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サミュエルの屑っぷり

「着いたぞ」


まだ暗い。もうすぐしたら夜が明けるはずだが…


ランバートの魔道具は、行きたい場所にいる人間の体の一部があれば勝手に探して辿り着くというもので、頭を丸めた時の髪がまだ処分されずに残っていたものを魔道具にセットしたら勝手に馬車をそこまで運んでくれた。


「うーん…」


グレースがまだ眠たそうに目を開ける。

かなり泣いたので目が結構腫れている。


「お前、少し目を冷やしたほうがいいな」


「え?もしかして、腫れてる?」


「ああ。結構不細工」


「え」


焦って、シュンとしながら、顔を隠そうとする。


「ウソだよ。お前はいつでも綺麗だって」


そしたら顔を上げた。


「あ、いいこと思いついた」


「どうしたんだ?」


「目が腫れてるからそれを利用すればいいのよ」


「は?」


「ロージーの幽霊になるわ」


「は?はあ?」


「サミュエルのバカの枕の上にロージーの幽霊になって出てやるのよ。そしたら言うこと聞くでしょ。バカだから」


マジかよ。そういうこと考える…?

けどいいアイデアではある。


単純なこすい男だったからコロッと騙されそうだ。


「わたしが枕元でシエナの罪を白状しないとずっと呪ってやるからぁ~。あの女を地に落としてぇ~。って演技をするから。それで、今日ローギアからやってくる人の言うことを聞きなさいって言い含めるわ」


「ぷっ…わかったよ。で、俺が証言しろって言ったらいいんだな。飴も必要だけどな」


「ええ」




そのあと、魔術で一時的にロージーになったグレースがさらに足を消した状態で腫れた目でサミュエルの枕元に立った時のサミュエルの腰を抜かした顔はいつ思い出しても笑わずにいられない。


朝だったからか、オシッコまで漏らしていてとてもじゃないけど、イケメンとは程遠かった。


それからしばらくして、クレーバー家を訪問したアレクサンダーは、半ば強制的にサミュエルを連行し、両親を驚かせたが、サミュエルには少しローギアで用事があるとだけ言わせて馬車に乗せた。


「困ったことが起きてなあ。お前の力が必要なんだ」


さも助けてほしいと言うように言葉を紡ぐ。


「は、はいっ!」


幽霊ロージーに言い含められているサミュエルはなんでも言うことを聞きそうな勢いだった。


「君のもと婚約者のロージー嬢の妹が今伯爵家を継いでいるのは知ってるだろう?」


先日、父親の伯爵が娘に伯爵位を譲った。だから今はシエナが伯爵なのだ。


「あ、ああ。あいつですか」


顔色が変わる。


案の定だ。

シエナに捨てられたのだろう。


「シエナ女伯爵だよ。彼女にねぇ。困ったことに姉殺しの容疑がかかっていてねー。どうやら針葉樹林で遺体が見つかったらしいんだ」


ビクッと反応する。


やはり針葉樹林に捨てたんだな。

おそらく今頃は魔物の腹の中だろう。

グレースの前世の女性がそんな目に遭ってると思うと腹立たしく感じた。

だからこそ、シエナとコイツを排除する必要がある。


「しかも体の中からは毒物反応が出ていてね。伯爵家の侍女をあらってたんだが…

ロージー嬢が消えた日にキミがシエナ女伯爵と一緒にいたと証言しているんだ。

これはどういうことかな?」


ニコッと笑みを浮かべると、サミュエルはフルフルと首を横に振った。


「し、知らない。俺は何も知らないぞ」


「あ、そうかい。じゃあ王宮の地下牢に入ってもらうことになるなぁ。キミが証言してくれたら助けてやろうと思ったんだが…仕方ない。裁判を受けてもらおう」


最後の言葉を吐きながら、サミュエルの首元を掴んだ。


「裁判に勝てることなどないと思え。ただ時間だけが過ぎていく。長い長い余生を地下牢で過ごすことになるだけだぞ。親兄弟にも迷惑をかけるだろうなぁ」


「いや…いや、俺はただ…シエナに騙されてたんだ!あの女が、ロージーを殺せばわたしたちが幸せになれると甘い言葉を…吐くもんだから…」


しどろもどろだ。


屑だな。

ったく。


「シエナはなぁ…魔女なんだ。あの女にお前は操られていたんだよ。かわいそうに」


「え?魔女?」


「そうさ。怪しい魔術で人を操る魔女さ。だから早く死んでもらわなきゃなぁ。今の言葉証言できるか?」


「お、俺が…助かるなら…証言できる」


「ああ。助かるさ。お前は操られていたんだからなぁ」


「わかった。やる。やるよ」


「よーし。では頼むぞ。しばらく眠ってろ」


そしてアレクサンダーはサミュエルの鳩尾に1発入れた。

うっとうめいて気絶する。


このまま着くまで寝かせておこう。


「グレース」


姿を消していたグレースに呼びかけると、アレクサンダーの横にぼーっと姿が現れた。


「クズ男!」


「よくこんなのと婚約してたな」


「ええ、伯爵家を維持するためだった。でももう地に落ちたわ。この件が片付いたらガードナー伯爵家はつぶしてね」


「いいのか?」


「ええ。古き良き家のまま…終わったほうがいいもの」


「わかったよ」



そのまま、今日の夜の打ち合わせをして、2人は緊張しながらローギアへと戻ってきたのだった。

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