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お荷物令嬢は覚醒して王国の民を守りたい!【WEB版】  作者: 暮田呉子
1.可哀想な婚約者とお荷物令嬢

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 テーブルに置かれた軽食とお菓子はどれも美しく飾られ、皿の上に一つの作品が出来上がっているようだった。

 下手に手を出して崩すのが惜しい。

 しかし、他の三人は見慣れた光景なのだろう。

 何の躊躇もなく手を出しているところを見ていると、自分が恥ずかしくなった。


「ヘルミーナ嬢はどれを食べたい?」

「私は……」


 気軽に訊ねられ、答えそうになったヘルミーナははたっと止まった。

 ここで素直に言えば、またカイザーが自ら皿に盛ってくれそうな気がする。

 これ以上、彼の世話になるわけにはいかない。

 ヘルミーナは「あの、自分でやりますので」と断り、海の幸が使われた軽食を中心に皿へ載せた。


「ヘルミーナは、お肉より魚のほうが好きなのかしら?」

「元々海に近い領地なので、魚の方が食べ慣れているのかもしれません」


 横目で見ても分かるほど落ち込むカイザーに良心は痛んだが、おかげで負担は軽減された。

 だが、ヘルミーナが肉派より魚派だというのを知ったカイザーは、「もっと魚介類を使った料理を持ってこさせよう」と言い出し、縋りつく勢いで止める羽目になった。


 ところで、気になったことがある。

 何気なく始まったお茶会だが、他に招待された人はいないのだろうか。

 ヘルミーナは恐る恐る「私以外の人は……」と訊ねると、「私達だけよ」「私達だけだね」「私達だけだよ」と、三人は声を揃えて答えてくれた。

 つまり最初から招待されていたのは、ヘルミーナだけということになる。

 ──どうして自分だけが呼ばれたのだろう。

 ふと考え出したら料理が喉を通らなくなった。


「レイブロン公爵家の料理はいつ来ても美味しい」

「王太子というのは家臣の屋敷で食事をするほど暇なのか?」

「暇じゃないさ、私だって忙しいよ。どこかの誰かは一週間ほど休みを取っているようだけど」

「……私の父上に言ってくれ」


 ルドルフはカイザーを親友と言っていたが、彼らの会話を聞いていると仲が悪いように思える。

 ただ、どんなにカイザーが無礼を働いても、ルドルフはそれすら楽しんで見えた。

 立場は違ってもお互いが、お互いを深く理解している。

 友達を失ってしまったヘルミーナには、二人の関係が羨ましく映った。

 何でも言い合える仲だったら、どんな噂や評判を聞いても寄り添ってくれただろうか。

 婚約者のエーリッヒですら、「自分はこんな婚約者を持って可哀想だ」という状況を作り出すだけで、守ってはくれなかった。

 たった一言でも「そんなことはない」と言い返してくれたら、違っていたのに……。


「……ヘルミーナ嬢、やはり具合が?」

「いいえ、何でもありません」


 無意識の内に余計なことを考え、手が止まっていたようだ。

 一方、ヘルミーナ以外の三人が注視していたのは、彼女の虚ろな表情だった。

 一体どんなことを思い出したら、このような「感情のない顔」をつくれるのか。まるで、希望も人権も奪われた奴隷と一緒だ。

 カイザーはアネッサから聞かされたヘルミーナの話を思い返し、拳を握り締めた。

 それからルドルフとアネッサに視線をやり、二人は同時に頷いた。

 何も知らないヘルミーナは、食の進んでいない皿にフォークを落とした。その時、ヘルミーナの手を止めるように、カイザーが掌を重ねてきた。


「無理して食べる必要はないよ」

「ですが……」


 折角、用意された料理だ。

 宝石のように並ぶお菓子にも手をつけられていない。これではお茶会をセッティングしてくれたアネッサや、レイブロン公爵家の料理人を失望させてしまう。

 ただ、カイザーにも分かるように、もう食べることはできなかった。視線を落としたヘルミーナは「すみません」と謝った。

 先に謝ってしまえば自尊心を傷つけられても軽く済む。そうやって少しずつ謝ることにも慣れてきた。


「謝る必要はないわ。貴女は何も悪くないんだから」

「アネッサの言う通りだよ。それに、手を付けていない料理はうちの使用人たちが食べるから気にしないでくれ。それから、甘いものが好きだったらお菓子は持ち帰れるように準備しよう」


 今にも消えてしまいそうなヘルミーナを、アネッサとカイザーが励ますように気遣ってくれた。

 悪くないなら謝らなくていい。

 他に方法があれば、それを使えばいい。

 至極単純なことなのに、今のヘルミーナにはそんな簡単なことも分からなかったのだ。

 ヘルミーナは彼らの言葉が何より嬉しかった。

 まともに喋ったのは今日が初めてなのに、深く沈んだ心が浮上していく。

 ヘルミーナは二人の好意を受け取りたくて、「それでは、お言葉に甘えて……お菓子の持ち帰りを」と伝えた。

 恥ずかしさのあまり両目を閉じると、周囲に人が集まってくる気配を感じた。どうやら、使用人たちがテーブルの料理を下げ始めたようだ。

 アネッサが若い侍女を呼んで一言、二言指示出すと、彼女は「畏まりました。それでは、お帰りになるまでに準備させて頂きます」とヘルミーナに向かって頭を下げてきた。カイザーもまた使用人にあれこれ命じている。

 そうしている内に、テーブルの上は新しいお茶だけが置かれた。

 テーブルが片付くと、今度はルドルフが片手を上げて後ろにいた騎士を呼んだ。


「──そろそろ本題に入ろう。君に無理はしてほしくないが、どうしても確かめたいことがあってね」


 本題と聞いてヘルミーナはどきりとする。

 暫くすると赤茶色の髪色をした騎士が、銀の細工が施された宝石箱を運んできた。

 それがテーブルの中央に置かれると、使用人どころか護衛の騎士までいなくなった。

 四人だけになった温室は、先程と違って異様な空気が流れる。

 ヘルミーナは箱を開けようとするルドルフと、宝石箱を交互に見つめた。

 すると、ルドルフは真面目な顔で言葉を紡いだ。



「君は、光の神エルネスの代行者、もしくは「聖女」と呼ばれていた存在がいたことは知っているかな──?」



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