心配する家族たち〜グレース
「グレース…?少し位手を抜いてもいいのよ」
家庭教師の先生が帰った後復習をしていたら母が部屋にやってきた。
「お母様…」
「大丈夫なの?昨日…」
心配そうに覗き込まれると涙がまた出てきそうになったけどぐっと耐える。
「ええ。わたくしはやるべきことをやるだけですわ。王子妃に、ふさわしい女性になるために、頑張るだけです」
「そう?本当に大丈夫なのね?」
「はい」
グレースの母は天真爛漫な女性だとグレースは思っている。物事をあまり深く考えないタイプであまり頭のいいタイプではない。
父が抜け目のない狐のようなタイプなのでちょうど釣り合ってるのだろう。
2人はお互いに愛し合っている。それは手に取るようにわかる。
その天真爛漫な母でもわかるくらい、昨日は取り乱していたらしい。
ダメだわ。わたし。
「辛ければお父様にお願いして結婚を引き伸ばしてもらうわけには…」
「いかないですわ。お分かりでしょう?お母様」
「そうよね。ごめんなさい…」
しゅんとしながら母は出ていった。
はぁ…
自分にとって母はロージーの母であり、この人は本当の母ではない。けれど…この人からの愛情を感じるたびに…とても心地いい暖かさを感じる。
母の温もり…。
もう自分が求めても得られないもの。
それをこの人は与えてくれる。
きっとわたしはこの人を母として愛せる。
その時そう思った。
その日は兄もやってきた。
イケメンで公子様で22歳なのに婚約者もまだいないとなるとモテまくりだろうに、母に似たこの天真爛漫な性格が邪魔してるのかもしれないなといつも思っている。
「俺から殿下に掛け合ってみるよ。結婚を引き伸ばせないかって」
「そんなことしませんわ。結婚は予定通りいたします」
「なぜだ?お前を泣かすような男は例え王子であろうと…」
「お兄様!」
少し大きな声でいうとシュンとしてしまった。
犬みたい。
母性本能をくすぐるタイプね。
「昨日は少し取り乱していただけですわ。ご心配なく」
「本当か?」
「ええ」
そのあと兄は紅茶を飲みながらくつろいでいたが、今から飲み比べに行くのだと出かけていった。
全く女性の影がないのよね。
年頃なのに本当にどうしたものかしら…。
その日の最後、極め付けは父親からの呼び出しだった。
やっぱり来たか…。
仕方ない。対峙しに行くか。
意を決して立ち上がる。
父の書斎に入ると山のように積まれた書類を処理しているところだった。
「それで?どう言い訳するつもりだ?愛するグレースよ」
ぐっと言葉に詰まる。
「昨日のことでしたら、面目もありませんわ。よくある男女の喧嘩のようなものですからご心配には及びません」
苦し紛れだが波風を立てるつもりはないことを伝える。
「ほう。では心配せず見守ることとしよう。心待ちにしていよう。春には盛大な結婚式が開けることをな」
「ええ。問題ありませんわ」
「よろしい。では下がれ」
相変わらずキツネだわ。と部屋に帰り額の汗を拭う。
さて。お茶会の返事を書かなくては。
ぜひにも出ておかなければならないお茶会のね。
招待状を吟味しながらグレースはその日も忙しい1日を終えようとしていた。




