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ぶひぶひぶひぶひぶひっ

「うん、そうだな、そうだな。そんなにまずいスープを頑張って2口も食べたんだ。えらいぞフローレン。それにイーグルも立派だ。おい、まずいスープはもういい。蜂蜜を持ってきてくれ」

 お父様がスープの皿を給仕をする侍女に下げさせた。

 おや?お父様のお皿にもまだ野菜が残っているのが見えましたけど?

 ……まさか、まさか……。お父様も、野菜が、大人なのに、きらい?で、私たちを甘やかすふりして野菜をぽいっと?

 でも、もしかしたら、私の我儘で料理人を処分させないためのお父様の気遣いとか?私の口に合わない者を出したからと首になることはないってことよね?当主の口にも合わないんだもん。その当主がそれでもいいって雇ってるってことになるわけだし?

 もし、そういう意図があってお父様も野菜を残したのだとすると、めちゃくちゃお父様素敵!

 あ、ロッテンさんが睨んでます。うん。お父様、大人は頑張ってくださいよ……。

 それからは、蜂蜜をパンにたっぷりぬって3人で食べた。

「イーグル美味しい?」

「うん、おいしいでしゅ」

 イーグルがにこにこして食べている。

「イーグル、お口の周りが蜂蜜だらけね」

 可愛い。可愛い。パンくずもついてる。なんて可愛いのかしら!口の周りに蜂蜜が付くことを気にせずに一生懸命食べる姿!

「それに、お手てもベタベタだわ」

 そう、蜂蜜をつけたパンを両手で持って口に運んでいる姿もとても愛らしく、でも、手が蜂蜜でベタベタなのよね。分かるわ。

 うん、分かるわ。私も時々手に蜂蜜をつけてしまって、本当は指を舐めたいところだけれど、さすがに貴族令嬢としてその一線は超えないようにテーブルに置かれたフィンガーボールで洗うようにしているもの。

 フィンガーボール。水の入った器よ。びっくりよね。普通にテーブルに置いてあるんだもん。いやぁ、さすが異世界!(注*異世界はこの際関係ない)

 イーグルが幸せそうな顔をして食べているのを幸福感に満たされながら、そうね、上手いことをいうならば、蜂蜜よりもなお甘い気持ちで心を満たされながら見てた。

 ところがあ、私の言葉に急にイーグルは手を止めて、泣きそうな顔になって私を見た。

「ごめなしゃ……い」

 あああ!

「違う、そうじゃないからね?お口の周りが蜂蜜だらけだから、お姉様が、拭いてあげましょうか?と思っていたのよ!拭かせてもらえるかな?」

 心に傷があったんだよ。私ってばなんて不用意な一言を!

「あはは、じゃぁ、フローレンがイーグルのお顔を拭いてあげたあと、私がフローレンのお口を拭いてあげようね」

 へ?

 お父様の言葉に、振り返ると、お父様がにっこにこの笑顔で、顎のあたりをトントンとしている。

「ついてるよ、フローレンも」

 まじですか!いや、6歳児だからね!そう言うこともありますっ!

 でも中身は大人なので、恥ずかしくて真っ赤な顔をすると。

「いーぐりゅ、ねーたまといっちょ?」

 こてんと、イーグルが首を傾げた。

 くぅーーーーーーーーーーーーーっ。かーわーいーいーーーーーっ!

 すいません、どうしたらいいでしょう、ねぇ、こういう時はどうしたら……。

「わ、私も、一緒だ、家族なんだからっ!」

 お父様が慌てて蜂蜜をほっぺにくっつけた。

 くっ。本当に親ばかですね。

「いっちょ、いーぐりゅ、かぞく……」

 にひゃっと嬉しそうに笑うイーグルたん。

 尊みしゅさまじい!

 ふと、銀食器に映った私たち親子……。

 大天使、天使、超天使……世界最強一家じゃない?!


 ――なんて、思っていたころもありました。

 そして、事件は起こった。あれは、初めて王宮にお呼ばれした時のこと。9歳でしたわね。

「おい、豚!」

 あらいやだ。どこに豚肉が?

 ……なんて事件が起こるまでの私の生活を思い出してみよう。


 この世界、野菜を使った料理はとにかくまずい。

 その結果、悪役令嬢として我儘いっぱい食事にはダメ出しをさせていただきましたよ。

「こんなまずいもの食べられないわ!」

「この私に、このような物を食べさせようというの?」

「私が食べたいと言うのよ、さっさと持ってきなさい!」

 うふふーん。めっちゃ悪役令嬢よね。この調子で「幽閉コース」へまっしぐら。

 夢の読書と刺繍の引き籠り生活ゲットよ!

 まぁ、それで、食べてた物と言えば、パン。これは多少固いとか酸っぱいとかもあったんで、金に物を言わせ玉子やら牛乳やら砂糖やらバターやら色々混ぜてパンを焼くように料理長に命じたら、いろいろ美味しいパンが出来上がりました。

 知ってる?酵母作って膨らませても柔らかいパンにはならないんだよ?っていうか、酵母ってビールで十分で、エジプト文明とかずっと昔からパンは膨らんでた……。なのに固い!柔らかくするにはちょっと高い材料混ぜないと駄目なのよね。公爵家でよかったわ!ほーほっほっほ。

「おねーしゃまおいしいでしゅ」

 と、食の細かったイーグルたんがもりもりとパンを食べてくれる姿。

 くっ。こんどはジャムパンを作ってもらおうかしら?いいえ、メロンパンがいいかしらね?

 あーん、パンくずついてますわよ。可愛い、可愛い、可愛い!

 いとおしくてなんど食事中に抱きしめたくなったことか!

「おお、これは、今まで食べていたパンはパンにあらずと言うほど素晴らしく美味しいパンだ!さすがフローレン考案のパン!」

 お父様は、感極まり私を抱きしめた。

 まって、自重、お父様、子供の私ですら食事の邪魔をしないようにと自重したのに、お父様……まぁ、仕方がありませんわね。


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