ランバート祖国へ帰る
お久しぶりです
先日までの喧騒がウソのような静かな王宮で、グレースはゆっくりとお茶を飲んでいた。
前にはランバートが座って同じようにお茶を飲んでいる。
事件の事後処理は国王が現場に立ち会っていたこともあり、迅速かつ秘密裏に行われた。
現場の店は王家の行きつけの店だったのもあって、厳重な箝口令がしかれたため未だに世間ではシエナの悪行は明るみに出ていない。
ベル王国の王太子であるランバートが事件に大きくかかわっていたこともあるし、レイトンの第一王子と第一妃が魅了にかかってしまったという王家として面目ない事態もあり、決して公にはできないのだ。
アレクサンダーはあの後忙しくしており、ほとんど会えていないし、グレースもランバートも国王やアレクサンダーに呼ばれて色んな処理があり、バタバタしている。
だがようやくグレースとランバートの方は落ち着いたらしく、ゆっくりお茶を飲むことが出来ている。
事件から一週間が経っていた。
「帰るのですか?」
「うん。国を放っておくわけにはいかないからね」
「そうですか…」
ランバートは最初は性格の悪い人だと思っていたが、今では印象が変わっている。
ランバートの助けなしにシエナには勝利できなかっただろう。
感謝しかない。
「改めて。お世話になりました。ランバート殿下がいらっしゃらなければ今頃レイトンは…」
「いいよ。そういうの。魔女の出現はうちにとっても他人事じゃないからね。潰したい気持ちは同じさ」
「ありがとうございます」
「こういうこと、うちでも起こる可能性あるし、お互い様だよ。ま、レイトンも法律変えなきゃだよね」
ベル王国では既に魅了については使ったことがわかった時点で死罪に確定するという重罪に指定されている。証拠さえあれば国王、もしくはその権限を代行する者承認の元、現行犯死刑を執行できることになっているらしい。
近いうちに法改正はするとアレクサンダーは王と話を進めているところらしい。
「それよりさあ。グレースちゃんと魔力の相性抜群だよね。ねえ。アレックスやめて俺にしなよ」
「は?」
ティーカップをストンと置いたと思ったら、ニヤッと笑ってそんなことを言い出した。
「あんな女たらしやめときなって。だいたい結婚したって他に女作るよ。アレックスは」
うっ…。
チクっと胸の奥が痛む。
何故だろう。
「それは…王族ですから…」
「俺はそんなことしないけどね。王族だけど、一途だし」
「いや…その…」
「まあ。考えといて。魔力の相性求めるなら俺は悪くないと思うけどね」
いやいや……それはですね……。
そのときだ。
「聴きづてならないこと言うなよ。誰口説いてんだ。ったく…」
アレクサンダーが入ってきた。
横にフィオーネ王女がくっついている。
久しぶりの登場だ。
「お兄様。あら、グレース嬢と、お似合いですわよ」
「そう思うだろう。フィーも」
「ええ。とても」
そしてベェーとグレースに向かって舌を出す。
はぁー。もう本当に…わがまま王女ね…。
「ランバート殿下。あの…またお手紙を書いてもよろしいでしょうか?」
「は?」
グレースが言うとアレクサンダーがギョッとしたように目を見開いた。
「ランバート殿下の魔道具の技術は素晴らしいと思います。だからわたしもいろいろ試したいと思っていて…アレクサンダー殿下が認めていただけるなら…今後も色々と教えていただけたらと…。もちろんお手紙の内容は事前にアレクサンダー殿下に吟味いただきますから」
もっと魔力をいいことに使えたらと思っていた。
シエナを排除した今特にそう思う。
せっかくの魔術。
レイトンの発展のために使えたら…。
「そうだね。いいんじゃない?ねぇ。アレックス。当然許してあげるでしょ?寛大な婚約者様?」
アレクサンダーの顔は少し眉を釣りあげてはいたが、それでも
「まあいいだろ」
と許可が降りた。
よし、魔術の発展…がんばろう。
魅了を扱う魔女についても文献を残しておかなければならないわ。
今後出てきた時のために。
その日の夜にはベルに戻るのだと言って、アレクサンダーにまとわりつくフィオーネに、イライラする心をどうしても抑えられない自分を戒めながら、グレースはニコニコ笑っているしか無かったから、心を魔術のことに飛ばし、どんな魔道具を作れば国の発展に寄与できるだろうかとそちらのほうへ考えを飛ばしていたのだった。




