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お荷物令嬢は覚醒して王国の民を守りたい!【WEB版】  作者: 暮田呉子
1.可哀想な婚約者とお荷物令嬢

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 その昔、「聖女」と呼ばれた女性がいた──。

「光の神エルネスの代行者」とも言われたその女性は、持って生まれた属性とは別に、全く違う属性の魔法が使えたという。

 光の属性である、神聖魔法だ。

 命ある者ならどんな病気や怪我も治すことが出来る「治癒」能力に優れ、何より他の属性にはない魔物の瘴気を消し去る「浄化」の力を持っていた。

 彼女が一度願えば、不毛の地は緑の草原に変わり、割れた地面からは水が湧き出し、以前よりも美しい土地が作られたという。

 その力は第二次覚醒とは違い、魔力が増えたという記録はない。

 だが、人が二重の属性を得ることは極めて稀であり、身分や立場に関係なく突然与えられた光の属性は、まさに光の神エルネスからの「意向」であり「意志」だとされた。


「聖女は今から三百年前に忽然と現れ、王国が黒い瘴気に呑み込まれそうになった時、我らの道標となって魔王軍から救ってくれたと伝えられている。まぁ、エルメイト王国の民なら誰でも知っている話だね」

「はい。聖女様は元々教会に保護されていた孤児であり、十六歳の頃に神の啓示を受けて光の属性が宿ったと」

「良く知っているね」


 孤児から伝説の聖女になった彼女の物語は、王国の民なら皆が知っている。

 現に、聖女に感謝を伝える祭りが至るところで開かれているぐらいだ。

 ヘルミーナもまた聖女の物語が好きで、子供の頃から文献を読み漁り、様々な書物に目を通してきた。

 しかし、それが目の前の宝石箱と何の関係があるのだろうか。

 ヘルミーナが宝石箱に興味を示すと、ルドルフは口の端を持ち上げて箱を開いた。


「これはその昔、聖女が儀式で使っていた金の聖杯だよ」

「────」


 宝石箱から現れたのは黄金で作られた杯だった。

 ワイングラス程度の大きさで、聖杯の装飾には宝石ではなくガラスが用いられている。

 その聖杯の登場に、ヘルミーナだけではなく、アネッサやカイザーも驚いていた。


 ──これは本物だろうか。


 ……訊ねなくても分かった。

 赤い布の上に寝かせられた聖杯から、今まで感じたことのない魔力がビシビシと伝わってきた。

 でも、なぜだろう。

 恐ろしさや不安は感じなかった。反対に、水面に漂うような心地良さを覚え、心が洗われるようだ。

 不思議と親しみもあって引き込まれそうになった。


「持ち出してきて大丈夫だったのか?」

「いやぁ、教会は暫く神殿の修繕工事で忙しくなるだろうね」

「……一体いくらで脅迫したんだ」

「善意ある寄付と言ってほしいね。教会は聖女を失ってから三百年余り、ここ最近は信者も激減して資金源に苦しんでいるようだ。今は国の隅々まで、光属性探しに躍起になっているらしい」


 教会の現状を知ったルドルフが、如何にして聖杯を借りてきたのか分かるような気がした。

 恐ろしくて、とても口に出せなかったけど。

 カイザーとアネッサは呆れていたが、ヘルミーナは知らない振りをした。それが一番正しいと思ったから。

 一方、ルドルフはポケットから白い手袋を取り出し、手にしっかり嵌めると聖杯を掴んでテーブルの上に置いた。


「聖女はただの水に神聖魔法を掛け、治癒や浄化にも使える奇跡の水を作っていたようだね」

「奇跡の水……。それでしたら、聖女様が戦地に出向かなくても、治癒や浄化をすることが可能でしたわね」

「そうだね。儀式では実際に奇跡の水を作り、多くの信者の前で魔物を浄化して見せたとか」


 ヘルミーナの目の前で、聖女に関する話が繰り広げられていた。

 聖女が使っていた聖杯を近くで見ることができただけでも胸がいっぱいなのに、彼らの話はどの書物よりも貴重だった。

 惚けたように三人の話に耳を傾けていると、ルドルフの視線がヘルミーナを捉えた。


「そこで、だ。君の魔法でこの聖杯に水を入れてほしい」

「……え?」

「魔力を含んだ水で頼むよ。その間、私は能力を使わないでおこう」


 ──なぜ?


 先程まで聖女の話をしていたのに、どういうわけか三人の顔は聖杯にではなく、ヘルミーナに向いていた。

 ヘルミーナは「む、無理ですっ!」と両手と首を振って拒否したが、ルドルフの目は本気だった。

 断り続ければ王族への冒涜罪に問われるだろうか。

 助けを求めようとしたカイザーとアネッサは、どういうわけか今回はルドルフの無茶な行動を止めようとはしなかった。

 聖杯のことは知らされていなくても、最初からこれが目的だったように。

 一度落ち着いた緊張がまた募っていく。 


 彼らは何を期待しているのか。

 しかし、逃げ場のないヘルミーナはごくりと喉を鳴らし、ルドルフに命じられるまま聖杯に向かって両手を翳した。



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