ぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひっ
私は悪役令嬢で、我儘だけど、ちょっとした悪いことはできても、大きな悪いことはできない木っ端悪役令嬢よ?
気に入らない人間を首にしなさいとか命じたりしないわ。
名前がつくだけで、なんか特別感が出るじゃない?
A5ランクの牛肉食べ放題という言葉が脳裏に浮かんだ。
ぐふっ。ぐふふっ。
そう、一番いい牛はA5というランクにするのよ。ふふふ。
「その、ランクというのは、牛の大きさで?」
は?大きさ?
「何を言っているの?確かに、現在肉の取引は重さ当たりいくらという一律の値段で、せいぜい鮮度や年齢が問われるくらいかもしれませんけど、ランクをつけると言ったでしょう?馬だって、名馬ってやつは種だけでも高く取引されてるでしょう?牛だって、美味しい牛は高くなって当然でしょう?」
おっと、しまった。貴族令嬢が種だなんてはしたない。
「ああ、そうだわ。ちゃんと、一番美味しい牛を育てた人には褒美も用意しますわよ。ほーっほっほっほ。せいぜい頑張りなさい!」
と、種発言にツッコミを入れられる前にさっさと逃げてくる。
「あ、そうだ、音楽……」
エサとマッサージだけじゃなくて、音楽を聞かせると美味しく育つっていうのがあったよね?
いや、音楽はさすがに無理よねぇ。だって、この世界、音楽と言えば、楽団が奏でる生演奏よ。
音楽プレーヤー系何にもないのよ?CDどころかMDもないの。もちろんカセットテープやレコードすらないんだよ?
……蓄音機……そうだ、蓄音機なら作れるんじゃない?
科学部とかなんかで紙コップに針となんかちょっとした道具で作ってたよね。録音する媒体は、プラスチックの使い捨てコップやら、OPPシートやら、石鹸やら、蝋燭やら、なんか針で傷がつくものならなんだっていいらしいんだよね。蝋燭とかは柔らかすぎて保存が大変とか再生回数が少ないとか色々らしいけど、でも……蝋燭ならあるよ。プラスチック製品はないけど。紙コップじゃなくたって、ラッパの先っぽみたいなやつは作ってもらえばいいんだよね。針はある。あとはろくろみたいに回るやつと、回りながら中心に向かって進む、みたいななんか……ん。誰か賢い人見つけたら相談してみるっぺ。
金に糸目は付けないもん。
牛って2年半くらいで出荷らしいんだけど、生後1年くらいから1年間酒とエサの改良とマッサージで育てた牛を試食することになった。あの時の感動。
「なんだ、この柔らかい肉……!」
「お父様、特別に育てさせた牛ですわ。ね、これだけ味が違うんですもの、牛のコンテスト開催しましょう?よい牛は高く売れますわよ?ブランド牛の誕生ですわ!」
うん、是非名前は神戸牛と名付けたい。いや、飛騨牛……松阪牛がいいだろうか。なんか、そういう名前がついているだけで数倍美味しく感じると思うんですよね。へ、へ、へ。
なんて思ってたら、お父様は空気を読まなかった。
「うむ、うむ、そうだな。そうだな。ではコンテストで優勝した牛にはフローレン牛と。準優勝した牛にはイーグル牛と名付けるのはどうだ?」
ちょ、まてい!食べにくいわ!フローレン牛を食べるフローレンとか、食べにくいわ!
「お父様、可愛くて可愛すぎて、食べちゃいたいっていう話はよく聞きますが、世間の人たちが、イーグルが食べたい、イーグルが食べたい、フローレンが食べたいとか言うのは聞くに堪えられませんわ!」
お父様がショックを受けた顔をした。
「むぅっ。確かに許せん!私の可愛いフローレンやイーグルの名を出すことすら汚らわしいわ!」
いや。そもそも、お父様が優勝した牛に私やイーグルたんの名前を付けるとか言い出したんですよね?
「しかし、なるほどな。ブランド牛か。仕立屋にも各というものがある。ドレス1つとっても、どの店で頼んだとか、誰のデザインなのかなどがステータスにもなる。もちろん値段にも反映するな。肉にもそれがあってしかりということか」
そうですよー。この世界だと流通の問題があるので、地消地産がデフォなので、アメリカ産だとかオーストラリア産だとか国産だとかいう比較もできない。比較がないということで、肉の値段は一定がデフォだった。まぁ肉というもの自体が贅沢品だし、肉の種類といえば、若いやつか老いたやつかみたいな感じだったし。
「ふむ。我が領の新しい産業としておしすすめてみるか。まずは王室御用達の箔付けだな。その後舞踏会や晩さん会にて提供し貴族連中に広める。1度食べてしまえばこちらのもの。いししししし」
お父様が悪い顔をしている……。
「お姉様、お肉……お代わりほしいです」
もじもじと顔を赤らめながらイーグルたんが小さな声で呟いた。
お、おかわり!
あの食が細かったイーグルたんがおかわり!
……って、まぁ、パンはもりもり食べてますけど。お肉をお代わりなんて初めてのこと!
ふおおおおっ!と感動しながらどんどん持ってこさせる。
私も、前世ではかなわなかったA5等級の高級肉食べ放題に大興奮。お父様は悪い顔をしながらも食べる手は止めない。