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夜会に2人で出席する

アレクサンダー目線続きます。

「抜かりはないか?」


「ないと思うわ」


久しぶりの2人そろっての夜会。


夏の一大行事。といえば建国祭だ。

1年のうち何度か大きな夜会が王宮で開かれるがそのうちの1つだ。


建国祭自体は3日間つづき、このときばかりは王都ローギアの民は仕事をほとんどせず大騒ぎとなるが、貴族も3日間は仕事をしない。そして最後の1日に王宮で大規模な夜会が開かれるのだ。


婚約している2人は当然一緒に参加することになっており、アレクサンダーはグレースに藤色ベースに白く光るサテンを用いた美しいドレスを送っていた。

思った通りよく似合う。


アレクサンダーも同じ藤色をところどころにあしらった正装をあつらえて着用している。


なぜ藤色にしたのかといえば公爵邸の藤棚からなのだが、あそこで2人で話したときにグレースが藤棚に映えてるなと思ったからだというのはグレースには言ってはいない。


「銀の髪って藤色が合うなんて知らなかったわ」


姿見に自分を映しながらほれぼれしている。


「お前自慢に聞こえるぞそれ」


「あら、でも事実よ。とっても映えてる。うれしいわ。ありがとう」


「ついでにこれも付けとけ」


すっと長い髪の間からネックレスをつける。


アメジストの宝石をあしらったネックレスとそしてピアス。


グレースはピアスを開けていなかったが、1か月前にどこぞの令嬢に勧められて開けたらしい。ちょうど開けたというその日に訪問して痛いと嘆いていたのを思い出す。


「これもつけてほしいか?」


「まぁピアスも?」


うれしそうに言うので、つけてやった。


「慣れた手つきだこと」


「は?」


「いいえ」


そしてくすっと笑う。


またそんなこと言う。


「俺は決して女にネックレスとかピアスをはめてやったことはないぞ」


「そうなの?」


「ああ。遊んでたことは否定しない。だが、遊びの女にそんなことまでしない。勝手に想像ばかりするな」


ムッとして、そっぽを向く。


「ごめんなさい」


しゅんとした声が聞こえてきたので許してやることにした。


「素直に謝るなら許してやる」


そしてポンと頭に手を置くと、グレースは照れ臭かったのか真っ赤になった。


なんだよ。ほんとすぐ赤くなるんだから。


「さ、じゃあ行くか。今日は主催が俺たちじゃないから、気楽だ」


「ええ」


腕を差し出すと、グレースがそっと絡めてくる。


一瞬ドキッとした。


今日のグレースが一段と綺麗だからかもしれない。


婚約してからこの4か月ほどで見違えるほど健康になり体力もついてきている。勉強もめちゃくちゃ頑張っているらしいし人脈作りも手を広げているらしい。

活き活きしていてとても美しい。


そのまま2人で会場入りした。


貴族だらけの王宮のホール。


むせかえるような香水のにおいの中、グレースはとても輝いていた。



『ほう』


感嘆のため息がそこかしこで聞こえる。


『グレース嬢ってあんなにきれいな方だったかしら?』


『前から美しい方だったけれど、最近輝いていらっしゃるわ~』


『やっぱり王子妃になられる方はちがうのよ。わたしたちとは』


『ほんと、ほれぼれするぅ~』


グレースはといえば会場入りするなりいろんな夫人たちから声をかけられ笑顔で対応している。それはアレクサンダーも同じでいろんな男性から声をかけられ対応に忙しかった。


「殿下はよき伴侶を捕まえられましたな。とてもお似合いですな」


「すばらしい令嬢ですよ。グレース嬢は」


などと言われるのを聞くと鼻が高い。


が、鼻の下を伸ばしてグレースを見ている若い貴族令息がたくさんいることにムッとしてしまう。


なんだあいつら。なんちゅー目でグレースを見ている!


そのうち父のガリレオ国王の挨拶がはじまり、アレクサンダーはグレースの腕をぐいっと引っ張った。


「こっちに来ておけ。もうすぐダンスだ」


「あ、はい」


長い国王の挨拶ののちダンスがはじまる。


グレースは体力が戻ったからかスイスイとステップを踏みはじめた。


「練習したのか?」


「してないわ。けれど、体力さえもどれば踊れるみたい。とても楽しいわ」


壇上の一番目立つ場所で踊るアレクサンダーとグレースを人々は感嘆の眼で見ている。


アレクサンダーが黄金に輝く太陽ならば、グレースは銀色に輝く月。

2人は王国の未来を象徴しているかのように見えて、人々はほれぼれと眺めていたのだった。


初回のダンスが終わるとしばらく無礼講となる。


当然、アレクサンダーのまわりには令嬢たちが殺到し、すっとグレースは身を引いた。


「お、おいっ!」


焦ってアレクサンダーは後ろを振り向こうとするがすでに女に囲まれて動けない。

グレースの姿は見えなくなっていた。


アイツ…酒飲まないだろうな。


夜会が危険だという認識はアイツにあるのだろうか?

夜会どころか今まで屋敷から殆ど出たことのない深窓の令嬢だぞ。

大丈夫か?ほんとに。


心配になりながらも順にダンスを踊る。

いくら何でも全員断るなんていうことはできないからだ。


この令嬢たちにしたら唯一重婚が認められている王族なら身体の弱いグレースなど子が産めないと想定して2番目の妻は自分がと目をランランとさせて媚を売っているのだ。


ダンスの合間にグレースを探すと少し離れた場所で他の男をダンスをしているではないか。


は?

他のやつとダンスだと?


ムカムカとした嫌な感情が胸の奥で沸き上がるのを止める事ができない自分が不思議になり、戸惑う。


おい。笑ったぞ。

笑いかけたぞ。

あれは誰だ?

ティンバーランド伯爵の息子だな。

何を鼻の下のばしてる!


「ねぇアレックス様?」


踊っている令嬢が耳元でささやく。


「今日の夜待ってるわ」


ふと見ると一度寝たことのある伯爵令嬢だ。

ビッチの極みみたいな女。


ふん。お前の相手などごめんだ。


「悪いが体調が悪くてね。君なら他にもたくさんいるだろう?ほら、あっちからキミを見てる男がいる」


顎で示すと女はきらっと目を輝かせてそちらを見る。

ビッチな女は夜会で男を漁り、男を渡り歩く。


そういう女を求めて夜会にやってくる男もいるのだ。


「アレックス様。ではごきげんよう」


女は飛ぶようにそちらに行ってしまった。


それでも女はとぎれない。


そろそろやめてほしいと思いながら、周りを見回すとグレースがいない。


待て。どこに行った?


ぐるっと見回してケニアを探す。

そしてくいっと顎を指し示しグレースを探すよう命じた。


ケニアならこれでわかるはずだ。


ケニアはそのままホールから出て行った。


この令嬢を最後にしてグレースを探さねばとアレクサンダーも締めにとりかかる。


「悪いがもうわたしも足が持たない。君で最後にしてもらうよ。」


「ええ。。。」


悲しそうな声を出すが、かまってなどいられない。グレースがいないのだ。

探さなければならない。


アレクサンダーはようやくダンスを切り抜けると、急ぎ、会場を出た。


外回りを探す。

危険はだいたい外にある。

もしくはホールから離れた客間だ。


こういう日は開放されているところもある。


夜会でそういう行為に及ぶ輩はたくさんいるからだ。


まぁ昔は自分もその一人だったなと苦笑するが今はそんなこと考えている場合ではない。

グレースだ。


どこにいくだろう?

アイツなら…?どこに行く?


けどわからなくて、とりあえずひたすら歩いた。


そして、西の宮殿へとつづくガゼボの中に影を見つけた。

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