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すばらしきかなこの世界  作者: 蝉時雨
第一章 クランコンテスト編
23/54

第一章(22) 四回戦

◆Monica◆


「――りゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」

「ちっ……!」

 エビスだがエビルだか知らないが、繰り出してきた一撃を三叉槍トライデントで弾く。なかなかに重い一撃だった。

 同じ中戦学部だ。武器が棒術具スタッフであるので棒術士学科ノッカーに間違いないだろう。打撃杖スタンロッドでも使っているのか、やけに一撃が重い。あれは外は木製の棍だが中に鉄芯が仕込まれている。丈夫で重い攻撃を放てる。

 棒術士学科はあまり冒険者的な学科とは言えない。魔物を相手にするのにぶん殴るというだけの棒術士は火力が足りないのだ。撲殺で死ぬ魔物などそうはいない。それこそ魔物の脳天を一撃で破壊するには、墜落死くらいの衝撃がいるだろう。

 だからこそ少しでも攻撃の威力を高めようと作られたのが打撃杖だ。他にも種類がいろいろあり、最近では棒術士学科も有力な生徒が出てきはじめた。このエビス(エビル? なんでもいいけど)もそれなりの実力だ。

 だけどアタシの敵じゃない。

 だが実際は圧されている。それはエビル(エビス? あれ、どっちだっけ)が強いというよりは、

「ほーほっほっほっ! 隙ありですわッ!」

 このですわ女が原因だ。

 二対一はさすがに厳しい。加えて厄介なことに、このですわ女は強いのだ。

 馬鹿な高笑いしたり、作戦駄々漏れにしたりと見るからに残念な女なくせに、無駄に強い。欝陶しいことこの上ない。

 モニカの背面を突く攻撃を、寸でのところで身を捩り、躱す。だが細剣の強みはその速さだ。直ぐ様突きが放たれる。モニカは距離を取らせるため、槍を横薙ぎに振るった。

「ちょこざいですわ」

「二人掛かりのアンタが言うセリフじゃないのだわ」

「煩いですわッ! エミリ!」

「はい!」

 ですわ女とエビス(あくまでエミリとは呼ばない)が同時に駆け出す。構えからして両方が突きだ。

 舐められたものだ。

 棒だの細剣だの、たかだか攻撃の中に『突き』というスタイルが組み込まれているだけの武器が、アタシの嵐を運ぶ者(ストームブリンガー)に勝てると思っているのか。

 槍とは『突き』の体現だ。すべてが突きの動作を主体に置かれている。細剣も一応は突く武器ではあるが、所詮は刺突剣エストックと同レベルだ。

 モニカは重心を下げ、槍を構える。狙うはですわ女だ。

 迎え撃つ。

 予想外だったか、ですわ女の目が見開かれた。モニカはすくい上げるように突いた。背後からエビスが近付く。十分承知している。身体を捻りながら槍をぐるりと縦に回した。突き出されたエビスの棒が下から弾かれる。

 一周してきた槍を地面に叩きつけ、弾ける反動を利用してですわ女を再度突く。ですわ女は下がろうとする。しかしモニカはそのまま高速で四回連続で突いた。一発目が擦ったが、大きく飛びずさったため、三発は空を突いた。

「ちっ……」

 仕留め損なったことを叱咤するように舌打ちをした。

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」

 気迫とともに背後から態勢を立て直したエビスが迫った。弾いただけだったのがまずかったか。四連突きをしたのがまずかったか。

 避けられない。

「モニカちゃん……!」

 離れた場所にいたユーリの叫ぶ声が聞こえた。隠れていろと言ったはずなのに、あの娘はまったく。だけど、そこが好きだ。

 自分が怪我をしていても他人を優先するような、そんな優しい心を持ったユーリが好きだ。

 世の下衆どもはユーリの胸しか見ていない。だから男は下衆だ。滅ぼしてやりたい。

 だけど一番滅してやりたいのは、あの金髪パツキン野郎。

 フィーロ・ロレンツ。

 ユーリを誑かそうとするあの小猿。今すぐにでも抹殺してやりたい。跡形もなく消してやりたい。

 怒りが沸々と沸き上がってきた。実に、怒りとは恐ろしいもので、どこからか力が湧いてきた。

「……RUaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!」

 軸足を中心に回転しながら、槍を薙いだ。ブォン、と空気を裂く音が鳴りながら、エビスの横腹に直撃した。「あぐっ……!?」呻き声を発しながら、真横にぶっ飛んでいったエビスは、そのまま岩に激突した。

「エミリ! くっ……よくもッ……!」

 ですわ女が向かってきた。迎え撃とうとしたが、如何せん、重たい槍を無理矢理振り回したため腕に力が入らない。

「モニカちゃん、避けて……!」

 ユーリ。

 ごめんね。無理なの。人はそんな咄嗟に動けるものじゃないのよ。

 ですわ女の細剣がモニカの目前にまで迫った。

 その時、

 ――ひゅん

 風を切るような音をたてて、モニカの真横を細い何かが走り抜けた。

 矢だ。

 木で出来たありふれた矢がモニカの横を通過し、ですわ女に一直線に向かっていった。

 ですわ女は驚いたが、冷静にサイドステップで躱した。だが矢はそれだけではなかった。的確に、ですわ女が着地した地点を突いて放たれる。ですわ女は慌てて回避したが、また矢が襲った。

 一体何人射手がいるのか。そう思うほどの的確さと、連射だ。解っている。これは一人がやっていることだ。

 今までどこで何をしていやがったのかは知らないが、随分と狙ったようなタイミングで現われたのは、無口なスナイパー――クロアだった。

「ちょこざいですわッ……!」

 ですわ女は細剣を鞭のように鋭く振り、矢を払った。

「………」

 物言わぬ無口女はただ冷徹な瞳でですわ女を見据えている。既に矢をつがえ、いつでも射てる状態だ。

 先に動いたのはですわ女だ。

 射ち手の構え(サジッターリア)と呼ばれる細剣を前に突き出した構えで駆ける。

 呼応するかのごとく無口女は弓を放った。あの無口女はどういうわけか連射が出来る。どう考えても無理な行為を軽々やってのけるのだ。

 一発目の矢を足捌きで避けたですわ女に次々に矢が浴びせられる。ですわ女はそれを(癪だが)見事に足捌きのみで躱した。

 流れるような、それでいて宙を舞うような足捌き。

 あれが『胡蝶の舞』と呼ばれる所以だ。

 しかし無口女も負けてはいない。十五連射という阿呆な連射が出来る。右腕が違う生き物のように見える。異常な速さで矢筒から矢を取り、つがえ、放つという一連の動作を行っている。もはや機械だ。

 しかしここは胡蝶の舞が一歩上手だったらしい。全ての攻撃を避け切ったですわ女は無口女を射程内に収めた。

「終わりですわ」

「終わるのはアンタなのだわ」

 みすみす相手の隙を見逃すほどお人好しじゃない。腕が回復した瞬間には三叉槍をですわ女に向けて突進していた。

「くっ……卑怯な……!」

 身を捩りながらそんなことを吐くですわ女。自分のことを棚に上げすぎだ。腹が立つ。

 ですわ女は無口女を仕留めるのをやめ、距離を取るようにバックステップで離れた。エビスのもとに駆け寄り、無事を確かめる。見たところ、大丈夫らしい。あれで気絶していればいいものを。

「取り敢えず……これでおあいこなのだわ」

「………べつに……かてた」

「ふん」

 可愛くない女だ。

「モニカちゃん、大丈夫ですか?」

 こういうのを可愛いというんだ。見習うがいい、無口女。

 駆け寄ってきたユーリに微笑みかける。

「大丈夫よユーリ。もう少し下がっていて頂戴」

「うん……気を付けてくださいね?」

「もちろんなのだわ」

 ユーリのエールがあれば億万倍だ。今のアタシは誰にも止められない。

「………きも」

「黙るのだわ」

 煩い無口女を黙らせて、モニカは愛槍を構えた。



◆Reiji◆


 戦闘は気にはなるのだが、やることがある以上向こうは仲間に任せざるえない。少しばかり歯痒いが、さっさと済ませれば問題ない。

 人形士パペッターは遠隔操作で人形パペットを操れるらしい。ある意味強みでもある。だが一方で弱点でもある。

 どれくらい離れて動かせるのかは解らないが、フィールドの端から端までとはいくらなんでも無理だろう。なら周辺からぐるりと回るように捜索すれば人形士は見つかる。

 並みの者なら時間が掛かるが、レイジは最速の男。なればこそ出来る芸当だ。

 レイジは目もいい。さすがに人間テレスコープのクロア嬢には劣るだろうが。まあでも、人形士は女の子らしいし、可愛ければ多分クロア嬢にも負けない。

 美の追究者であるレイジは美しいものに対してならば全てのパラメーターが一・五倍になる。速さ、視力、嗅覚は三倍だ。

 そしてレイジの嗅覚が人形士はこっちだと告げている。

 可愛い匂いがする。

 女の子の匂いだ。

 うはははははははははははははははははははははははは。

 楽しみだ。

 可愛いは正義。

 美しいは絶対。

 もう神速のレイジは誰にも止められない。

「待っていーやぁーマイハニー」

 まだ見ぬ人形士を追い求め、変態は駆ける。



◆Firo◆


 悪寒がした。

 フィーロの直感が、背後からの攻撃を察知した。

 横に飛んだ瞬間、ヌイグルミの強烈なパンチが地面を砕いた。つーかなんでヌイグルミにあんなパンチ出来るんだよ。

 舌打ちしたい気分だったが、そんな場合でもない。

「はあぁぁぁっ……!」

 斧を振りかぶって飛び上がったのはモランだ。戦斧が煌めく。

「斧顎……襲砕ッ……!」

 フィーロは慌てて回避した。モランの戦斧が地面を叩く。地面が陥没し、半径一メートルくらいに罅が入った。

 あんなもの、剣で受けたら腕が壊れる。

「フィーロ、旗持ちロリエを狙うぞ……!」

 ガナッシュが、駆け抜けた。

 野郎、人を囮にしやがったな。平然としやがって。

「させない!」

 モランが戦斧をぶん投げた。ぐるぐる回転しながら、ガナッシュの目の前に突き刺さる。「くっ」ガナッシュは飛びずさった。

 でももうモランに武器はない。フィーロは攻めようと剣を握る手に力を籠めた。

「フィーロ!」

 シェリカの声にフィーロが反応した。なんだと聞き返す前に横に飛んだ。また地面が破壊される。

 本当にこのヌイグルミ邪魔。

 早く探せよ変態レイジ。

「ヌイグルミ風情がフィーロを攻撃するなんて百年早いわ! 燃えてなくなりなさい!」

 百年たったらいいのかよ、とは言わずにいた。くだらないし。ただ、あの馬鹿、と思った。

 よく考えろ。

「Agni雅la焼To爆烈火」

 ヌイグルミの肩辺りから爆発が起こった。爆烈火。いわゆる爆発エクスプロージョン

 あの馬鹿。

 やったわ、とか言ってる場合ではない。

 フィーロは一目散に駆け出した。シェリカを横から抱き抱えるようにして走り抜ける。同時にシェリカのいた場所にヌイグルミのパンチが降りた。

「なんで……」

「馬鹿、考えろ。ただのヌイグルミならいざ知らず、戦闘に使うヌイグルミなら耐久素材を使うに決まってるだろ」

 こんな灼熱の大地にただの布と綿で出来たヌイグルミなんか置いても燃えてなくなるだけだ。何らかの耐久素材を使っているのは考えれば解る。

「じゃあ火の魔術は……」

「あんまり効かないな」

 厳密には効いているがなかなか壊れないだが。

 魔力全開で火の魔術を連発したりすればいつかは燃えるだろう。耐久素材なだけで完全に防御するわけでもないのだから。

 まあ、そんなのは今はどうでもいい。取り敢えず、

「暑いから降りろ」

 降ろそうとしているのになかなか離れない馬鹿姉を引き剥がそうとする。

「今ので足挫いちゃったの」

「嘘吐け。いいから離れろ。暑いし戦えない」

 せっかく少しはやる気出してるのに水を差されると萎えるだろうが。大体足はぴったり地面についてるだろうが。何が挫いただ。

「劫爆Feuer炎罪涜aim炎虎砲」

 詠唱が聞こえたかと思えば真ん前から火の玉が飛んできた。慌ててシェリカごと回避する。

 今のは炎虎砲か。真っ直ぐしか飛ばない下級炎弾ファイヤーボールだ。撃ったのは他の誰でもない、ロリエだ。

「うわゎっ! また避けちゃった!」

 避けたら悪いか畜生暑い。

「いい加減離れろシェリカ。暑いし戦えないっつってんだろ」

「うー」

「唸っても駄目だって」

 で、もう暑くて思考回路が麻痺していたのか、俺はすべからくまずい発言をしてしまった。あとで滅茶苦茶後悔することになるのだが、この時はさっさと離れてほしい一心だったから気が付かなかった。後々思えばそれもどうかと思うが。

「……あーもーあとでいくらでも抱いてやるから今は離れろ」

 ピタリとシェリカが停止した。何事かと思ったら、やけに上気した顔に上目遣いでこちらを見てきた。

「それ……ホント?」

「あーホントホント。だから離れて頼むから」

「……解ったわ」

 シェリカがフィーロから離れた。気持ち悪いくらい素直である。なんだ。一体。怖いんですけど。

「……まあ、いいか」

 フィーロは剣を握り直した。汗で滑りそうだ。

「取り敢えず、ヌイグルミがなんとかなってくれないとな……」

 変態レイジがもう少し早く見つけていればよかったのだが。

「魔術が全く効かないわけじゃないでしょう?」

「多分な」

「なら問題ないわ」

 そう言って触媒カタリストを取り出した。黒曜石オブシディアン紅玉ルビーだ。黒曜石は雷の精霊のものではなかったか。魔術は専門家が詳しいだろうし、何も言うまい。

 それよりもシェリカがいつになく集中しているのは何故なんだ。逆に怖い。

「Amb絶乖xb劫號褥爆罪Coup‐De冥讖楔Apt……」

 詠唱が始まった。おそらく長い。ならばフィーロがするべきは一つだ。

 シェリカの詠唱を守る。

 邪魔されたらまたやり直しだ。そう思えばもっと後方でやってもらいたいものだが、今更言っても遅い。だったらつべこべ言わずに守るしかない。

 ヌイグルミがこちらを補足した。まずあれを離れさせなければ。

 剣を構え、駆け出した。

 倒す必要はない。距離を離せばそれで十分だ。ヌイグルミがパンチを繰り出してきた。フィーロはそれを飛び上がって避ける。勢いにのった跳躍でヌイグルミの腹部まで到達した。飛び蹴りを食らわせる。

 しかし、ヌイグルミは一メートルほど下がっただけで吹っ飛ばなかった。

「どんだけ重たいんだ。中身は鉄か? ――げっ……」

 真横からヌイグルミの腕が飛んできた。まだフィーロは空中にいた。回避不可能。見事にぶん殴られた。

「ぐぶっ……」

 地面に叩きつけられ、転がった。クソ痛い。骨は大丈夫だ。が、全身擦り傷だらけだ。

 ヌイグルミはシェリカに向かっていた。まずい。

「Kubil醢贖MoT靆譱蟋悪wo滅bosu必滅no炎念……」

「シェリカ!」

 詠唱をやめさせないと。

 いやだけどそれが何になる。意味がない。違うだろ。俺が助けないといけないんだ。

 起き上がれ。走れ。奔れ。

「鳴Fai雉煤輦hale鳴動雷」

 背後からの詠唱。ロリエの鳴動雷。轟き地を奔る雷。当たれば感電死だ。

 だからなんだ。

「邪魔を……すんなッ……!」

 剣で払った。

「うそ……!?」

 フィーロは駆けた。今はロリエは後回しだ。ガナッシュ、お前が適当にやっとけ。

 ヌイグルミはもうシェリカの目前。右手を振り上げた。させるか。俺が守る。

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!」



◆Shericka◆


 信じていた。

 フィーロなら必ず守ってくれると。それは約束でもあったから。フィーロが覚えているかは解らないけど。

 詠唱を続ける中、目の前に迫ったヌイグルミのパンチを、フィーロは間一髪止めた。少し、胸が熱くなった。さっきの「抱いてやる」宣言で五割増しだ。体を張って守ってくれているフィーロのためにも、詠唱を続けた。

「戦滅災劉爆Garant遥命裁ku神壊覇天撲滅紅烈……」

 要素魔術にもピンからキリまである。簡単に上位、中位、下位なんてあるけれど、その中にも順列がある。

 この、今詠唱している要素魔術は上位の中でも強力なものだ。高速詠唱を得意とするシェリカでも長く感じる。手に持つのは黒曜石と紅い鋼玉。紅玉は火の精霊が好む触媒だ。黒曜石は単体なら雷の精霊。

 触媒は掛け合わせるといろんな効果がある。以前の混合魔術アマルガムもそうだ。だが、掛け合わせ方によって、触媒に対応する精霊が変わったりする。

 紅玉だけだと中位要素魔術が限界だが、黒曜石と合わせると一定の上位までは使用できる。とはいえ即席の触媒みたいなものだし、魔力は多く食べられるが、問題ない。シェリカの魔力量はかなり多い。というか底なしなのだ。ある意味、シェリカだから出来る芸当と言える。

 合わせ方を覚えておくと、触媒の節約などにもなるし、かなり便利なのでシェリカはそれだけは真面目に覚えた。

「罪業深soul爾大頸爆炎no流呑Yo劫呀炎龍天」

 火の渦を巻きながら柱を作った。うねりを上げるそれは炎の龍のようだ。劫呀炎龍天。上位要素魔術の中でも威力、危険度ともに最上級の魔術だ。

 あのヌイグルミに使うのはいささか勿体ないが、あれはフィーロを傷付けた。

 万死に値する。

 くたばれクマ。

 ――GUuuOoooooooooooooooooo……!

 炎の渦が唸りを上げて、ヌイグルミに向かう。フィーロが、ヌイグルミの腕を一旦引き、傾いたヌイグルミの土手っ腹を蹴り飛ばして退避した。バランスを崩したヌイグルミに追い打ちを掛けるように炎の渦はヌイグルミを飲み込んだ。

 いくら耐久素材だろうが、上位要素魔術の威力の前では綿と同じだ。

「ウソ……マルボロ一号が燃えるなんて……」

 シスコンと鎬を削りあっていたモランが驚愕の声を漏らした。というかマルボロ一号ってなんだ。二号があるの?

 しかもマルボロって煙草の名前だよ。

「万事休すだな、モラン!」

「くっ……まだだよ! ――ロリエ!」

「うん……!」

 ロリガキが何かを取り出した。あれは短剣だ。水晶製か。鍔に鋼玉が埋め込まれている。あれは月長石ムーンストーンだろうか。一体何を――、

「I do strongly ordain to follow me under the pledge of my blood.」

「な……!?」

 あれは、まさか。

「フィーロ!」

「な、何?」

「ロリガキを止めて! 今あたし反動で魔術使えないから、フィーロ……お願い、早く!」

「ヤバイのか?」

「ヤバイわ……あれは……召喚魔術よ!」


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