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体の弱い公女様

「お嬢様。おはようご…」


鏡の前でうずくまってるロージー、否、グレースを見つけたフィッツジェラルド公爵家の侍女らしき女性が一瞬の後に慌てたような声を出して大急ぎでパタパタと近づいてきた。


「お嬢様!どうされたのですか?!どうしてベッドから?」


そのままヒョイと軽々しく抱き上げられ、面食らう。


それだけ軽いということ?


「意識はおありなのですね。熱は?なさそうですわ」


そのまま先ほどの天蓋付きのベッドに横たえられる。


「どこか痛みますか?具合の悪いところはございませんか?」


忙しそうにクルクル動きながら、聞く侍女にボソッと一言…グレースは言った。


「あの…ここはどこですか?」


「え?」


侍女が動きを止めて、グレースをじっと見る。


「あなたは?それにわたしは?」


「え?えええーっ!」


侍女の視線がそのまま枕の上にある小瓶に注がれ、ハッと驚いたような顔をして、そしてその小瓶を手に取った侍女はフルフルと震え出す。


「こ、これを…こんなにもたくさん飲まれたのですか?」


それはこの国に出回る睡眠薬の小瓶だった。

一気に大量に飲むと死ぬ恐れのあるものだ。


どうやらこのグレースは自殺を図ったようだ。

ミゲル神が言っていたのはこういうわけか…。


「それは何?」


グレースになるという使命をうけたなら…

記憶喪失のふりをするしかないではないか…


咄嗟にした演技。


けど、本当にこれ以外には方法がない。

だってグレースが今までどんな人生を送ってきたのか全然知らないのだから。


侍女はキョトンとするグレースを見て、

こうしちゃいられないわ!

と部屋を出て行った。



それからはてんやわんやの大騒ぎ。


主治医だというこの国1番の医師がやってきて診察されるわ、父のフィッツジェラルド公爵や母の公爵夫人が心配のあまり代わる代わる部屋を訪れるわ、兄のニコラスさえ、何度もやってきては生きているのを確認していく始末。


どうやら、かなり過保護に育てられたらしい。


それにしても…

さっきからなんなのだろう。

この家族の顔面偏差値の高さは。


父も母も美男美女で驚いたが、兄のイケメンぶりは思わず見惚れてしまうほどだった。


だいたいグレース自体が、絶世の美女すぎて、まるで物語の中の眠り姫の様。


銀糸のサラサラの髪が腰まであり、瞳はアイスブルー。肌は透き通る様に白く、鼻梁は高く、目鼻立ちは最高の黄金比を保っている。

少しつり目のアイスブルーの瞳がなんとなく冷たい印象を与えそうな顔だなと思う。

頭部は小さく、体は細くて折れそうなくらい。


そのあともバタバタしていたが、全く覚えていないを貫き通して、医師の言うことにハイハイと何度もうなずきとおして、ようやく部屋で1人になることができてグレースはほうっとため息をついた。


『グレース・エライザ・フィッツジェラルド』。

我が国レイトン王国の貴族の中でも最高峰、二大筆頭公爵家のひとつであるフィッツジェラルド公爵家の公女様。

ロージーは伯爵令嬢だったが、レイトン王国建国当時からの由緒正しきガードナー伯爵家とはいえ、フィッツジェラルド公爵家と聞いただけで、平伏してしまうような、いわば王家の次に格式の高い家柄の御令嬢。

ロージーが知っていた限りの情報だと、絶世の美女で、体が弱く、ほとんど部屋から出られないため、誰もお姿を見たことがないというくらい。

社交界デビューもされていなかったと記憶している。

確かロージーと同い年の18歳であらせられたはずで、1年ほど前に、第二王子『アレクサンダー・ヒューゴ・レイトン』と婚約されたはずだ。


ミゲル神の話ではその第二王子との婚約式がまもなく行われるという話だったのだが…。


屋敷中がドタバタしていてそれがいつなのか聞くことすらできない。


だいたい今日はいったいいつなのか…。

ロージーが死んでどれくらい経っているのか…。


どっちにしても…もうこの布団の上に居続けるのは懲り懲りだわ。


もともとが働き者のロージーだ。

ずっとじっとしているなど耐えられない。

ミゲル神は健康になったと言っていたし。


グレースはヒョイとベッドから出て、椅子にかけてあったガウンを羽織り、部屋の中を少し歩いてみた。


うーん。

思った通りだわ。


すぐ息切れする。


長いナイトドレスを両手で摘んで上に上げ、少し部屋の中を走ってみた。部屋は広い。いくらでも走れる。

けど、すぐに息切れしてその場にへたり込んだ。

よっぽど寝たきり生活だったのだわ。


鍛える必要があるわね。


それにもっと食べる必要があるわ。

侍女に軽々と抱き上げられているような体では…。


そのまま部屋の中を闊歩していると侍女が医師と共に入ってきた。


「お、お嬢様っ!いけませんっ!」


侍女は焦っているが、医師は「うむ。」と顎に手を置いた。


「グレース嬢。そうやって動いていても問題なさそうですな」


「ええ。とても気分がいいわ。外に出たいくらい」


「まあ。お嬢さま?」


本当なら今すぐにでも外に出たいくらいだが、窓から見える景色は、残念ながら雨だった。


「うむ。あの睡眠剤のせいなのか…なぜなのかわからぬが…どうやら以前より健康になられたように見える。どうもグレース嬢には睡眠剤がうまい具合に機能したらしい」


まあ要はよくわからないが、至って問題ないということだろう。

記憶を除いて。


「グレース嬢。一つだけご忠告申し上げておきます。どうかもう命を絶ちたいとはお考えになりますな。あなたがいなくなることで悲しむ人たちは多い。睡眠剤は今後処方致しませぬゆえ、ご理解いただきたい」


これは…死ぬ気はないことをきちんと強調しておかないとまずいわね。


「ごめんなさい。わたくし、睡眠剤を飲もうとしていたことも何もかも忘れてしまっているのです。その時どう思っていたのかも。今のわたくしはとても気分がいいので、到底死ぬことなんて考えられませんわ」


そしてにっこり笑ってみたら、医師はホッとしたように息をついた。


「ではもう何も言いますまい。お身体はご健康のようですからな。明日から気分の良い時は徐々に外にも出てみられても良いと思いますぞ」


よかったわ。信じてくれた。

医師を味方につければ父と母もそれに兄も大丈夫だろう。


医師はもう一度診察をして帰って行った。

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