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心配する家族たち〜アレクサンダー

「ケニア。あの男を解放しろ」


「はい。かしこまりました。王都の中でよいでしょうか?」


「いや。領地へ帰してやれ。しばらく女に手を出せないように頭を丸坊主にしてな」


「はい」


表情ひとつ変えずに返事するとケニアは地下牢に向かう。


グレースと話していた例の男、調べてみたが西部の小さな貧弱な領地を持つ子爵家の次男でどうやら先日までガードナー伯爵家の長女と婚約していたことが分かった。当然婿養子として入る予定でだ。


だが、妙なことにその長女が先日失踪したらしく行方不明届けが出されており、1月経っても出てこないからと次女を後継者に指名する旨王宮に申請が来ておりそれが受理されている。


ガードナーと言えば中立の結構大きな財産を持つ古い時代からの貴族だと記憶しているが、あまり中央には顔を出さずに西部の領地を豊かに発展させながら暮らしている地に足をつけた貴族だったはずだ。


元後継者だった長女にも会った記憶はない。


だが、妙だ。

なぜあの男の婚約者が亡くなったと…グレースは知っていたのだ?


失踪したのだから亡くなったかどうかもわからないじゃないか?


なのにあの男はそれを聴いて明らかに狼狽してそれでグレースに抱きつくという暴挙に出た。ということは亡くなったのが事実ということだ。


そこには事件の匂いしかしない。

何か奥があるのだ。


そしてなぜグレースがあんなに落胆したような表情を見せたかだ。


何なんだ?

いったい…。


結局はあの男は最後まで言い訳ばかりしていたので、先程思い切り股間を蹴り上げて出てきたところだ。

今ごろ丸坊主にされて泣きそうになってることだろう。


グレースに抱きついたのだ。

それくらいで解放されてラッキーと思うがいい。


アレクサンダーとしては大事にはしたくなかったのだ。

罪を認めさせようとすれば国王やマキシミリアンを巻き込むことになる。

グレースの行動の意味がわからない以上それは避けなければならない。


だから泣く泣く解放したのだ。



「アレックス。何があったの?侍女たちが騒いでいるわよ」


もう母の耳に入ったのか。

だから王宮は怖い。

もうすでにマキシミリアンも知ってることだろう。



「何も心配は入りませんよ。痴話喧嘩です。明日にはまた仲直りしていますから問題ありません」


「そうなの?珍しいわね」


そしてクスッと笑う。


「けれど喧嘩するほど仲がいいというものね。アレックスにはグレース嬢はとてもお似合いよ」



相変わらず楽観的な人だと心の中で苦笑する。


この人から自分みたいな神経質な人間が生まれたのは信じられないところだ。


まあ、その辺は父王に似てるのだろうが…


母がそのあと出ていったのを確認してからふぅーっと息を吐いた。


明日には行動を起こさないとまずいな。



その後しばらく考えていたら案の定父王からも呼ばれた。


謁見の間ではなく執務室に来いと。


行ってみると宰相であるフィッツジェラルド公爵も控えていた。


「昨日のことだ。アレックスよ」


「わかっております。先程母上にも呼び止められましたから説明いたしましたが、これくらいのことで騒ぎ立てるものでもありませんよ」


「というと?」


父王の隣でフィッツジェラルド公爵が書類を処理し続けている。本人が直接何か言うつもりはないらしい。


「ただの痴話喧嘩がこんなに大事になるとは…私が浅はかでした。明日には噂も落ち着いているでしょう」


明日、グレースに意地でも会わなきゃならないな。


それでも手を動かし続けているフィッツジェラルド公爵を盗み見つつ、アレクサンダーは覚悟を決めた。


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