グレースとアレクサンダーとそしてランバートと
お久しぶりです。
雨、雨、雨のゴールデンウィーク最終日ですね。
また今日から投稿していきます。
「そろそろキミを解放しないと怪しまれるな。よく聞いて。いい?シエナ・ガードナーはベル王国としても潰さなければならない女だと思ってる。だから、協力しよう。相手は魔術師2人でもなかなか太刀打ちできるレベルじゃあない。明日王宮に来てくれる?俺も滞在できて後1週間。その間に解決したい。アレックスには話を通しておくから」
「わかりました」
早口で行ってランバートは立ち上がった。
「解いて」
「はい」
「やはり痛いのだね。アレックス殿下のところまでお送りしよう」
「恐れ入ります」
そして少しびっこをひきながら歩き、ダンスホールに戻ってアレクサンダーを見つけたグレースは固まって動けなくなった。
「アレク様?」
ホールの喧騒が何も聞こえない。
今そこで踊っている…その2人に自分の全ての神経が集中する。
「なぜ?なぜあの女が…」
フルフルと身体が震え出す。
目の前でにこやかに踊っているアレクサンダーと、そしてシエナを見てしまったから。
「落ち着いて。グレース嬢。アレックスは…」
「いや。いやよ。あの女に…アレク様まで…」
「わかった。わかったから。もう…仕方ない。計画変更」
ランバートはくるっと体の向きを変えると大きな声で言ったのだ。
「ねぇ。グレース嬢。僕の部屋…おいでよ。アレックスに内緒でさ」
しかもベル語でだ。
ベル語が理解できる貴族がそう多くないことを見越して。
ハッとアレクサンダーが振り向く。
ダンス中にも関わらずシエナの手を離してツカツカとコチラにやってくるではないか。
「おいっ!ランバート!おまえ、何言ってるかわかってんのか!」
ベル語でまくし立てるアレクサンダー。
「あれ?バレちゃった?俺、グレースちゃん気に入っちゃったかもー。ごめんね。ちょっと借りるよ」
そして手をひき、ホールを走り出す。
「ち、ちょっ!」
グレースは引っ張られるがままについていくしかなく、そのあとからアレクサンダーが追いかけてくると言うよくわからない事態になってしまった。
そしてそのまま王宮の奥まで走り続け、ランバートが滞在している客間に入るとアレクサンダーを待ってからバタンと扉を閉めた。
「ランバート!話が違うだろ!」
「あーあ。おもしろかったのになぁ」
くくくっと肩を震わせて笑っている。
「だいたい、グレースに近づきすぎだ。そこまで許可した覚えはないぞ」
「自分はフィオーネと楽しそうにしてたくせによく言うね」
「フィオーネは…彼女の方がだな…」
「どっちからとか関係ないよ」
「……あの…もしかしてお二人とも…わかっていたんですか?シエナが魔女だと」
どうやらランバートが見聞殺しをかけているようだ。
他の魔術師がかけるとわかるものなのだなとグレースは思った。
ランバートの色は濃いめの紫。
中に入れば魔力光が見えるらしい。
「なんだって?あの女が魔女?」
あれ?
アレク様はわかってない?
「なんだそれ?詳しく聞かせろ。ランバート」
「まぁ、落ち着いて。紅茶でも飲みながら話そうよ」
ランバートはアレクサンダーの勢いに及び腰で、ソファに押されるようにして腰掛けた。
「紅茶淹れますね」
「ああ。」
2人の男はソファに座り、グレースはポットに入っていた冷めた水を魔力で沸かし熱々の紅茶を注ぐ。
「グレースちゃんはよくわかってないからさ。一から説明してよ。アレックス」
ランバートが促すとムスッとしたままアレクサンダーが話し始める。
「ランバートが突然やってきて舞踏会に参加すると言うから何かあるなとは思っていたんだけど…」
アレクサンダーは熱々の紅茶を一口飲むとやっと落ち着き話を続ける。
「最初は言わなかったから分からなかったんだが、グレースのことを魔女じゃないかと疑ってたらしい。この間の晩餐の後聞いた」
「仕方ないでしょ?アレックスが悪い女に捕まってたらこの話バラすわけにいかなかったし、秘密裏に動くしかないと思ってたからね。アレックスが魅了にやられるとしたら最近婚約したグレースちゃん以外にありえないと思ったんだけどなあ」
「それであんなに意地悪なことばかり言ってたんですか?」
「あー…うん。まあね。テスト的なね。けどこの間初めて会った時のでなんか違うかなぁって。魔力って見聞殺し使ったら隠せるからさ、動揺させて引き出してやろうかと思ったんだけどなぁ。まったく動じないんだもん」
「……」
「まあでもアレックスが魅了されてないことはわかったしちがうかなって。で舞踏会で探すことにしたんだけどまあ魔力光でわかったよね。で、なんだかグレースちゃんが必死で魅了封じしまくってるし、なんかあんのかなって思って、アレックスにグレースちゃんを借りるってことだけ伝えたんだ」
「借りるしか言わないからどれだけ不安だったと思ってる?」
「仕方ないじゃない。舞踏会場なんだからさ。それだけ言うの精一杯だと思わない?」
突然同意を求められたグレースはコクコクとうなずくしかない。
「それで?シエナ・ガードナーが魔女だというのはどういうことだ?」
そこが早く聞きたいのだと言わんばかりにアレクサンダーが話を促す。
「そこは、グレースちゃんでしょ?」
「……」
もう…説明するしかない…わよね。
グレースは腹を括った。




