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魅了封じ

「シエナは…魅了を扱う魔術師…いわゆる魔女なのです」


『魔女』

魔術師の中でも世間に莫大な害を及ぼす魅了を扱う女の魔術師のことをそう呼ぶ。


「シエナが魔女だとわかってから、彼女が出るパーティーなんかに顔を出して魅了封じを地道に施してました。けれどキリがなくて…」


顔を上げてアレクサンダーを見ると気難しい顔をして横を向いていた。


「この間、ランバート殿下ご姉兄妹との晩餐のあと第一王子宮を兄とともに歩いていたら、出会った侍女や騎士たちからシエナの魔力光が見えて…ここにまで来てるのかと…絶望して…それで…今日舞踏会で…マキシミリアン殿下とヒラリー殿下までもが…シエナの魅了にかかってることがわかって…さらに絶望感が押し寄せてきて…」


さらにアレクサンダーを見ると怒ってるのかかなりのしかめ面だ。


「あ、魔力光っていうのは魔術師が持つ光で、魔術師の体全体がその色に光って…………」


と、魔力光や魅了のことをアレクサンダーに説明した。


ら…



「わかったから続けろ」


と静かにムスッと言ったのでそのまま続ける。


「過去に魅了を扱う魔女が君臨した時代は必ずその王国に危機が訪れてひどい時は王国が滅亡しています。だから何があってもシエナを潰さなければならないのです。けれどもうここまで来たら…」


「捕まえるだけなら、何か理由はいくらでも見つけられるぞ」


ようやくアレクサンダーが普通に話してくれた気がした。怒っていることは確かだろうけれど…

少しホッとする。


「それはそうなんだけどね。例えば地下牢に入れたとしても、牢番の下男を魅了してすぐに牢から出るだろうし、裁判かけても裁判官魅了するからね。埒があかないんだよ」


「ああ…そういうわけか。待てよ。あの女、さっきダンスの時俺の耳許で歌を歌ってたぞ。なのに俺は魅了されてないよな?なんでだ?」


う、歌を?

じゃあ今舞踏会場でも?


ゾッと背筋が凍りそうになる。


「それはアレックスがグレースちゃんと繋がってるからさ。魔術師は魅了にかからないんだけど、その魔術師と強く繋がってる人たちはかからない。けどまずいな。今頃ホールの中は魔女の手下だらけになってるぞ」


「どうしましょう?」


焦りしか出ない。


「とりあえず、あの魔女を外に誘い出そう。その間に魅了封じを俺たち2人でかけるしかないね」


「待て。誘い出すのは俺ということか?」


「そりゃそうさ。なんとか考えて甘い言葉でも吐いて、王宮から出させるしかない。得意分野だろ?大丈夫だ。アレックスは絶対かからないから」


「わかった。じゃあなんとかするから頼むぞ。後でこの部屋で落ち合う。いいな。そのあとでこれからのことを考えよう。それとランバート。得意分野は余計だ」


「あ、そうくる?わかったから早く行きなよ」



アレクサンダーが部屋から出ていくと、ランバートがふぅーっとため息をついた。


「心配?」


「え?」


「アレックスのことさ。魅了にかからないか」


「そ、それは…」


「あの魔女とグレースちゃんに何があんのか知らないけど、あんまり抱え込まないほうがいいと思うよ」


「え?」


「そのうち心配のしすぎでアレックスの頭禿げちゃうと思うよ。自分がつらい時はちゃんと助け求めなきゃ」


「……」


黙り込むしかない。


今日のアレクサンダーはかなり怒っていた。

グレースが勝手に1人で国を揺るがすような事態なのに黙って行動していたから…


「まあでも心配しなくていいよ。アレックスは絶対魅了にはかからないから」


「そうでしょうか?」


「うん。さ、そろそろ行こうか。もう連れ出した頃だろう」


ホールに入ってみると、シエナの気配はもう消えていて、そのかわり悍ましいほどのオレンジの光で埋め尽くされていた。


ガリレオ国王とタチア妃はかなり上の壇上におられたので無事だったが、兄のニコラスやその他の高位貴族たちなど軒並み男性がやられている。


「うわー。やばいね」


「はい」


兄にまで…。シエナのやつ。。。

やはり怒りがわいてくる。


「じゃあ、一気にやろうか。俺は右からやるからグレースちゃんは左からお願い」


「はい」


壇上に立って、念を送る。


紫の光が右から、藤色の光が左から会場を包み込んだ。


範囲が大きければ大きいほど体力を使う。

ランバートをみると額から汗がにじみ出ていた。


「うわ。グレースちゃんの魔力と相性いいみたい。パワーアップしてる。一気に外までいけそうじゃない?」


「はい。やってしまいましょう」


シエナの気配はもう王宮にはなかった。

だから王宮全体を封じても大丈夫だ。

そのまま、外まで念を広げ魔力光を放出させた。

王宮全体をつつむ。


今王宮にいる人たちに対しては魅了を封じたはずだ。


「よし。終わった」



2人ともはあはあと肩で息をしていた。


周りを見ると、何もなかったかのように宴に興じていた。


オレンジの光りが自分の周りから消えたことにも気付かずに…。



これでいい。



「あの魔女が封じたことに気づく前になんとかしないとね。さあ部屋に戻ってアレックスを待とう。かなり疲れたから俺たちも休まないとね」


今にも倒れそうな気がしたが、ほうほうのていでランバートの客間に戻ると、ソファにドサリと腰を下ろし、2人ともそのまま眠りに落ちてしまったのだった。

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