ぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひっ
醤油が欲しいところだけど、醤油はない。ないので諦めて、塩と柑橘類と酢をまぜたなんちゃってポン酢も用意してもらった。
それから、昆布。昆布を取ってもらったわ!そして、出汁を取ってもらった。昆布だしよ、昆布だし。
鰹節もほしいところだけどあれは作るのというか説明するのが難しいので諦め、昆布。くっくっく。濃いめの昆布だしと酢をまぜてもらった。
お盆にならべられた、より蟹を美味しく味わうための酢たちよ。
いざ、味変により、蟹食べ放題第二章スタートですわ。ほーっほっほっほ。
「おい豚、一体どういうことだ!」
今度は焼きガニがいいかしらと、殻を外した蟹が焼けるまで待っていたところ、どこかで聞き覚えがある声が聞こえた。
……おかしい、たしか私、王都から馬車で1日は離れている海沿いの別荘にいるはずよね?
なんでぽっちゃり君がこんなとこにいるんだ。お前の正体は皇太子だろう?
皇太子ってのは、王都の城ん中にいるはずだろう?
「豚、聞いてんのか?なんで、先週の舞踏会に来なかったんだ!」
先週?ああ、そういえば、子供舞踏会は定期的に開催されてましたね。2か月に1度だとか。たいていの子供は許される限り参加するんだっけ?領地にいて王都が遠いとか、病弱だとか、ドレスなどにお金を回せないだとか、そもそも出入り禁止だとかそういう事情がないかぎりほぼ参加。
参加は強制じゃないものの、貴族同士のつながりを強めるためと、マナーなどの勉強をするため……。
知るか!
貴族同士のつながりなど強めたって仕方ないじゃないか。10年もしないうちに……正確には、あと7年ほどで私は幽閉されるんだ。しかも、しっかりつながりを持ったと思った人たちに裏切られる形でだよ?
ばかばかしい。はっきり言って、出席する意味がないどころか、出席することの労力が大損だわ。
「ぶひぶひ」
誰が行くもんか、ばーかばーか。
「何しに来たと思っているだろう?」
はっ。まぁ近からず遠からず。超能力でも持ってるのか!
「10日に1度ほど夕飯に出ていた肉が出なくなった」
くくく。お父様の力をもってすれば、いや、A5ランクの肉大好きな貴族たちが結束すれば、王宮に肉が渡らないようにするなんて朝飯前だものね!やーいやーい。
「俺をじらす気か?」
は?
ぼっちゃり君が私の両肩をつかんだ。
「俺をじらして、結婚するのにより良い条件を引き出すつもりか?」
ばっかじゃねぇのか!
どこをどうすればそう言う結論に達するんだ!
婚約も結婚もしないって拒否られたって理解できないの?
じらす?
「お、お姉様は、殿下とは結婚しません。お父様もそう言っておりました」
イーグルたんが、私をかばうように前にでて殿下を睨みつける。
「なんだ、この子豚」
な、な、イーグルたんを子豚ですって?
「かわいいな」
ぽっちゃり君が目じりを下げて笑った。
へ?殿下が、私の超天使豚のイーグルたんを見て、可愛いって、可愛いって言いましたか?
「そうでしょ、そうでしょ?イーグルは可愛いでしょ?」
おっと。相手になんてするつもりがなかったのについ反応してしまいましたわ!くっ。だがいい。皇太子、存外悪い人間じゃないのかもしれない。イーグルたんの可愛さが分かるなんて。
「髪の色が同じ……そうか、お前の弟なのか。なら可愛いはずだな」
そうそう、私の弟なら可愛いに決まって……ん?
んん?
それって、私もかわいいって言っているように聞こえなくはないですよ?
いや、まさかね。うん。可愛いと思っている女性に向かって豚なんて言う愚かな人間がこの世にいるわけないもんな。
そもそもこの皇太子が最終的に選ぶ女性、私を断罪の罠にはめる女ってば、髪の毛ピンクのほわほわよ。私は寒色。あっちは暖色。真逆人間だわな。私は背が高くなってスラっと美人。あっちは背は低くて小動物系美少女。真逆なのだわ。
勘違いするところだったわ。ぽっちゃり君が私を可愛いなんて思うわけないじゃぁん。
「とにかく、じらすつもりならそんな必要はないからな!」
っていうか、じらすつもりなんて全くないって。
あ、カニやけた。
とはいえ熱すぎてまだ食べるにはちょっと危険よね。ちょっとだけ火から遠ざけて冷まして食べましょう。
「ところで、さっきから何をしているんだ?……この怪物を退治しているのか?」
怪物?
ぽっちゃり君が足をもがれたカニの体を見た。その隣に置いてある、まだ足が繋がったカニも見た。
ちなみに、しゃぶしゃぶですでに2杯のカニをイーグルたんといただいた。とはいえ、足だけの、しかも一番食べやすいとこだけっていう、超贅沢食いしてるんだけどね。残りのカニの身は調理人にほじくってカニクリームコロッケを作ってもらうつもりなので、無駄にはしない。
ただ、自分で身を取り出すのはめんどくさいので……。せっかく、我儘を好きなだけ言える立場なのだから、我儘な食べ方もするのです!
ほーっほっほっほ!




