サミュエルとかマキシミリアンとか…そしてアレクサンダー自身のこととか…
「殿下。クレーバーです」
ケニアが連れて来たサミュエル・クレーバーは髭をそり、丸坊主が伸びてぼさぼさしていた髪は短髪にして、さっぱりとしている。
ケニアと同じ護衛騎士用の服を着た姿はまだまだ様になるには程遠いがこれから先どうなるか…は本人次第といったところか。
「アレクサンダー殿下。本日より勤務いたします。クレーバーです。以後、よろしくお願いいたします」
この男が更生できるのかどうかはわからないが使ってみようと思ったのは、シエナが完全に死んでから、我を思い出したかのようにロージーに済まないことをしたと泣いて悔いていたためだ。グレースが魅了を封じていたとはいえ、やはり魔女本人が死んだことで完全に魅了が解けたのだろうと思われる。
おそらく長く魅了から支配されていたからだろうとランバートは言っていたが…。
返す返すも魅了は怖い。
法律改正を急がねば…。
あの場所で証言をしてくれたことにより、レイトン王国やその周辺諸国が救われたことは確かで、この男にも恩恵は必要だった。だが、またクレーバー家に返したところで、小さな子爵家の次男で、一度目の婚約者だった家が断絶したことにより、もう行き先もないであろうこの男を野放しにするのもはばかられたというのもある。
おそらくまた犯罪に手を染める人生になってしまうだろう。
ちなみにシエナ・ガードナーは姉殺しの罪を着せられ、その場で断罪されたと伯爵家に通達が送られ、シエナの父と母は驚き、何かの間違いだと反発したというが、サミュエル・クレーバーの証言により、2人もロージーおよび、その母の殺害に係っていたことがわかったと言い渡され黙り込んだという。シエナの魅了にかかっていた両親も被害者と言えば被害者だが、これ以上は助けられない。2人は国外追放となりガードナー伯爵家は断絶となり、ガードナー家の領地は王家の直轄となった。
グレースの思惑通り、歴史あるガードナー伯爵家は姿を完全に消したことになる。
「ケニアからすべて聞くように。お前は身体を鍛えるところから始めねばならない。悔いているのならレイトン王国の騎士としてレイトンに尽くし人生を終えよ。よいな」
「かしこまりました」
あとはケニアにまかせよう。
アレクサンダーは公務に向かった。
未だに王子という宙ぶらりんな立場だ。
第一王子のマキシミリアンも王太子になることはあきらめておらず、父の国王も後継者はなかなか決めてくれない。
今は第二王子としてできうる限りのことをこなし努力するのみ。
王太子用の執務室に向かうと、もうすでにマキシミリアンは来ていて書類を確認しているところだった。
父王は2人に王太子の公務を半期交代で分担させており、今期は財務系はマキシミリアンがやっていて、運営系をアレクサンダーがやっている。
「おそいぞ。アレックス」
「兄上はお早いですね。さすがです」
たまにはおだてておこう。
いいことがあった日くらい。
どうやら結婚が決まったらしいというのはさきほどニコラスからの連絡で聞いたところだ。
「兄上、おめでとうございます。ご婚約されたのでしょう?たいそう美しいメルリブ伯爵家のご長女だとか」
「あ、ああ。おまえどこでそれをっ!」
「いい噂はすぐに広まるものです」
メルリブ家はゴリゴリのチェックマイスター派でもともとチェックマイスターの血筋からの分家の分家くらいの伯爵家だ。領地もよいところをもらっており、それなりの家で長女は古風で奥ゆかしい系統の結構な美人で舞踏会でも人気だったはずだ。
問題は少し年上だというところか。
奥ゆかしすぎて相手がなかなか決まらなかったという噂だが、チェックマイスター派の中では妃とするには一番妥当な線だろう。
「ま、まぁな。それはそうだ」
「ぜひまたご紹介くださいませ」
「ああ。わかっている」
柄にもなく照れているようだ。
「その、なんだ。今度グレース嬢とともに晩餐でもどうかなと思っているんだが」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
俺は別にかまわないが、あれだけ毛嫌いしていた俺と晩餐だと?
「あ、ええ。わたしの方はいつでもかまいません。またお誘いいただければ」
「ならば、年明け早々にでもまた予定を組むから。いや、年内にでも予定が合うならな。早いに越したことはない。」
「はい。ぜひ」
なんだそりゃ。
そんなにうれしいのかねぇ。婚約って。
自身と重ねあわせてみて、アレクサンダーは思わずため息をついた。
ほんとは嬉しいもんなんだよな。婚約って…。
俺の場合が特殊だったってことだよな。
今からでも…遅くないよな。絶対。
◇
「キャメルロードの王女をですか?」
「ああ。打診があったがどうする?」
「そ、それは…」
「どうした?そなたは王太子になるためなら何でもするとのたまっていたではないか」
ガリレオ国王は期待の息子であるアレクサンダーを探るような目つきで見ている。
アレクサンダーは長い沈黙の後に答えた。
「少し時間をいただけますか。年明けには返事します」
「そうだな。年明けに話を聞こう。その間に心を決めるがいい」
「はい」
心は重かった。
レイトンの国王になるためならなんでもする。
それがアレクサンダーの信条だったはずだ。
小さいころからチェックマイスター派の多いこの王宮で肩身の狭い思いをしながら生きて来た。
毒殺されかけたことも何度もある。
そんな中努力してしまくって、第一王子のマキシミリアンより優れた王子だとみなに認めさせた。
そして、もう一つの筆頭公爵家の娘と婚約し、もうすぐ結婚もする。
後ろ盾としては申し分ない家だから、娘とは仮面夫婦でよかった。
第一王子はもうすぐチェックマイスター派の令嬢と結婚する。無難なその結婚はさらにアレクサンダー王太子論を後押しするだろう。
もうあと一押し。
そんな中、降ってわいたような話じゃないか。
キャメルロード王国からの王女を献上するという話。
この俺にだ。
キャメルロード王国は友好国ではないが、仲が悪いわけでもなく、中立を守ってきた国だが、今回王女を献上することで歩み寄り、貿易を行おうという話になったらしい。要は同盟を結ぼうという話。
それで、白羽の矢が立ったのがアレクサンダーだった。
おまえの第二夫人にすればよいとガリレオ王は言った。
それで王太子はおまえのものだと。
もしお前が拒否するならマキシミリアンにこの話を持ち掛けるつもりだと。
即答すればいいじゃないか。王女を第二夫人として受け入れると。
その王女がどんな女かなど関係ないではないか。
自分が国王になれるなら…。
けれど、できない。
どうしても。
どうしても俺は…。
サブタイトル悩みました。
何でつけたらいいのかしら…




