グレースの密会
グレース…
と
男?
近くの木陰にケニアがいるのが見えた。
少しホッとする。
しかし、なんだあのオレンジ髪の男は。
ザワザワと胸の奥がざわめき始めるのがわかった。
そろそろと近づくと声が聞こえる。
「あのとき、湖で助けてくださった方なのでしょう?」
グレースが鈴が鳴るように美しい声を奏でている。
どういう…ことだ?
「覚えていてくださったのですか?こんなわたしのことを?」
男の方は顔はそれなりに整っていてモテそうで遊んでそうな男だという印象。
身分としては身なりからして伯爵か子爵家の令息といったところか?
「ええ。片時も忘れたことはありませんでしたわ。病弱なわたしにはじめて真摯に接してくださったのはあなたですもの」
もしかして…。
コイツなのか?
「令嬢…そんなことをおっしゃるとわたしは勘違いをしてしまいます。」
「勘違いなんてそんな。わたくしのことなど気にしていただく方などどなたもおられませんわ」
「そんなはずはありません。現にわたしはずっと忘れておりません」
なんだ?コイツ?
ムカムカしてきて腹が立ってきた。
なんでこんな男に騙されてる?グレース。頭を冷やせ。
こんな男が好きだったのか?
ありえないぞ。おい!
なりふり構わず怒鳴り込みに行ってやろうかと考えていた時だった。
「そういえば最近婚約者様が亡くなられたと聞きました。お辛かったのではありませんか?」
は?
「へ?」
男の方は素っ頓狂な顔をしている。
「いや。それは…」
しどろもどろだ。
なんだか話が妙な方向に向かっている?
婚約者が亡くなったとはどういうことだ?
コイツはいったい誰だ?
少なくとも俺の回りにいるやつではない。
見たことないやつだ。
「婚約者は亡くなったのではなく失踪したのです。帰ってこないので辛いですがわたしは忘れて新しい恋に走ろうと…」
「そう」
グレースの声が落胆したように聞こえた。
「そうなんですか。わかりました」
どうやらグレースにとってはこれで話は終わりらしい。
くるっと踵を返したように見えた。
その時だ。
男がグレースに後ろからガバっと抱き着いたのだ。
「きゃっ!」
グレースの悲鳴がこだまする。
「わたしはあなたのことを愛しています。グレース嬢」
男がすがるように言ったところでいてもたってもいられず、アレクサンダーはその男の背後から近づき首の後ろを剣の鞘で打ち付けた。
「うっ」
痛みでグレースを離したのでグレースを自分の方へ手繰り寄せる。
「グレースが誰の婚約者かわかっての狼藉か」
剣の先をその男ののど元に突き付けた。
「ち、ちがいます。わたしは何も、その女性がわたしを誘惑して…」
この期に及んで言い訳か。
「わたしはすべてそこで聞いていた。そのようには見えなかったがな」
「いいえ。いや。わたしは…」
どうしようもない男だ。
「ケニア」
木の元に隠れているケニアを呼ぶとスーッと音もなく現れた。
「この者を連れていけ。牢に閉じ込めておけ。後で尋問する」
「はっ」
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