人脈作り
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「最近、お茶会やパーティーに顔を出してると聞いたぞ。何を企んでる?」
婚約披露パーティーが終わって1月ほど経った頃、アレクサンダーがグレースのもとを訪問した。
最初の挨拶等終わってから庭に誘われ、2人きりになったところで素のアレクサンダー登場だ。
何をと言われても、人脈作りにいそしんでいるだけなのだが…
「企んでいるとはあいかわらず失礼ね。王子妃になったときのために人脈を作っておきたいと思っているだけよ」
何分屋敷にこもっていた人なので、まずは下手に下手に出て仲良くなっていかなければならない。大変だが人脈作りは楽しい。
「ふうん」
やはりじっと見つめるっていうのは変わっていない。
ここまできたら変えるつもりもないのだろう。
もじもじしてしまうし、どうしても視線をそらしてしまう。
「で?できたのか?人脈」
「まぁそうね。母からの紹介が多いけれど、国外にコネをもっているブレットン家やリアム家の令嬢とはかなり仲良くなったわ。あとはセントバード商会の夫人とこの間お茶をしたわ」
もともとのフィッツジェラルド派閥の貴族はいいのだ。ほうっておいても寄ってくる。ためしに公爵家でお茶会を主催してみたら、おそろしいほどの令嬢が来てくれた。
一番ほしいのは、中立の貴族。中立の中で力を持っている者との人脈を作っておかなければならない。
「セントバード商会だと?」
アレクサンダーの眉がぴくっと動いた。
「ええ」
アレクサンダーからすれば喉から手がでるほどほしかった人脈だろう。
ロージーのころにガードナー伯爵家の領地で商会を牛耳っていた人間がセントバード商会とのつながりを持っていることは知っていた。その人間とはかなり親しくしていたので好きな銘柄のワインを知っていたグレースは、そのワインを届けるよう公爵家の執事に指示を出した。
そしたら、そちらから連絡が来たというわけだ。
そのワインがかなり希少なものだったというのがみそだ。
ロージーだったころは伯爵家の身分ではそのワインを手に入れるのに苦労したものだが、公爵家ともなればなんともないらしい。
「どうやったんだ?」
おそるおそる目を見ると、大きく見開いている。
よほどほしかったのね。
セントバード商会は代替わりしたところで、父親は完全な国内派でチェックマイスター家についていたが、息子は現在まで中立を貫いている。どちらが王太子になるかを見極めているのではないかと言われていた。
「それは秘密よ」
「は?」
ムッとしたのかしかめ面になる。
「わたしにだっていろいろ人脈はあるのよ」
濁しておくしかない。
ロージーのときの人脈なので言えるわけがないのだから。
「ふうん。まぁいい」
少し機嫌が悪いようだ。
藤棚のところまで来たのでアレクサンダーは立ち止まった。
「綺麗だな」
5月は藤棚の季節。
咲き誇っている。
「そうね」
神殿の白薔薇園で言った時の『綺麗だ』とは全然ちがうのねとグレースは思った。
こっちのがいいわ。
怒っていても。
感情を出しているこの人は決して嫌いじゃないとグレースは思った。
「そうだ。今日はおまえを誘いに来たんだ」
おもむろにグレースの方へ向き直ったアレクサンダーはにっと笑った。
「舞台かオペラどっちがいい?」
「は?」
何を突然?
「もちろんデートさ」
「ええっ!仮面夫婦じゃなかったの?」
思わず大きな声になる。
「お前、声がでかいよ」
きょろきょろと周りを見回している。
侍女ですら聞かれたら困るのだ。この人にとっては。
「ごめんなさい」
「仮面夫婦でも必要だろ?デートは」
「仲いいですよアピールってこと?」
「まぁそんなとこだ。だからどっちの方が好きなのかなと思って」
演技なのにどっちがいいか聞いてくれるのねと思いながら、グレースは演劇を選んだ。
「演劇だな。わかった。じゃぁ来週予定しておけ。またさきぶれを送る」
「はい。わかりました。婚約者様」
おどけていうと、アレクサンダーは少し複雑そうな顔をしてそのまましばらく藤棚を眺めていたのだった。




