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アレクサンダーの疑問〜つづき

アレクサンダーも湖から出てコテージの中に入ると、テーブルの上に丁寧にサンドイッチのカゴと大量のクッキーが置かれていて、侍女が紅茶を淹れてくれているところだった。


「ありがとう。メイ。もうさがっていいわ。あとはわたくしがやるから」


鈴が鳴るような『健気な美しい公女』の声。


そして侍女が出ていくと素のグレースが顔を出す。


「ねえ。座って。うちのシェフのサンドイッチはとてもおいしいのよ。食べてみて」


グレースはいつものグレースになっているがアレクサンダーは心配だった。

このコテージは壁が薄い。

まる聞こえじゃないのか?


「お前声大きくないか?」


「え?そう?大丈夫よ」


「ここ、壁厚くないんだからな。聞こえるぞ」


コソコソと話していたらふぅーっとグレースがため息をついた。


「大丈夫。今ここでやってることはもれないわ。そういう術をかけたから」


「は?術?」


「聞こえない様にしたの。だから気にしないで」


「どう言う意味だ?」


何を言ってるんだ?グレースは?


そしたら突然ポットが宙に浮いてアレクサンダーの前のカップに上手に紅茶を注いだ。


「え?ええっ!お前もしかして!」


「魔術師なの」


マジかよ…。


「待てよ。隠してたのか?」


なんとなくまたムッとする。


「ちがうわ。この能力にはこの間気付いたの。多分記憶を無くす前も使っていたみたいなんだけどこの間蜂に襲われそうになってその時にね…撃退したというか…」



魔術なんて扱えるやつが……伴侶になるなんて…


「けれどまだ全く何に使えるのかわからなくて。今色々試しているところよ。見聞殺しはこの間試してうまくいったから大丈夫のはずよ」


ニッコリ笑う。


「心置きなく素を出していただけますわよ。アレクサンダー殿下」


あえて演技をするとグレースはクスッと笑った。


素…ね。


けど、2人きりの空間をこういう危うい場所でも作れるのはありがたい能力だなとアレクサンダーは思った。


「じゃあ。いただく」


そしてパクリとサンドイッチをひとつ口に運ふ。


「確かにうまいな」


「でしょう?」


きっとこういう味なら王宮のシェフもいくらでも作る様な味だとは思う。


けれど特別にうまく感じる。

なぜだ?


「これも食べない?」


グレースはクッキーのカゴをヒョイとアレクサンダーの前に持ってくる。


「ああ」


ヒョイと摘んで口に放り込む。


「バターがジュワジュワしててうまい」


そう言ったらプッとグレースは吹き出した。


「なんなの。その言い方」


「なんだ?おかしいか?」


感じたままを言ったまでだ。

なんでこんなに美味しく感じるのか知らないがうまい。


「俺はバターたっぷりが好きだからな。俺好みの味だからかな?」


「え?」


「いや。正直いうとさ。俺は王宮のシェフの料理を毎日食べてるわけだ。フィッツジェラルド家のシェフにひけはとらないだろ?けど今日食べたのはサンドイッチもクッキーもめちゃくちゃうまく感じる」


「それはさ。きっと、わたしと食べてるからじゃない?」


「へ?」


思わず素っ頓狂な声を上げた。


お前と食べてるから?

だって?


「だって、殿下。わたしといるときは素でいれるじゃない?やっぱりご飯って素の自分で食べると美味しいのよ」


素で…?


「だってわたしもおいしいもの。久しぶりよ。こんなに美味しいの」


そして大きな口を開いてパクリとサンドイッチにかぶりついた。


それをみて

『コイツはおっきな口開いてたってやっぱりちっちゃくて可愛らしく見えるな』

と意味のわからないこと考えてしまった自分が…訳わからなくなった。


で、なんでか赤面したアレクサンダーはプイっと横を向きながら、


「もう一つくれ」


と手を差し出し、グレースに渡されたサンドイッチにかぶりついてやっぱりうまいと思った。


「じゃあ、またそういうの、企画しろよ」


「え?」


「人に気遣わずお前と2人きりで食べれるような状況だよ」


「あ、ほんとね。いいかも!」


嬉しそうに笑う。


だんだんコイツがどういう女なのか分からなくなってきた。


次は何にしようかと考え込んでるグレースをじっと見つめる。


目はつり目気味でキツめで気が強そうで俺好み。

ほっそりしてる折れそうなくらいのスタイルも好きなタイプだ。


それにこの……性格…。


すげえ…

ささる。


「なに?だから、あんまりそういうのやめた方がいいっていってるじゃ…」


いつもじっと穴が開くほど見つめた時にグレースが視線をふいっとそらすのが…好きでよくやる様になったのはいつからだろう?


「おまえさぁ。俺たち結婚するってわかってる?」


くいっと顎を持ち上げて顔を上げて自分に視線を合わさせた。


「わかって…」


「じゃあこんなことくらいで恥ずかしがってちゃやることやる時どうすんだよ。ばーか」


「やること?」


グレースのきつめのアイスブルーの瞳の奥にかすかに揺らぎみたいなものが見えてそのすべすべの真っ白な頬が赤く染まった。


そしてまたふいっと視線をそらす。


「やること…やるの?」


視線を逸らせたままボソッと言う。


「は?当たり前だろ。夫婦なんだから」


「でも、仮面夫婦なんでしょ?そういうのって普通は…」


うっ…

仮面夫婦…。


「そ、それはそれだ。やることやらなきゃ子どもできないんだからな。仮面夫婦でも俺たちには子どもがいるんだよ」


王となるなら子どもは確かに必要だ。

だがグレースは身体が弱く、子どもは望めないと思っていたし、子どもなら他の女と作ればいいと思ってた。


思っていたさ。

この間までは…


だけど…


「だから結婚したら、ちゃんとやることやるって心に命じとけ。わかった?」


「わかりました」


ついにうつむいてしまった。


まったく…

ずけずけものをいうかと思ったら、こういうところは初心すぎて…

おもしろいヤツ…。



その日はおいしい昼ご飯とおいしい空気とそしてとってもおいしい時間を過ごし大満足して王宮に戻ったのだった。

おもしろかったら、「いいね」「★」よろしくお願いします。

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