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魔術師が2人?

舞踏会の当日はきれいに雪が積もった。

初雪だ。


一年の終わりを飾る大舞踏会。

ここには、各国の来賓もたくさん招かれる。


グレースは婚約発表以来の大きなパーティーに少し緊張していたし、シエナの魅了がどこまで浸透しているのかも気になっていた。


そして会場に入って…愕然とした。



マキシミリアン王子が魅了にかかっている。


ヒラリー妃もだわ。


なんて…こと!



あまりのことに…思考が停止し、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。


こんなに必死で魅了封じをやっていても…やはり歌を歌うだけで一気に何千人何万人の人たちを魅了にかけて操る魔力には敵わないのか…。


頭が混乱しながらもとにかくやることはやらねばと、愛想を振りまきながらも魅了にかかっている人たちに会うとすぐに封じた。


「グレース?大丈夫か?顔色が悪い」


隣で心配気にアレクサンダーが覗き込んでくる。


「ええ。大丈夫。少し人酔いしてるだけよ」


「ほんとか?それならいいけど…辛くなったらすぐに言えよ。無理はするな。あと…酒も飲むなよ」


「わかってるわ」


そうは言ってみるもののショックは大きい。

必死で平然を装い、各国の重鎮たちと挨拶を交わす。


「まあ。婚約式の時よりさらに美しくなられましたわね」


「あなたなら素晴らしい王妃様になられますわね」


たくさんのお世辞を嬉しく受け止めながら、それでもショックは隠しきれなかった。


ダンスが始まっても上の空だ。


「グレース。本当に大丈夫なんだな?絶対なんかあったら…俺を頼れよ」


「ええ。ありがとう」


なぜこんなに必死になってくれるの?アレク様。

仮面夫婦になるわたしのために…。


アレクサンダーとのダンスが終わると、アレクサンダーのもとにまた女性たちが押しかけてきたのでグレースは一旦引き下がることにした。


案の定今日は国外の来賓たちからダンスに誘われる。

断るわけにはいかないので順にダンスをこなす。


「惜しいことです。あなたのような美しい方がおられるならぜひ我が国にきていただけたらよかった」


「僕が先に見つけてたらなぁ」


などとお世辞を言う男性たちをかわしながら踊っていると、目の前にランバート王子が立っていた。


「やっと俺の番がまわってきたよ。グレース嬢」


「まあ殿下なら引く手数多でございましょう?」


「まあな。それは否定しない」


ランバートはステップがうまかった。


「隣、見てみて。フィオーネと踊ってるよ。アレックス」


「え?」


確かに見るとフィオーネ王女が大きな胸を強調した胸ぐりの大きく開いたドレスでアレクサンダーと楽しそうなダンスを披露している。


フィオーネが美しく可憐なので、観客が注目している。


「ダンスがお上手ですのね。アレクサンダー殿下とお似合いかもしれませんわね」


「マジで言ってんの?キミのお人好しにも呆れるね」


「え?」


「まあいい。今はそれどころじゃないからね。それよりこのダンスの後足を挫いたと言ってくれ。俺が休める場所までエスコートをするから」


「は?」


「シエナ・ガードナーという魔女のことだ」


「え…?」


思わずステップを止めそうになった。


「ステップやめないで。ここでは話せない。この後どっか男と女が2人でいても怪しまれない程度だけど人の少ないとこ、案内して」


「わ、わかりました」


そんなとこ。あるかしら?


けれど…

それより…


シエナのこと魔女だとわかってるの?この人…どういう人?


曲が終わりかけの頃、ランバートがクイっとグレースの足を絶妙にひっかけ、グレースがカタッと傾くフリをした。


「あっ…」


「どうしたの?」


「ごめんなさい。少し張り切りすぎたかもしれませんわ。足が…」


「そうか。僕のせいだね。少し速すぎたかな。どこか休めるところはある?」


「はい。あちらに軽食用のテーブルがあるはずですからそちらに連れて行ってくださいます?」


「僕のせいだからね。つかまれる?」


少しびっこをひきながらグレースはランバートにつかまりつつダンスホールを出た。


そして…

ダンスホールの隣の部屋に用意された軽食テーブルに座る。


「なるほど…テーブルの位置もそれなりに離れてるし、かと言って人は流動的だから怪しまれることもない。すごいね。キミ」


「いいえ。それより、どう言うことでしょう?」


給仕に飲み物を頼みテーブルから軽食を持ってきてもらうよう頼んでから、何皿かお皿が来たのでグレースは見聞殺しの術をかけた。


「え?見聞殺し?」


「わかるのですか?」


「ああ。これをかけられる人はあまりいない。だからわからなかったのか。自分の魔力光を消してるんだね」


「はい。けれど…」


「まあ、俺も同じ、見聞殺しかけてる。魔術師さ」


「ええっ!」


ランバートが魔術師…?!


あまりにもびっくりして、グレースは口に運んでいたグレープフルーツのジュースを吹き出しそうになった。


「今回、来る予定はなかったよ。レイトンにはね。キミたちの結婚式だけにしようと思ってた。だけど、レイトンから帰ってきた官僚が魅了にかかってることに気づいた。それも結構な数ね」


「まあ。ほんとですか?」


シエナはそんなところにまで…。


ランバートはパクパクとパスタを口に運んでいる。

しっかり食べるつもりらしい。


「だから来たのさ。最初はキミが怪しいと思ってた」


「え?」


まさか自分が疑われていると言う考えには及ばなかった。


「アレックスがさあ。なんか女に夢中になってるとか聞いてさ。怪しいと思うだろ?普通」


「女に夢中?」


え?誰に夢中になってるの?


「けど、キミが魔女の魅了を次々封じているのをみてさ。で、まあオレンジの魔力光探したらいたよね」


そこまで気づいていたとは…おそらくランバートは強力な魔術師だとグレースは予測した。


短時間でここまで見破れるのは、きっとそうだ。


「で、どうしようか。このまま野放しにしてたらレイトンは確実に滅びるよ。周辺諸国もヤバいな。魅了を扱う魔女が出た世の中はだいたい戦争が起きて滅びてるのは知ってるでしょ?いいの?」


「よくありません!シエナは潰します」


思わず声が大きくなる。


「ふぅーーーっ」


ランバートは大きなため息を吐いた。


ゴールデンウィーク中更新お休みいたします。

少し長くなりますが.また休み明けから更新頑張ります!

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