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お荷物令嬢は覚醒して王国の民を守りたい!【WEB版】  作者: 暮田呉子
3.囚われの王子と導きの女神

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 ロベルトと共に演練場へ入ると、騎士達が一面に広がって訓練をしていた。

 至るところから剣の弾かれる音が聞こえてくる。私兵の訓練を見学したことはあるが、雰囲気がまるで違っていた。訓練というよりは一対一の真剣な勝負を見せられている気分だ。激しい打ち合いに見ている方がハラハラしてしまう。


「来たか」


 演練場の見学席に上がると、ヘルミーナ達を出迎えたのはレイブロン公爵だった。ヘルミーナが軽く膝を曲げて挨拶すると、レイブロン公爵は頷き返してくれた。


「今からルドルフ殿下とセシル殿下、それから大臣達が騎士団の視察にやって来る。普段通りで構わないと言っているんだが、こういう時に限っていつも以上に力を発揮してしまう問題児がいてな」

「診る患者がいなくなったとはいえ、怪我人をつくってもらっては困るんだがな。それでなくてもミーナの治療を求めて、病室に近づきもしなかった奴らまで足を運ぶようになったんだ。まぁ、気持ちは分からんでもないが」


 レイブロン公爵とロベルトは気心の知れた間柄のようだ。身分差を感じさせない二人を後ろから眺めていると、不意に二人の視線を感じて背筋を伸ばした。「どうかされましたか?」と訊ねたが、二人は苦笑するだけで教えてくれなかった。

 咳払いで誤魔化したレイブロン公爵は「とりあえず宜しく頼む」と言ってきた。一方のロベルトも「下に行くぞ」と言ってきて、何も聞けないままヘルミーナは再びロベルトの背中を追った。

 見学席から演練場に下りると、地面より一段低い場所に待避壕があった。簡単な攻撃から身を守り、同時に何かあればすぐに飛び出して行ける造りになっている。中には医療道具も揃っており、背後にあるドアを抜ければ宿舎にある病室へ最短で向かうことが可能らしい。常に備えているということだ。

 ヘルミーナはロベルトと一緒に医療道具と、緊急事態が起きた場合の打ち合わせを行った。因みにここでの神聖魔法は禁じられた。「大臣達に見つかったら最後だ」と、警告された言葉はしっかり胸に刻んだ。

 暫くすると周囲が騒がしくなった。人の話し声がいくつも聞こえてくる。すると年の離れた兄弟が、護衛の騎士を率いて現れた。この王国で最も美しい兄弟と言っても過言ではない。見慣れていると思ったのに、人々に囲まれたルドルフの姿を見ると、あまりの眩しさに目を瞬かせてしまった。


「やあ、ベーメ男爵。元気そうで何よりだ」

「光の神エルネスのご加護がありますように。ルドルフ王太子殿下とセシル殿下にお会い出来て光栄です。此度、ルドルフ殿下が騎士団の医療体制にも目を向けてくださり、優秀な人材が入ってきたおかげで仕事が楽になりました。心より感謝申し上げます」

「それは何よりだ」


 ルドルフがヘルミーナ達に気づいて声を掛けてきた。ロベルトが挨拶をするのに合わせて一緒に頭を下げる。けれど、ヘルミーナ達に興味を示したのはルドルフとセシルだけだった。大臣達はレイブロン公爵を囲んで腹の探り合いに熱を上げている。

 ふと視線を感じて顔を上げると、ルドルフの後ろから顔を出したセシルが、他の人に見つからないようにこっそり手を振ってきた。あまりの可愛さに「ンンンッ」と、声にならない声を漏らしてしまう。目立ってはいけないのに、思わぬ刺客がいたものだ。ヘルミーナは必死で口を押さえた。

 その時、激しい爆発音がして反射的に音がした方へ顔を向けた。遅れることすぐ、熱を含んだ突風が吹き抜けていく。


「今のはマティアス卿とカイザーだね」

「加減を知らない奴らですから」

「お互い譲れないものが増えたようだから力が入っているのかな」


 一瞬、ルドルフと目が合う。けれど、彼はにっこり笑うとすぐに演練場に視線を戻していた。

 爆発が起きた所では再び火柱が上がった。先程まで騎士団の在り方を説いていた大臣達は、顔色を変えて大人しくなっている。遠くからでも赤く燃えた剣と、風を纏わせた剣が何度もぶつかり合っている様子が見えた。


「そろそろあの二人を止めないと、今度は演練場の修理費に予算を取られそうだ」

「それは宜しくありませんな」


 ルドルフが他人事のように呟くと、レイブロン公爵もまた同じ様子で返した。しかし、その後ろでは大臣達が「早く止めさせませんと!」と慌てふためいている。その間にもマティアスとカイザーの手合は激しさを増していった。二人の姿は目で追えないほど速い。炎を纏った剣と、風を纏った剣が擦れるたびに爆発が起きる。

 他の騎士から比べても異様だ。護衛で付いてきた騎士達も夢中で見入っている。改めて第一騎士団の団長と副団長の凄さを見せつけられたが、二人が衝突するたびに演練場を取り囲む外壁が崩れそうになった。

 すると、口の端を持ち上げたルドルフは、なぜか演練場に向かって歩き出していた。レイブロン公爵と護衛の騎士はそこから一歩も動かない。気になって彼の行動を見守ると、ルドルフは訓練する騎士の傍まで近づき、突然左手を持ち上げて撫で下ろすようにスッと下げた。


 ──瞬間、時間が止まってしまったようだ。


 騎士の剣から放たれていた魔法は掻き消され、あれほど騒がしかった演練場は瞬時にして静まり返った。一瞬の出来事だった。ヘルミーナは思わず息を呑んだ。


「あれが、王族の……」


 魔道具の時は魔力が抜けていく感じがしたのに対し、本物の「無効化」は全く違っていた。無にされるというより、魔力を奪われた感覚に近かった。

 攻撃を受けたわけではないのに、恐ろしさが尾を引くようにじわりと滲んできた。今すぐ膝をついて平伏したくなるような衝動に駆られる。血が、本能が、絶対的な存在に逆らってはいけないと訴えてくるようだ。

 王族がなぜ王国の頂点に君臨し続けていられるのか、その力を直接肌で感じることが出来た。


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