アレクサンダーの事情
アレクサンダー視点しばらく続きます。
庭で剣の素振りをしていた昼下がり…。
王宮の向こう側が騒がしい気がしてふと素振りを止めた。
第一王子宮のほうだ。
「ケニア」
「はい」
護衛を呼ぶ。
「第一王子宮で今日何かあるのか?」
「はい。本日はヒラリー妃殿下主催のお茶会が開かれる予定かと」
ああ。アイツのお妃選びか。
第一王子のマキシミリアンとはずっと犬猿の仲だ。
というかアイツのことは昔から嫌いだ。
レイトン王国では、高位貴族の二大筆頭公爵家の力が強い。
それがチェックマイスター公爵家とフィッツジェラルド公爵家。
今までチェックマイスターが王家と姻戚関係を結ぶことで力を保ってきたのに対し、フィッツジェラルドはその莫大な領地経営能力だけで王国を牛耳ってきた。王家に次ぐ財力を持っていると言われている。だが最近チェックマイスターが北部領地の山で鉱山を掘り当てたため、フィッツジェラルドが焦り始めたのだ。2大公爵家の均衡が崩れチェックマイスターだけに勢力が集中するのは国としても非常にまずい。
それになんといっても自分自身、アレクサンダーの立場としてはかなりまずい状況下に置かれてしまった。
母親がガルフレッド王国の王女だったというだけでもレイトン国内では弱い立場なのに(決してガルフレッド王国の勢力がないといっているわけではなく和平のために差し出された他国の王妃というのは国内では不人気でないがしろにされる傾向があるという意味で)第一王子の後ろ盾が大きくなると非常に立場が悪くなる。
アレクサンダーの方が能力的には優れている自信があるし、まわりの貴族たちからはアレクサンダー推しの方が多いとは思っていたが、こうなると個人の能力の問題ではなくなってくる。かなりまずい立場に追い込まれたことになる。
なんとかしなければならない。
で、思いついたのがフィッツジェラルド公爵家との外戚関係だ。
たしか自分と釣り合うくらいの年齢の令嬢がいたはずだ。
身体が弱いとかでほとんど屋敷からでていないらしく、社交界デビューもしていないし、結婚しても子どもは望めないだろうが、子どもは他と作ればいい。王妃という立場にさえしてやればいいのだ。財力のあるフィッツジェラルドの後ろ盾が必要なのだ。
彼らもチェックマイスターの台頭に焦りを抱いており、財力があるからと王家との姻戚をあえて積極的には結ぶことをしていなかったことを悔いていたのか、声をかけたらあちらも乗り気になった。
瞬く間にグレースとの婚約が決まったというわけだ。
だが、ここで大きくつまずいてしまった。
グレースが一筋縄ではいかない女だったのだ。
初対面の日のことだ。
病気がちでほとんど外部との接触を断っている女だと聞いていたから少し扱いにくいかもしれないとは思っていたが、素の自分を隠し『優しいイケメン王子』を装って近づいた。
たいていの女はこのやり方で落とせたから。
だいたい女というのは甘い言葉に弱い。
だからつらつらと甘い言葉を並べ立ててやれば落ちるだろう。と思い込んでいた。
だが、この女は想像以上に頑固だった。
まず会っても碌にしゃべらない。
ほとんど声をはっせずひたすら睨みつける。
そして手をさしだせば無視して弱々しく手をはたく。
その上言うことと言えば、
『わたくしはあなたとは結婚するつもりはありません。わたくしには想いがあるのです。ですからあきらめてください』
想いって言う抽象的な言い方をしているけど、好きな男がいるということか?
いつ出会ったってんだよ。ったく。
『ちっ』と心の中では悪態をつきながらもひたすらいつかグレースが落ちてくれることを祈っていた。
だが、口約束の婚約から1年が経つころにはまたアレクサンダーは焦り始めた。
婚約式を執り行おう。
絶対にこの結婚はしないわけにはいかない。
フィッツジェラルド公爵にかけあえば渋い顔はしたがうなずいた。
『いずれは娘もわかるときがくるでしょう。強行しましょう。愛する娘をわがままに育ててしまったのは私の責任です。なんとかしましょう』
そして婚約式にいどんだというわけだが。
そのときにやってきたグレースは今まで数回会ったグレースとは別の人間かのごとくちがった女だった。
とまどいはそこからはじまった。
最初の第一声が『気持ち悪い』だったときは面食らった。
しゃべり方もハキハキしていて別人みたいだ。
そしてずけずけモノを言う。
そんなにずけずけ言うんだったらさ、とアレクサンダーは思った。
俺だって言ってやるよ。
そして本当の自分をさらけ出し『仮面夫婦』の提案をしたわけだ。
もともと好きじゃない者同士のお互いの利益のためだけの結婚なのだから…。
そうだ。仮面夫婦。
それでいいじゃないか。
国王になれるなら…。
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