屋根裏の夏祭り
最初はただの耳鳴りだと思った。
次は立て付けの悪い安アパートで、室外機なんかの音が屋根裏に反響してるのかと思うことにした。
「それにしても五月蝿すぎる。毎晩毎晩なんなんだ」
年の瀬もせまり、仕事納めで安アパートに籠りだすと、午前0時を回るたびに聞こえてくる騒音に我慢ならなくなってきた。
普段ならば、草臥れて寝に帰るだけのアパートで、疲れもあって寝てしまうのだが、久方ぶりの長い休みが仇になって、どうにも騒音で寝付けない。
「いっちょ、原因をさぐってみるか」
物置の上が外れるようになっていて、屋根裏に入れるのは以前に屋根裏の配線の点検に来た業者を見て知っている。物置は中で2段に仕切られているために屋根裏に入るのに足場もいらない。
軍手に帽子、汚れていいように作業着に着替えて屋根裏に入る。子供のころにもどったようで、すこしワクワクする。
屋根裏に入ると、ただの意味のない騒音だと思ったものが何かの囃子のように聞こえてくる。
不思議に思いながら這いつくばってすすんでいると、へんなおふだが目にはいる。
「なんだこれ」
何も考えずにひっぺがした途端、あたりの景色が一変した。
満点の星空のした、神社から伸びる参道の両脇にいっぱいの出店、夏祭りのように浴衣姿があふれて、活気にみちたお囃子のなかでワイワイと騒いでいる。
突然の出来事に呆気にとられるが、それ以上に驚くのは、俺以外は二足歩行のネズミやネコ、鼻先の白いいたちみたいな、あー、ハクビシンってやつかな。とにかく、人間がいない。
屋台の店主も飛び回る小さいのから、酒を呷るでかいのまで、全部が動物だ。
「頭でもいかれっちまったのか」
すると、後ろから声をかけられる。
「迷ったのかい、まぁ、一杯どうだ」
振りかえると、そこには歳の近そうな男がいた。まともな人間の姿に安心して杯を受けとる。
「あぁ、ここはなんなんだ」
ありがとうと声をかけつつ杯をあけて、訊ねると、男は事もなげに答えてきた。
「あー、屋根裏の夏祭りさ。俺もあんたも迷いこんだんだ。まぁ、ゆっくりしな。ここのもんを口にしたら、もう帰れんから」
男はにたりと嗤うと煙のようにかき消えた。
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