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そのあとはもちろんディナーです

「とてもおいしい」


さすがに王子だけあって五つ星のレストランを知っているらしい。

グレースは舌鼓を打ちながら、ヒラメのムニエルを口に運んだ。


グレースになってからなるべくおなかいっぱいの少し多めくらいを食べるようにいつも心掛けていたら少しずつ体重が増えて来たようで、前までがりがりだったのがようやく少し細いくらいの体形になったと自分では思っている。


それでも細いのは細い。


「もっと食べろよ。細いんだから。王子妃、務まらないからな。それじゃあ」


「わかってるわよ。だから毎日少しずつ多く食べるようにしてるのよ」


人を信用しない王子は個室を予約していたらしく、給仕は呼ぶまで入れるなスタイルだ。


だから給仕がいない間は素の王子が顔を出す。


料理が運ばれてくるときだけ大げさに扉をコツコツとノックさせる。


コツコツとノックの音が響いたのでまた『優しいイケメン王子』を演じる。


「グレース嬢のワインを弱いものにしてやってくれないか?彼女は身体が弱いのでね」


「はい。かしこまりました」


「よくわかるわね。わたしがお酒に弱いって」


「ああ。パーティでダンスのあとすぐにひっこんだのは酒を口にしたからだろう?あの酒は強かったからな」


まぁそんなこと見抜いていたの?


事実、グレースは自分がどれだけお酒に強いのか知らなかったし、試しに一杯だけ飲んでみたらぐるぐるとホールが回りだしたのだ。あのあとすぐにひきあげたのはダンスで疲れたのもあるがお酒に酔ったのもある。


「次の夜会ではお酒はいっさい飲むなよ。お前は俺の前以外で飲むな。あんなに弱いとどうなるかわかったものじゃない」


「え?」


俺の前以外では飲むなって…。

その言葉に反応してしまう自分がよくわからなかった。


「今日は俺の前だから少しくらいなら酔っぱらってもいい。だから弱い酒なら飲んでもいいだろう。だが、他人の前では飲むな」


「は、はい。わかりました」


「よし、従順でよろしい」


ふっとアレクサンダーが笑った。


あら…。

これは…。

ほんとの笑顔だわ。


グレースはその笑顔にぐっと胸が詰まるような感覚を覚えた。


作ってない笑顔見たのはじめてかも…。





「舞台楽しかったし、食事おいしかったです。今日はありがとうございました。」


馬車の中で素の状態で言っておこうとぺこりと頭を下げると下げた頭をなでなでされた。

突然のことにびっくりして、一瞬肩をぴくっとさせてしまった。


けれど、


「ははっ。お前がそういうふうだと調子狂うわ」


と笑ったので気づいてないみたいでよかった。


「だって本当に楽しかったし、おいしかったの。だからほんとの自分としてお礼を言いたかったのよ」


顔を上げて言うと、ちょっと複雑な顔をされた。


何かおかしなこと言ったかな?


「ま、楽しかったならよかったさ。次はじゃぁオペラに行こうか」


「オペラは…」


ボソッと言うとアレクサンダーが何か気づいたようだ。


「嫌いなのか?」


「嫌いというか…」


シエナの母がオペラ歌手だったのだ。

だから、嫌いだ。

というか大嫌いだ。


「うん。大嫌いなの。だから別のにしましょう」


「ふうん」


貴族はだいたいオペラを見る。オペラがたしなみのひとつでもあるから。

特に高位貴族ともなるとオペラを特別席で見るのがステータスでもあった。

嘘をつきとおして好きなふりをすることもできた。けれど嫌いなものは嫌いだとはっきり言っておきたかった。


アレクサンダーにならなぜかそういうことも言えるのだ。


またじっとグレースを見つめるその深い瞳に戸惑う。


「嫌いならやめよう。じゃぁ、どうしようか?俺としてはだな。1月に1回くらいは行かなきゃまずいと思ってる」


仲良しさんアピールだものね。


「じゃぁ…。ピクニックにしましょう」


「は?ピクニック?」


「ええ。王都ローギアのとなりにわたしが昔療養していた公爵家の領地があるのだけれど、覚えていないから一度行きたいの。そこにね。とても美しい湖があるってお母様に聞いたのよ。そこなら2時間もあれば行けるから1日で帰ってこれるわ。うちのシェフにお昼ご飯のサンドイッチを作らせるから持っていきましょう」


「そういうのもいいかもな」


「ええ。きっと楽しいわ」


決まりだ。


次のデートはピクニック。

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