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すばらしきかなこの世界  作者: 蝉時雨
第二章 ディヴァイン編
51/54

第二章(9) 熾天使の翼

2013/4/24母親の名前間違ってたので修正(笑

◆Firo◆


「納得いかねえ」

 シンドが突然声を荒げた。唐突すぎて皆がきょとんと首をかしげる中、ふむとリカルドは親心か反応してみせた。

「どうした、シンド」

「だってそれ俺のもんになるバズだったじゃん? なんでぱっと出のこんなヤツが? ありえなくね? つーかありえねえ」

 それ、とはたぶんこの喋る剣のことだろう。いや、別に欲しいならあげるけど。つーか、

「こんなヤツで悪かったな」

 ま、悪口には慣れてるんですよ。別にかまやしませんよ。気にしてないよ。全然。

「ダンデライオンが選んだんだから仕方ないだろう」

「神器が持ち主を選ぶって? はっ、笑うね。武器なんざ誰が持っても同じだろ」

「じゃあお前はトルトゥリエがあるだろう」

「目の前に強い武器があるならそっち選ぶのは当然だろ? 頭使えよリカルド」

「君は疲れるね」

 全くもって同意だ。

「なんにせよ俺は認めねー。どうしてもってなら……」

 シンドが右手を掲げた。

 その周囲にまるで意思があるかのように剣が集まった。刃先がこちらを向く。

「俺を倒してみろ」

「えぇ……めんどくせえ」

「そこはのってこいよ!」

 熱血とかいいって。ガナッシュで十分足りてるんで。疲れるんだよね。

「シンド。貴方は……リカルド、なんとか言ってください。というかちゃんと躾けてください」

 この人、怖いな。

「ふむ……面白いな」

「リカルド!」

「いやメイディー。彼らの力を知るよい機会だよ。まあ、この場をこれ以上荒らすのは死者に申し訳ない。場所を移そうじゃないか」

 なんか話が勝手に進んでいる。俺の意思を完全無視で。

「ふん。フィーロにボコボコにされればいいわチビ助」

「ああ? やってみろよペチャパイ」

「ペ……フィーロ! あいつムカツク!」

「ああうん。どっこいどっこいだと思うわ」

 お互いまだ知り合って間もないというのにどうしてこう互いのコンプレックスを攻撃しあうのか。相性とか以前にこいつらのコミュニケーション能力にいささかの不安を覚える。

「というわけでフィーロ君、構わないかな」

「嫌です」

「清々しいね」

「争いごとは苦手なんで」

「本当にミストに似ているね。彼も同じことを言っていた」

「興味ないんですが」

 父親がなにかしてくれた記憶がない。むしろ母さんに負担かけたカスとしか思えない。それと似てるとかマジで勘弁。

 フィーロにとっての家族は母とシェリカだけだ。母亡き今、シェリカだけがフィーロにとって家族であり、なによりも守らなければならないフィーロの世界だ。

「ミストも普段は争いごとに積極的ではなかったけれどいざとなるといつも言っていたよ。『メーアのためなら世界だって壊す』と喜々とすらしていた」

 そんな奴とは絶対似てねえよ。

「正味どうでもいいです」

「嫌われたものだな……まあ、どちらにせよ神器の扱いには慣れてもらわないといけないからね。シンドはいい練習台になるさ。丈夫さが売りだからね」

 この人も怖いな。

 軽く仲間をサンドバック認定してるし。

「拒否権はないわけですね」

「そういうことだ」

 リカルドはにこりと笑った。

 マジで怖いな、この人。


◆◆†◆◆


 で、連れて来られたのは広い空地。

 この辺はそういう場所が多い。開拓期から手が加わっていない土地はわりとあるのだ。ここはもう草が生えて茫々としているが、近くに壊れた小屋が見える。昔、家畜などとともに誰かが住んでいたのかもしれない。

 フィーロは心底めんどくさいというで立ち尽くし、向かってシンドは闘志を燃やして爛々と目を輝かせていた。むしろシンドのそれが余計にフィーロを鬱々とさせていたと言ってもいい。

「さぁ、ズッタズタにしてやるぜ」

 それって殺すってことか。好戦的とかそういうレベルの話じゃねえし。

 おいこれ、危なくなったら助けてくれるんだろうなマジで。

『妙なことになりましたね』

「主にお前のせいでな」

 飄々としてやかる。オメーが一番妙ちきりんな奴のくせに。

「トルトゥリエ!」

 シンドの周囲に剣が集まる。

「さあ、お前も構えろ!」

「さっきから、あれはなんなんだ」

『トルトゥリエ。八本で一つの飛剣型神器ダンシングエッジ――使用者の思念によって自在に操ることのできる神器です』

「はぁ……」

「行くぜ!」

『来ます』

「わかっとるわ!」

 シンドの剣が二本飛んでくる。速い。が、直線的だ。避けるのは容易い。フィーロは横っ飛びに躱す。

 着地点に再び剣が飛んできた。「クソ……!」飛び退り避ける。その間にシンドは距離を詰めてきた。刺さった剣を掴んで、横に薙ぐ。

 フィーロはしゃがんでそれをやり過ごし、すぐに距離を取った。しかしさらに剣が飛んでくる。今度は二方向。前は駄目だ、シンドがいる。後ろもマズイが、上に飛ぶのはもっとマズイ。

 後退しかない。つまりそれも読まれてるわけだ。剣が飛来する。

 なんつー厄介な武器だ。

『驚きました。かなりの使い手です』

「どうするよ!?」

『反撃しましょう。コマンドは覚えていますか』

「一応な! ダンデ、ライオンハートだ!」

『roger. open command, skill "Lion-Heart" ...execution.』

 ダンデライオンがコンマ数秒で変質する。片刃の刀身は直線的なフォルムに変化はなくとも、斬撃に特化しているであろうことが容易に伺える。

 ライオンハート。

「勝手に飛ばすなよ」

『勿論です』

 ホントかよ。

 飛来した剣を弾く。重い。速さと質量だけでも相当なものだ。当たれば即死は間逃れない。おい、危なすぎるぞコレ。

「避けてるだけじゃつまんねぇぜ!」

「回避は俺の専売特許なんだよ!」

 避け続けてチャンスを狙うという線が一番有力だろうが、こいつ意外に……

『大した集中力です』

「俺も思ったよ」

『あの神器は遠近や敵の数を問わず戦闘できる万能型の神器ですが、操作上一つ大きな欠点がありました』

「集中力か」

『いえ、それもありますが、八本の剣を同時に動かす制動力です。思考パルスを各剣と同調させる仕組みをとる神器でして。多角的思考は女性に多く見られるものですが、女性だと膂力面で劣るため、近接戦闘が弱点となります。逆に男性だと膂力面では期待できても直線的思考であることが多く……』

「八本も扱えないってことか。でもあいつ普通に使ってんぞ!」

『類稀な資質の持主のようですね』

「淡々と……」

 馬鹿そうに見えてあいつかなり凄い奴じゃないか。サンドバック扱いできるわけない。

『また平地戦ではトルトゥリエは最高のパフォーマンスを発揮します』

「……例えばあんな?」

『ええ、例えばあのような』

 シンドは宙にいた。浮いているわけではない。剣を足場にしているのだ。

『より立体的戦闘が可能になります』

「さあ、《翼ある剣エッジウィズウィング》から逃れられるか!」

 飛剣が収束する。その場でドリルのように高速回転を始めた。なんだかわからないが、オーラ的なものが見て取れる。

『Dリアクターを開放しています』

「よくわかんねーけど、やべえってこれ」

『こちらもDリアクターをフル稼働すれば弾けますが、次の攻撃を防ぎきれないかもしれません。確率演算しますか』

「いらねーよ!」

『Okay, master. しかしこのままではまずいので、こちらも同型で対抗しましょう。アシストします』

「は……?」

「吹き飛べや!」

『――alter skill command "Seraphis"...exection. expand arial edge.』

 螺旋を描くように剣が束になって飛んでくる。ご丁寧に半分飛ばしてきている。あれは防げても、次は無理だ。

 そもそも、この攻撃も無理だ。

「ふ……っざけんな!」

 手から剣が消えていた。跡形もない。

 どうしろっていうんだバカヤロー。

 もう回避もままならない距離。少しでも信じた俺が馬鹿だった。

 拳でなんとかなるか……?

 わからないが、やるしかない。向こうでだただ傍観している奴らは宛てにならない。シェリカは……飛び出しそうだけど。宛にはしたくない。だからって死ぬのもゴメンだ。

 意を決して構えるフィーロの眼前でシンドの剣が停止した。

「な……」

 違う。阻んでいる。何かが。なんだ? 剣のような形をしている。いや、尖ってるからそう見えるだけで、ただの棒にも思える。

『間一髪でした』

「ダンデか……?」

『セラフィスです。トルトゥリエをもとに設計されたコマンドで、Dフォトンを結晶化しています』

「いや知らんけれども」

「チッ……猿真似かよ!」

『猿真似ではありません。言うなれば進化です』

「いけしゃあしゃあと! なら、これだ!」

 高飛びのように剣から飛び降り、一直線にこちらに向かってくる。シンドのその姿は鷹のようにも見えた。

『フィーロ殿、応戦を』

「どうやって!」

『剣は触れられます。背面に六本常駐、目の前に四本、新たに作り出せるのは現状百四十本です』

「わけがわかんねぇっ……」

『とにかく応戦を』

「クソッタレ!」

 わけがわからないけれど、それでもやるしかない。背面といったか。手探りをしたら、手に触れるものがあった。温かい。これか。

 握り締め、猛然と襲い来るシンドに目がけ振り切る。

「な……クソ!」

 シンドの剣とぶつかり合い、光が飛び散った。

 手に握っているのは光そのもの。結晶のようなそれは、しかし確かに存在していた。

 重さはあまり感じられないけれど、そいつは紛れもなく剣だ。

「これが……セラなんとか……」

『セラフィスです』

「なんなんだこれ」

虚剣エアリアルエッジとでも呼んでください。扱い用によっては万能の刃です』

「よくわかんねーけど……いくぞ!」

『行くのはフィーロ殿です。私はついていくだけです』

「やる気削ぐんじゃねーっつの!」

 淡々とした口調が余計に神経を逆なでさせるが、怒りはこいつにぶつけても仕方ない。

 フィーロは光る剣を両手に、反撃を開始する。

 虚剣だかなんだか知らないが、振り回せるならフィーロにとってはすべて同じだ。不満があるとすれば軽すぎることくらいだが、今更文句も言えない。

「せいっ!」

「あめぇ!」

 渾身の一振りはシンドに阻まれる。剣術の腕も大したものだ。俺と同じで我流に見えるが、十二分に強い。

 反対の剣を薙ぐと、シンドもそれに応えるように剣を振るう。剣戟の音というよりも、何かが爆ぜるような音が響き渡る。

 腕が痺れそうだ。何せ軽い。質量の差で、こちらが押し負けるのは明らかだ。それを膂力で補っているわけだから、腕にかかる負荷は相当なものである。

 どこが万能の刃だ。軽過ぎるのをどうにかしろっつーの。

「そんな軽い攻撃が効くかよ!」

 シンドの剣が遂にフィーロの剣を砕いた。

 光が霧散する。いや、つーか、おい。

 どこが万能の刃だ!?

「おい、脆すぎんぞこれ!」

『芯のない虚剣ですから』

「淡々と言うな!」

『そもそもそのために数が用意されています。手数の勝負ですよ』

 目の前に新たな剣が生まれる。

 フィーロはそれを掴んで応戦を続行する。だけどこれではジリ貧だ。無尽蔵に剣が生まれるのか、限度があるのか……ダンデが何か言ってたな。百四十本だったか。無尽蔵ってわけじゃないらしい。

 これが尽きるまでに倒さなきゃならない。

 さっきの虚剣はシンドの攻撃に何発耐えれた? 六回くらいか。少なすぎる。攻めきる前に剣が壊れる。耐久性は宛てにならない。

「なら……!」

 ダンデの言葉通り、手数しかない。

「ダンデ、これはトルトゥリエがモデルだって言ったよな!」

『はい』

「よっしゃわかった!」

『何がでしょう』

「うらあぁっ!」

 投げた。

 何回耐えれるかとか知らん。そんなものにしがみつくより、投げたほうがスッキリする。背中にあるぶんも投げた。

「ダンデ! 次々行くからお前も手伝え!」

 トルトゥリエがモデルだというのなら。

『奇想天外ですね。ですが――』

 剣が生み出される。次々と。続々と。

『実に面白い戦法です』

「やるぞ!」

『Okay, master.』

 止められるなら止めてみろ。

 ありったけの死の棘デッドスパイクだ。いや、棘じゃないか。トルトゥリエは翼のようでもある。セラフィスが同型というなら、例えるべきは翼。なら、こいつは羽根だ。

 ま、なんだっていいか。

「おもしれえ……来な!」

「んじゃお言葉に甘えて……やれ!」

 更に展開。

 前方からの攻撃だけじゃない。んな甘っちょろいことでは勝てない。言ったはずだ、ありったけだと。

「あ……はあぁ?」

 シンドが呆けた声を漏らすのも無理はない。フィーロ自身、驚いている。

 どこまで展開できるのかは知らないが、出来る限りの剣を生み出した。百本くらい。すげえな。

 一撃は軽くとも、これだけの数を相手にするのは大変だろう。特に防御を考えないこの手の奴には。

「仕返しだ!」

 三本一組、ドリルのように回転させる。

 数は力だ。だが物量作戦にもう一つスパイスを加えるというのなら、さっきやられたことをそのまま返すことだろう。

 射出された虚剣の束は、光の筋を残しシンドを猛追する。

「しゃらくせぇッ……!」

 しかしシンドも並の剣士ではない。群がる剣を弾いて、時には叩き伏せて破壊している。彼の手にない剣は盾となり、シンドに到達する虚剣は未だない。

 なまじ幅広な剣だ。盾に使われることは予想出来た。硬そうだしな。

 さて、どうやって突き抜けるか。

『もっと面白いものがありますよ』

「へえ。例えばどんな」

 あまり期待はしない。ライオンハートの時ですでに俺は学んだ。同じ手は二度も通用しない。

 剣相手にそんなかっこいいセリフを使うことになるとは……。今はそれどころじゃないか。

『――Rupture command "immortal flare"』

 耳元で響くダンデの声(つーか音声?)と同時にシンドの周囲が爆発した。光が拡散し、花火のように弾ける。

「どうわあぁぁ!?」

 さしものシンドも爆風までは防ぎ切れず、そのまま吹き飛んだ。

「すげ……」

『元はDフォトンが濃縮された結晶ですから、それをこちらからの働きかけで破壊してやれば即席の爆弾が作れます』

「なんのことかサッパリだが今回は褒めてやるよ!」

『それは光栄です』

 しかしあれだ。全くこの場から動いていないのに、シンドを肉薄しているというのも変な話だ。

 戦ってる気がしなしなぁ。

 なんていうか、楽でいい。俺にピッタリだと思った。動かなくていいとか超便利。

 静観する形でシンドを眺めていると、一際大きな爆発が起こった。

「クソッ……タレ! 舐めんじゃねーぞコノヤロー!」

 土煙の中からすごい形相のシンドが現れる。こえーな。なんだその演出。

「舐め腐りやがって……もう手加減しねぇぞ」

「手加減してたのか」

『わりと本気だったように思います』

「るっせぇ! こうなりゃ本気の本気だ!」

 それはヤケクソともいうんじゃないだろうか。負けず嫌いっぽいよな、なんか見た目からしてさ。

 シンドが剣を構えた。周囲に展開する八本の大剣。フィーロの目にそれらが熱を帯び始めているように見えたのは、それらが淡く光り始めていたからかもしれない。

「トルトゥリエ、Dリアクターオーバードライブ!」

 淡く光る程度だったシンドの剣が、急に強く発光する。ダンデが形状を変えるときの光とよく似ている。だが、それ以上に攻撃的な色がフィーロにあれはヤバイと告げていた。

 フィーロの傍らでダンデが呟く。

『フィーロ殿、あれは確かに本当に本気の本気ですね。予想以上に危険です』

「見りゃわかるけどよ……」

 なにが出来るっていうんだ。

『オーバードライブした神器ディヴァインの力は、トルトゥリエに限らず全て圧倒的なものです』

「規模がわかんねぇんだけど」

『最大出力で、町が一つ軽く消せます』

「……」

 ダンデが冗談言うような奴には見えない。

「どうすんだよ」

『相殺するしかないでしょう。もしくはやり過ごします』

「出来んのか……?」

『可能か不可能かで言えば、可能です。防御用のコマンドがありますので。しかしやり過ごすとなると、周囲の被害は打ち消せません。観戦者たちにも被害が及ぶでしょう。もっとも、神器遣いプロヴィデンスなら対処出来るでしょうが』

「プロ……それなら、シェリカにはその術がないんじゃないか」

 シェリカを一瞥すると、「殺れー!」とか叫んでいた。血の気荒いよね、うちの姉。

『そうなります。焦らずとも、彼らが安全を確保してくれると思いますが。けしかけたのは彼らですし、それくらいの責任はあるでしょう』

「相殺する」

『本気ですか?』

「それは、俺の役目だ」

 他の誰にも譲らない。他の何を譲ったとしてもだ。なら、最初から選択肢は一つだけだ。

「方法を教えろ」

『了解です……が、方法自体は簡単です。こちらもリアクターをオーバードライブさせます』

「相殺、ね。やるぞ」

『roger. D-Reactor overdrive. command "Seraphis" ――mode shift, over form "Seraphi- Flugel"...execution.』

 眩い光がフィーロの身体を包み込む。瞬く間に光は収まると、フィーロは目を開いてすぐに確認する。

 が、特に変わったことはない。フィーロ自身は。少々目を疑ったので、一度目をこすってみるがやっぱり変わらなかった。

「……多くね?」

『私に備えられている七つの全補助リアクターを作動させました。全ての神器ディヴァインの中で私のDフォトンの総量は最多ですので、このような芸当も可能です』

「はー……」

 呪文を唱えられてもさっぱりではあるのだが、まさかさっきのとは比べ物にならないほどの剣の束が展開されていれば感嘆の声を漏らさずにはいられないというものだ。

 先刻ダンデが言っていた百四十本など、ゆうに超えているんじゃないか。しかも剣の大きさまで大きい。

 というか、なんかの芸術品にすら見えるくらいに片刃や両刃など様々な形状の剣がシンメトリーに翼を成していた。

「やるじゃねぇか……でもなぁ、俺も退けねえんだよ!」

 高らかに吠えて構えたシンドの剣は一本だった。問題があるとすれば、とてつもなくでかいということだ。

 その長さは刀身だけでおそらく二メートル近くはある。小さな身体には不釣り合いなほどの大剣は、煌々と光を放つ。

 その威光は確かに力を示していた。つまりあれが本気の本気のシンドなのだろう。

『トルトゥリエは合体剣でもあります。オーバードライブ時の完全体があれです』

「そう、こいつが俺のトルトゥリエ・スペシャルだ!」

「うわ、ネーミングセンスねー」

『同感です』

「うっせぇ!」

 名前はともあれ、シンドの剣の放つ光が強くなった。風が巻き起こる。ガナッシュの聖体の秘蹟ユーカリスティアを彷彿とさせる、生半可ではない力を感じた。

 当たればただでは済まない。ぶつかり合えばどうなるのか。本当に、相殺できるのか?

「けど、俺も退けねーんだわ」

 怖いことは怖い。けれど不安はなかった。俺の持つこのお喋りな剣は、鬱陶しいけれど、信用は……信用もできないな。でも、嘘は言わないだろう。

 フィーロは右手を掲げると、右翼を成す剣が一斉に花開くように展開した。拳を握り込むと、剣先が一斉にシンドを向く。

「行くぞ、ダンデ」

『いつでもどうぞ』

「来いや!!」

「セラフィス・フリューゲル!」

 剣が放たれる。無数に降り注ぐそれは光の雨のようにも見える。

「スーパー・ウルトラ・シンド・スペシャルアタック! うおおおおっ……!」

 舐めとんのか。

 笑いが零れそうになるのを咄嗟に抑えた。まあ、この最悪のネーミングが敵を油断させるものだったら大したもんだわ。

 シンドの放った一撃は光の柱を生み出した。フィーロの放った光の剣が飲み込まれる。

「な……!」

「これが、翼ある剣の力だ!」

 極光、とはこのことか。

 強烈な輝きを放つ柱は形を変え、一枚の巨大な羽根になった。

「なんつー……」

『初代トルトゥリエ使用者の命名した極光翼烈刃が正式名称となります』

「そっちの方が断然マシじゃねーか」

『譲れなかったんでしょう』

「つーか安穏と話てるけど、やばくないか?」

『心配要りません。こちらも豪快かつ華麗に決めましょう』

「なんだそりゃ……」

『恥ずかしがらずに、どうぞ』

「どうぞじゃねーし……」

『先代はノリノリでしたよ』

「先代?」

『失礼しました。私は何か変なことを言いいました。忘れてください』

「……まあ、いいけど。とにかくやるしかねーんだな」

『右翼を再展開。これ以上は流石に無理ですので、チャンスは一度きりです』

「いきなりプレッシャーかけんな」

 一言余計なやつだ。

 気を取り直して、両手を掲げる。

「――光翼・百花繚乱!」

「スーパー・ウルトラ・ミラクル・シンド・スペシャルアタッークッッッ!」

「……ミラクルが増えたな」

 ポツリと呟くが、手は止めない。全ての剣をシンド目掛けて、ではなく空高く射出する。まるで地上から空に登る流星のようだ。

 しかし流星は一点に集中し、巨大な蕾の形を成した。フィーロもまた、見とれていた。美しい、と心底思った。あれが花開けば、きっともっと美しい。

 フィーロのそんな思いに応えたかのように、蕾が花開く。光は輝きを増し、開いた花からさらに無数の花が咲いた。

 これが、光翼・百花繚乱。

「まぁぁぁけぇぇぇるぅぅぅかぁぁぁ!!」

 シンドが巨大な羽根を象る光の剣を振り下ろした。無数の花と、巨大な一枚の羽根がぶつかり合う。ぶつかる、というのはいささか語弊があるかもしれない。どちらかと言えば、溶け合うような。

 それは一瞬のことで、おそらく今日一番であろう目を覆わざる得ないほどの光が音もなく一帯を包み込んだ。


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