プロローグ ~ロージー・エラ・ガードナーの人生
2作目です。
ドキドキ…
「ねぇ。家も婚約者も奪われるってどんな気分?」
喉が、お腹が、焼けるように熱くて、意識が朦朧とする中、昨日まで仲のいい妹だと思っていたシエナが悪魔みたいにニヤリと笑った顔が見えた。
どうやら、自分は椅子から落ちて床に倒れ込んでいるらしいということにその時気づいた。
まるで悪魔そのものみたいに邪悪な形相をしたシエナが自分の胸ぐらを掴んでいる。
あまりの邪悪さにゾッと背筋が凍りつく。
どういうこと?
かわいい妹はどこにいったの?
「み、水をちょうだ…」
声が出ない。
ああ喉が…焼け爛れるようだ。
「はぁ?この後に及んで水ですって」
ケラケラと笑いながら隣に立つ男を見上げた。
その視線を辿ると、そこには自分の婚約者のサミュエルがいるではないか?
シエナの肩を愛おしそうに抱いて、額にキスを…
え?
「ほら見て?死ぬ間際になってすら何もわかってないみたいよ。この女」
クツクツとシエナの口からまた笑い声が聞こえる。
信じられないほど嘲りに満ちた笑い声が。
「そうだな。俺がお前みたいなどこにでもいるような普通の女を相手にすると思ってたのか?それを頭お花畑っていうんだよ。お前など、伯爵家の後継だから結婚してやろうと思ってただけの女だ。もう伯爵家の後継者でないお前に用はない」
え?
伯爵家の後継者でない?ってどういう?
「お父様は後継者に私を指名なさったわ。もうあんたはただのお荷物なの。さっさと死んで頂戴」
サミュエルを見上げると、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべている。
ああ…。
この人も同じ…。
もともと女癖の悪い人だとは思っていたけれど…まさか妹にまで…。
絶望が体全体をつつむ。
この2人は、悪魔だったのね。
そして自分が今、お茶の時間に…紅茶の中に毒をもられてしまったのだということにもようやく気づいた。
まったくサミュエルの言う通り、頭お花畑だ。
シエナが…こんな悪魔だと言うことに気づかず今まで…信じてきたのだから…。
わたし…悪魔に…殺されるのね。
これも人生か。と諦めの境地に襲われていた時だ。
シエナが高らかに笑った。
「冥土の土産に教えてあげるわ。あなたの母親はねぇ。わたしが殺したのよ」
何ですって?!
今なんて…?
カッと目を見開いた。
「あら怒ってるの?おもしろーい。だいたいムカつくのよ。あんただけなんで魅了にかからないのよ!あんただけ思い通りにならないのよ!イラつく!はやく死ね!」
最後に見た妹の顔は悪魔そのものだった。
「許さない!お母様を殺したですって!絶対ゆるなさいから!あんたの人生、絶対…成功させない!絶対に…つぶす…」
薄れゆく意識の中で、絶望と怒りにまみれながら、伯爵令嬢『ロージー・エラ・ガードナー』は、短い18年の人生に幕を閉じたのだった。
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