して彼女はそうでは無かった。用事が無いからさっさと帰る。そして彼女の中での用事と他者との中での用事とは大きく異なる物であるということを知っておいて貰わなければ後で後悔するだろう。
そう、ここまでで既に察している人も多いだろうがこの水瀬栞、友達がいない。友達がいない。重要なことなので二度言いました。そんな訳でさっさと誰もが彼女の存在に気づく間も無く自宅に到着。ここまでの話であれば「彼女には友達がいない」で終わる話なのだが残念ながらそうはいかないのがこの物語の始まりなのである。というか始まらない。スタートボタンを押したらエンドロールが始まったぐらいの速度で話が終わってしまう。それを避ける意味も込めて彼女の話をもう一つしようと思う。
今、彼女が読んでいるペラペラの本はこんなにも薄いにも関わらず1000円ほどするらしい。ただ薄ければ高いというのであれば紙幣は全て一万円札では無くてはいけなくなるので値段に関してはご了承を頂きたい。ひとまず、薄い本は高いのである。何故か!
これを世の中に伝えたい訳では無いのであるが高いのである。クリエイターへの敬意代としておこう。つまりのところ彼女は俗にいう同人誌とやらを読みながら不気味な笑いをしていたというのが答えであり最初に戻る。
これを一言で表そう。
「彼女はぼっちでオタクだ」
全く一言では無かった。そしてこの一言で済むにも関わらず話を引き延ばしたのには一応、彼女の良いところを伝えようと努力した結果だと理解して欲しい。