第二章(11) 街の人々
超久しぶりの更新です。
◆Firo◆
だいぶと、日も沈んだ。
紆余曲折あったが、依頼はこれで完了した。セドアに戻ったフィーロはシェリカを背負ったまま町長宅までその足で向かう。軽いから問題ないんだけど、なんつーか下僕みたいな扱いを受けてる気がして嫌だわコレ。
起こしたら怒られるわけで、扱い的には自然とどこぞの姫みたいなものになる。ある意味下僕で合っているから複雑な気持ちになった。
「おう、戻ったかフィーロ!」
店のシャッターを半開きに、その下をくぐる様に出てきたのはマシューさんだった。店仕舞いのようだ。シャッターを完全に閉めて、鍵をかけると、首に巻いたタオルで手を拭った。
「あ、マシューさん。ただいま。これから酒盛り?」
「おうよ。お前さんも来るかい?」
奢るぜ、と財布をふらふらさせる。
「いや、俺まだ未成年だし」
「ジュースでもいいじゃねぇか」
「そう言って昔カクテル飲ませたことは忘れてないんだどな、俺。あの後シアさんにめっちゃ怒られたんだからな?」
「ははは。シアに怒られるとかご褒美じゃねぇか」
「それはアンタだけだ」
毎度毎度、あんな恐ろしい思いをしてくればわかる。あの人は真正のサドだ。本人はどうも隠してるっぽいけど、バレてる。あの人俺を吊るし上げて口元笑ってたもん。恍惚としてたもん。
これだからあの孤児院の女の子は基本的に影響を受ける。シェリカの傍若無人ぷりはここで磨かれたのかもしれない。なんの養成所なんだろうか、あそこは。
今後も生まれるであろうまだ見ぬサドっ娘たちに戦慄しつつ、順応している男たちは大したモノだと思う。断じてマゾだらけな訳じゃない。そんなのは目の前のおっさんだけで十分だ。
「俺このまま町長さんとこに行くし、終わったら顔出すよ。ミヤコさんのどこだろ?」
治癒士学科の菊乃先生と同じ鸞明出身のミヤコさんは、大層美人で、マシューさんだけじゃなく、町の男は仕事終わりに絶対に酒を飲みに訪れる。セドアで働く男衆の永遠のアイドルだ。
「おお。んじゃ待ってるわ」
マシューさんと別れると、後ろでもぞもぞと動く感触があった。
「ううー……」
「起きたか?」
ようやくシェリカが目を覚ましたようだと思ったが間違いだった。
「おなかすいた……はむ」
首筋にかぶりつかれた。全身がぞくっとする。唾液のぬめっとした感触と、微かに触れる舌先。
「ふお!? 何してんの!?」
「おいひい……」
寝ぼけながらおっそろしいこと言うな!
そう叫びたかったけれど、次の瞬間漏れたのは悲鳴だった。
「いってええええ!」
噛みやがった! 甘噛みとかじゃない! 肉を噛み切る勢いで噛みやがったいってええええええ!
このままではいかんと本能が悟ったのか、反射的にシェリカを下ろす。正確にはそのまま手を離して落とした。やっべ。
「ったぁ……な、なにするのよフィーロ!」
「いやこっちのセリフだ! 寝ぼけてても首筋に噛み付く奴があるか!?」
「知らないわよそんなこと!」
「そりゃそうでしょうね!」
寝てましたもんね!
「でもよく見ろ俺の首筋! 軽く血まで出てるよ!」
「うー……でもあたしのとは限らないし」
「噛まれる直前まで俺が背負っていたのはお前だ」
「ううー……寝ぼけてたんだもん」
「いやだからってさぁ……こっちだって落とすだろ。普通。まあ、俺も悪かったよ」
手を差し出すと、シェリカはぎゅっと握り返してきた。ひょいと引き上げる。
「報告さっさとして飯にしよう」
「うん」
◆◆†◆◆
町長宅に辿り着くと、明かりが見えた。まだ仕事をしているのだろう。ともあれ無事に帰ってきたことくらいは報告しなくてはならないだろうと戸を叩くと、声が返ってきた。
フィーロとシェリカの顔を見て、町長ヘンドリックはは暖かな笑みを浮かべた。
「二人ともおかえり」
「ただいま、町長さん。依頼は完了しました」
ギギドについての説明はしようがないと、正体不明の化物としておいた。出来る範囲で粗方の説明をする。まあ、厳密にはフィーロ達ではなく、リカルド達が根元を断ったのだが、それも説明すると長くなるのでやめておいた。
「お疲れ様。怪我はなかったかい?」
「擦り傷くらいです」
「夕刻、大きな爆発が見えたから少し心配していたんだ。あれは魔術か何かだったのかな?」
「あーまあ、そんなところです」
やっべ。見られてんじゃねーか。そりゃそうか。上空にあんなものが打ち上げられれば誰だって気付く。近辺にはセドアの街くらいしかないし、この街の住人以外に見られたということはないだろうけど。
とはいえ大体の人は魔術だと思うだろうし、誤魔化しておいた方が無難か。迂闊に神器のことを漏らすと面倒になりそうだし。
「これ以上被害が広がる恐れはもうないと思いますが、また起こるようなら一報下さい。なんとかします」
「助かるよ」
「フィーロ、お腹空いた」
「もう少し待ってくれ」
「そうか、まだ晩御飯を済ませてなかったんだね。どうだろう、一緒しないかい?」
「お誘いは嬉しいんですが、マシューさんに酒場に顔出すって言ってるんです」
「そうだったのか。いや、それなら私も行こう。最近なかなか顔を出せていなかったからね。構わないかな?」
「俺は全然。シェリカもいいよな?」
「あたしはフィーロがいれば問題ないわ」
「ああそう」
「シェリカ君は相変わらずだね」
町長さんは笑っていたが、フィーロは複雑だった。いい加減弟離れしてくれないかな、本当に。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
「あたし、お肉が食べたいわ!」
「はいはい」
好きにすりゃいいじゃない。
◆◆†◆◆
というわけで酒場にやってきた。
ミヤコさん曰く酒場じゃなくて惣菜屋らしい。「雅亭」という看板が打ち据えられた一軒家のような店は、セドアの男たちの憩いの場となっている。
既に酒盛りは始まっているようで、扉を隔てていても声が響く。一体何人いるんだか。満席だったらどうしようか。
「いらっしゃ……ってフィーロちゃん」
「どうも。って、その呼び方やめてくださいよ」
「おっきくなったねー。そっちはシェリカちゃんじゃん。なんだよなんだよ。美男美女になってさー」
「テンションたけーっすね……」
酒飲んでないだろうな。
「シアから聞いてたら帰ってきてるのは知ってたけどさ。いやー感無量だね。ほらリエラ、愛しのフィーロ君だよ?」
そう言って手招きすると、ちょこちょこと現れたのはリエラだった。なんだかこの酒場にはそぐわない、フリフリフワフワなエプロンドレスに見を包んでいる。
「な、なんでフィーロがここにいるのよ」
「飯食いに来たんだけど……お前こそここで何してんの。バイト?」
「手伝い……たまにだけど」
「そろそろ一人じゃキツイからさぁ。時々こうやって手伝ってもらってるのよ。馬鹿な男衆もリエラ目当てでわんさか来るしね」
「俺は断然ミヤコさんだよ!」
「あーそうどうでもいいわ」
勢い良く立ち上がって何やらフォローらしきものを入れたマシューさんは間髪入れずに撃沈した。幸せそうな面してるからいいんだろうけど。いや、いいのか?
まーリエラは確かに可憐な装いだし、癒しを求めるセドアの男達の気持ちもわからなくはないけど。
そんな風に思っていると、リエラは頬を赤らめて、もじもじしながらフィーロを睨んだ。
「そんなじろじろ見ないでよ……」
「ん、ああ。わりいってぇ!?」
背中に走る鋭い痛みにフィーロは身を捩った。見れば脇のあたりをシェリカが抓っていた。いったい! 超痛い! 千切れる!
「何すんだよ!」
「デレデレしてんじゃないわよ」
「してないよ!?」
あらぬ罪を着せられていた。つーか、なんなんだ。俺は女子を見ただけで罰せられるのか? 酷くないか、それ。目ぇ潰せってか。
フィーロは断固抗議したかったけど、シェリカのこのむくれよう、下手に口を出せば舌を抜かれる程度じゃ済まない。最悪死んでしまう。
反論は諦め、背中を擦りつつとにかく席に案内してもらおうとリエラに向き直ると今度はこっちも不機嫌面になっていた。なんなんだ。
「何怒ってんだ……?」
「別に……怒ってないし。注文どーするの?」
「いや、席に案内してくれよ……」
「外で食べればいいじゃん」
「酷くね?」
ていうかヒデェ。
「照れてんのよ、察してあげて」
「ち、違うもん!」
ふふふ、と含みありげな笑みを見せるミヤコさんにリエラは怒鳴るように抗議すると、キッとこちらを睨んできた。再びこちらに矛先が向いた。おかしい。
「違うからね!」
「二度も言わなくても……」
そんなに大事なことなんでしょうか。
どうしたらいいのかわからなくて後頭部を掻く。気付けば室内全体がなんだかによによしていた。なんだ、この大人たち。
「青春だねぇ」
後ろで、町長さんが感慨深げに漏らした。なんのこっちゃ。
「ま、とにかく座ろう。シェリカ君も空腹が臨界のようだしね」
「……そうですね」
不機嫌ですと言わんばかりの黒黒しいオーラを撒き散らすシェリカを横目にフィーロは町長さんに同意する。にしてもこいつ、頬を脹らませるのが癖になってる気がするな。
ちなみに女の子の我儘っ娘アピールなどではなく、単純にシェリカの本質なので余計質が悪い。被害に遭うのは基本的にフィーロである。
席に座りメニューに目を通す。シェリカは第一声、
「豚角煮!」
などと声を張り上げた。おっさんかこいつ。
まあ、好きに食わせよう。基本的に肉が足りんからな。むしろもう少し太ってもいいくらいだ。
「フィーロちゃんは?」
「あ、それじゃサラダで」
「なんか、性格出てるわねぇ……」
「なんですか」
野菜を先に食うと血糖値の上昇を抑えられるんだぞ。健康にいいんだぞ。何が悪い。
「ま、フィーロちゃんらしいわ」
「なんなんですか……」
勝手に納得されたので、いまいち釈然としない。が、考えても仕方ないので早々に見切りをつけることにする。シェリカは出された豚角煮にかぶりついている。もう少し綺麗に食べろよ意地汚い。
姉の残念なテーブルマナーに若干辟易していると、フィーロの前にサラダが置かれた。
「……どうぞ」
「お、サンキュ」
盆を抱えるリエラに礼を言うと、早速フィーロもいただくことにした。生野菜万歳。
「あ、あのさフィーロ」
「ん?」
「いつまでいるの?」
「んーそうだな……戻って依頼成功報告もしなきゃだしな、長居は出来ないかも」
それに、ダンデのこともある。リカルドの台詞ではイネス先生が関わっていることは明らかだったので、それも確かめなくてはならない。
フィーロの言葉に、リエラは俯いていた。
「そう、なんだ」
そんな落ち込んだ声まで出されて、少し悪い気がした。というか、まあ、なんだ。嬉しくもある。
故郷といえば聞こえはいいけれど、あの頃の俺はむしろ塞ぎ込んでいた方だったのに。
思えばリエラは何かと口煩かった。煩わしい、とまではいかなかったけど、あの頃は面倒だと思っていたほどだ。態度は冷たかったくらいだし、もう嫌われてるかもしれないと思っていたのに、こうして気にかけてくる彼女の優しさが染みる。
「でもま、しばらくはいるよ。里帰りなんだし」
「それじゃあさ、あ、明日……時間取れる……?」
「ん? いいけ――」
「フィーロは明日あたしと出掛けるのよ」
どこ行くのかとか聞く暇すら与えられず、シェリカが何故か割って入ってきた。口の周りが豚角煮の汁で汚れていて締まりがない。やめて悲しくなる。
「いや、俺聞いてないんだけど」
「今決めたもの」
「んな横暴な……」
「何よ。嫌なの?」
「少なくとも口周りドロドロの奴とは出掛けたくねぇよ……ほら、こっち向け」
手元のティッシュでシェリカの口許を拭う。
拭きながら問う。
「つーかどこ行くんだよ?」
「明日決めるわ!」
んなアホな。
「な、何よそれ!」
ぽかんとしていたリエラが怒鳴った。机を殴らんばかりの勢いだ。なんか怖くなったねこの娘。
しかしリエラの怒りももっともである。かくいう俺も「ハァ?」みたいな面になってますので。ホント何言ってんのこいつ。
「リエラはどこ行くつもりだったんだ?」
「え? それはその……」
「その?」
「き……決めてない」
んな馬鹿な。
「二人して行き先決まってないのかよ……」
「あんたこそ偉そうなこと言えないじゃない!」
「シェリカに言われたくないわ!」
「喧嘩すんじゃねーよ……」
め、面倒くせぇ……。そして困った。お馬鹿二人のせいでフィーロは頭を抱えるハメになった。
こういうの無鉄砲って言うんだよね。変なところ似てるな、この二人。なんか将来が心配だわ。未来の相手側の身がだけど。
せめて行き先が決まってるならそちらについて行こうと思っていたのだが、こうなると決めようがない。第三の三択として家でゴロゴロするというものがあるが、これはまあ却下されるだろう。そもそも孤児院でゴロゴロ出来るわけねぇ。絶対に手伝いとか年下の子ども達の面倒見させられるだけだ。その辺は容易に想像できる。
となればとっとと出掛けてぶらぶらとするのが一番有意義だと思う。せドアの周りなんもねぇけど。自然は豊かだ。久々の故郷を散歩ってのも悪くない。
……確かに、悪くないな。
「んじゃ明日散歩するか。弁当でも持ったらそれなりに形になるだろ」
そう言うと、互いに睨み合う二人が同じように首を傾げた。ぱちくりした目まで同じだ。実は仲いいのかお前らは。
「ピクニック?」
シェリカが首を傾げたままで聞き返す。
「まあ、そんな感じだな」
「それって、あたしとフィーロとで?」
さりげなくリエラを省きやがったこいつ。
「なんでわたしを省くのよ! むしろシェリカが留守番してなさいよ!」
「はあ? あたしとフィーロは一心同体、5W1Hを共有してるのよ?」
「してねぇよ」
聞いたことねーよそんなの。初耳過ぎてもう一心同体破綻してんじゃねーか。
「フィ、フィフィフィーロの不潔!」
「なにゆえ!?」
「ほっほーぅ……フィーロってば、背徳に快感を覚えるタイプか……罪だな」
顎をさすりながらしたり顔でなんか言ってくるマシューさんにイラッときた。
「あんたは黙ってろ」
「フィーロが反抗期っ」
「マジで黙ってろよ!」
酒瓶で頭ぶん殴ってやろうかと思った。
「や、むしろ反抗期が終わって打ち解けた方なんじゃないかな。フィーロ君の場合は」
「町長さんもやめてくださいよ……」
そう冷静に分析とかされると、恥ずかしい。狭い街だし、住民みな家族みたいなところがあるから、フィーロの昔なんてみんなが知っている。
それこそ、フィーロが忘れていた記憶のことすらも。
本当に優しい街なのだ。
おかげで自分がとてもガキだってことを痛感して、余計に恥ずかしい。いつかはちゃんと恩返しが出来るのだろうか。
どっちにしてもとっとと大人にならなきゃな。
ミヤコさんが空いたコップに水を注ぎながら、思い出したようにあ、と口を開いた。
「てゆかさ、フィーロちゃん向こうでカノジョとかいないわけ?」
「向こうって……?」
前世的な何かですか? それとも死後の世界?
「だからガッコの方でさ、いないの? そういう人」
「あはは、いるわけないじゃないですか」
万年ビリ、ケツから数えたらトップ、雑魚の頂点に立つこの俺が、女の子にモテるなんてありえねぇ。世界がひっくり返ったとしても有り得ないね。
まあ、そういうのに興味ないわけじゃないですが。むしろ興味津々ですが。興味ばかりが先行して、結果は伴わないですが何か。
「えー。フィーロちゃん顔は可愛らしいんだし、モテると思うんだけどなぁ」
「可愛いい男なんていません。幻想です」
俺は格好いいと言われたい。
一瞬、悪寒がした。思い出してはいけない過去を思い出しかけた気がする。やめよう。きっとそれはパンドラの箱だ。
「と、とにかく明日はそういうことだ。いいよな?」
「まあ……」
「わたしは構わないけど」
二人とも渋々という顔で了承した。本当に、そういうところはそっくりですね。
ともあれ、妥協案が可決されたのでこの場は収まったと言える。ようやくゆっくり飯が食えるというものだ。
「いいなぁ。デートとか」
「その辺散歩するだけですけどね」
ミヤコが遠い目をして言うが断じてデート違う。デートってのはこう……あれだ。うん。したことないからわかんねーわ。
あ、そういえばリリーナさんと約束あるんだよな。一応、あれデートか。なんか本人言ってたし。からかわれてるだけだろうが。
でも日取りとか全然話し合わないまま帰郷してしまったよな。どうしよう。とりあえず、学園の催しがあるはずだからそれに間に合わせるとしよう。
問題はいつか知らんということだけだ。
大問題だ。
「あたしももう少し若かったらなー」
「ミヤコさんまだ若いよ! 俺、立候補します!」
「却っ下♪」
超いい笑顔でマシューさん一刀のもとに裁断された。清々しいほどの袈裟斬りだ。とはいえ斬られた方は恍惚とした表情なので、あれはあれでいいのかもされない。……いや、よくねぇよ。
マシューさんに便乗して他の客も立候補していたが、どれも超いい笑顔で斬られていた。全員なんか嬉しそうだし。なんだこの街変態ばっかか。
「どっかにいい男いないかなぁ」
「散々斬り伏せて言う言葉がそれですか」
剛気というかなんというか。
「やっぱ付き合うならいい男がいいじゃん? そこへ来ると村長さんはどう?」
「それは光栄だが、私はもう還暦だよ」
その歳でまだまだ現役バリバリな体格だからこの人は何気にすごい。昔は軍人だったのだとまことしやかに囁かれている。まあ、とにかく謎の多い人だ。
「残念。じゃあここはフィーロちゃんかな?」
「やめてください死にますよ。俺が」
首筋に冷たい殺気を感じながら即拒否。
迂闊な受け答えは死を意味する。何より、一番怖いのが隣でご飯に夢中だったはずのシェリカだ。おい、こえぇよ。髪咥えんなよ。ご飯粒つくぞ。
「冗談よ。若い子に張り合えるほどの元気はないわ」
「はぁ……」
よくわからんが、波紋を投げかけるのはやめて欲しい。とんだオーバードライブだ。死の色をしてやがる。震えるよ心臓。凍えるよ身体。
死の淵から生還したのはいいが、シェリカとリエラは終始不機嫌な面をして怒気を放っていた。なんなんだお前ら。やることなすこと同じすぎて実は仲いいだろ。
溜め息を飲み込むようにして水を一口。
疲れを癒しに来たはずなのに疲れている。釈然としない。
けどまあ、退屈なよりはいいか。