『優しいイケメン王子』と『健気な美しい公女』
昨日に引き続き投稿です。
神殿で別れる時ですら、アレクサンダーは気持ち悪い『優しいイケメン王子』を演じていて、グレースの方も、それにこたえる『健気な美しい公女』を演じていた。
どうやらこのスタンスが2人の外面として定着しそうではある。
今、王宮にやってきて第二王子宮に通されアレクサンダーと対面しても侍女がいる間はこの『外面スタンス』を演じ続けている。
侍女の前ですらこれを覆すつもりはないらしい。
アレクサンダーはおそらく人を簡単には信用しないタイプなのだろう。
まぁそれはグレースも同じだ。
ロージー時代に、母が死んでからは伯爵家の使用人はすべてシエナの母の息がかかっていたから本当の自分を見せたことはなかった。
ひとりになってはじめて部屋の中で悪態をついていたものである。
きっとアレクサンダーも小さい頃苦労したのだろうと自分に重ね、少し同情してしまう。
王宮にはスパイも山ほどいるだろうし。
ロージーが死んだときみたいに毒を盛る輩もたくさんいるに違いない。
「おまえたち、少しはずしてくれないか。グレース嬢と2人で話したい」
アレクサンダーがそう言って侍女たちを下がらせると、突然素のアレクサンダーが顔を出した。
「今日真っ先に挨拶しなければならないのは、ガルフレッド王国から来てくれた母の弟の大公殿下夫妻だ。あとはしばらく俺に付いてきてもらう。それでダンスを1曲踊る。あと、結婚の発表についてはダンスの前に壇上で発表する」
「わかったわ」
神殿でみなに1年後に結婚したいと、2人雁首をそろえて言った時には、国王陛下も父も母も兄も目を丸くしていたが、仲のいい『外面スタンス』を演じつづけたためみんなは喜び信じてくれた。
「身体の弱いグレース嬢を僕が支えたい」という歯の浮くようなセリフを堂々と言ってのける演技派王子には心の中で苦笑しつつも、その場で1年後の挙式が決まったのだった。
「って。お前、ダンス踊れるのか?」
「失礼ね。踊れるわよ」
「だが、ずっと部屋にこもっていたんだろう?だいたい身体が弱かったはずだろ。今はそんなふうには見えないが…」
転生していることがバレやしないかとドキッとする。
「ええ。記憶をなくしたのは高熱を出したからなんだけど、どうやらそのときに病弱な身体も忘れてしまったみたいよ。その後とても調子がいいの。自分が病弱だったなんて信じられないのよ」
「ほんとに?」
疑り深い性格。
これも王宮の環境がなせる業だろう。
しげしげとグレースの瞳をのぞく。
これだわ。
この視線。
これがほんとのアレクサンダー殿下なのだわ。
神殿での違和感。
それは最初に感じたこの瞳とそのあとの気持ち悪い『優しいイケメン王子』とのギャップだ。ウソのアレクサンダーが気持ち悪かったのだ。
「ほんとよ。最近じゃ毎日庭の散歩も欠かせないわ。まだ体力がありあまるほどではないけれど、ダンス1曲くらい踊れるわ」
ダンス自体はロージー時代に何度も踊っている。心配なのは体力だけだ。だが1曲くらいならなんとかなるだろう。
「ふうん。まぁいい。1曲くらいなら俺が体力を使わなくていいようにリードしてやるからまぁ何とかなるだろう」
「お願いします」
ここは従順に従っておこう。
「おっ。頭を下げる事もできるんじゃないか。プライド高いだけの奴だと思ってたのにな。ホントに記憶なくして違うやつになったみたいだな。お前」
またしげしげと見つめてくる。
こんなイケメンに穴が開くほど見つめられるという経験がないグレースは思わず視線をそらせてしまう。
サミュエルもイケメンだったが、(まあアレクサンダーの足元にも及びはしないが)彼はロージーを愛していなかったし、伯爵家というブランドに惚れただけの男だったので、見つめられた経験はない。
そう思うと、ロージーのころも結局仮面夫婦を演じようとしてたんだわ。
結局同じことよね。
「おい。何考えてる?」
「え?」
顔をあげたら、まだそこには碧く深い瞳があった。
だからじっと見つめないでってば。
「何も。あなたは少し考えた方がいいわ。アレクサンダー殿下」
「何をだ」
「あなたが人をじっと見つめる癖よ。とても…なんていうかくすぐったいから」
「は?」
と、しばらくかたまっていたアレクサンダーはその後、真っ赤になった。
「な、なに言ってんだよ。おまえ」
アレクサンダーが赤くなったらグレースまで赤くなってしまう。
「だ、だって。そんな穴が開くほど人を見つめたらあなたイケメンなんだから調子がおかしくなるっていってるのよ。人としての接し方の問題よ」
「ばかじゃねーの?お前」
「ばかで悪かったわね。これでもそれなりに…」
勉強はできたほうだし、領地経営だって…
そこまで言いそうになってあわてて口をつぐんだ。
グレースは領地経営なんてしないし、学んでもいないだろう。
「それなりになんだよ」
あんなに言ってもまた穴があくほど見つめる。
「なんでもないわ。それより、もうそろそろ時間じゃないの?」
話題をそらせるしかない。
アレクサンダーが壁にかかる時計を見た。
「おお。ホントだな。そろそろ陛下のところへ行こう。」
アレクサンダーが立ち上がり手を差し出したのでグレースも立ち上がり手を取った。
さて、また『優しいイケメン王子』と『健気な美しい公女』の登場ね。
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