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先代勇者は担任の先生 ~先生同伴で妹探しに異世界に行ってきます~  作者: チバニヤン
一章:妹を探しに異世界に行ってきます!
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6、なんで異世界に来ても授業受けてるんだろ?

「なんで、俺に『勇者の恩恵』だったかな? それを送ったんですか?」


「あっ、しっかり受け取れたのね。ノエルは適当な性格だから心配だったけどよかったわ」


 今さらっと女神様の真名が出てきた気がするが、華麗に聞き流し、「それで、なんで?」と問い直す。


「う~ん、一番の理由は継承者が欲しかったからかしら。私が【勇者】をやめて一年以上。五人目の魔王が誕生したみたいだし、そろそろ必要かなと思ってね」


 と、手を頬に当て、悩まし気な表情を浮かべながら言う。

 その本心か建前か分からない――見分ける術なんて知らないが――理由を聞き、一つ根本的な違和感を覚え、口にする。


「『勇者の恩恵』をもらえるのは嬉しんですけど……俺、(ユズハ)を見つけたら元の世界に帰りますよ、いいんですか?」


 そう、俺はこの世界に妹を探しに来たのだ。

 断じて、魔王を倒して、世界を平和にするためではない。

 魔王と言われても実感湧かないし、ぶっちゃけ、どうでもいい。


「別にいいわよ」


 けろっとした顔で即断する。なにか問題でも? と言わんばかりである。


「どうしてです? せっかく鍛えた【勇者】が一人の【魔王】も倒さず、元の世界に帰ったら、白石先生は大赤字じゃないですか」


「あぁ、そっか」


 白石先生はポンっと手を叩く。


「この世界のこと何も知らないのよね」


「ま、まぁそうですけど……」


「この世界は地球、私たちが元居た世界より面積が広いの。そして、ここからが重要――」


「……」


 ごくり、と緊張した面持ちで喉を鳴らす。


「それで……?」


「重要なこと。それは……この世界にはインターネットが存在してないのよ」


「…………は?」


 鬼気迫る口調で語る白石先生をよそに、完全に置いてきぼりになっている俺。

 ――文明レベルが中世並みって言いたいのかな?

 俺のポカーンとした姿から、意図が伝わってないと察し、短く咳払いをすると。


「こほん。インターネットが無いと、なぜ困るのか。……それは、情報が即座に、容易に広がることが困難になるからよ」


「ん? それと妹探しのどこに接点が……ハッ!」


「気づくのが遅いわね。まぁ、気づいたなら自分の言葉で説明してみなさい」


 腕を組み、聞きの姿勢をとる。

 ヒントは与えても答えは自分で出せいうことか。


「えっと。情報が広がらないということは、柚葉が今どこにいるかを知る術がないということだから……ですか?」


 間違っていた時が怖いので、お伺いを立てるかのように、恐る恐る口にする。

 すると、白石先生は腕を組んだまま「五十点ね」と吐き捨て、言葉を続ける。


「ならどうすればいいか、という所まで考えなさい。原因を見つけたら、すぐに解決策に思いを巡らす、これは常識よ」


「……そんなこと言われたって……ねぇ」


 早々に思考を放棄した俺の姿を見て、これ以上は話が進まないと考えたのか。


「簡単なことよ。妹さんがどこにいるか分からない。なら、妹さんに見つけてもらえばいいのよ」


「え、柚葉に?」


「そうよ。【勇者】になり偉業を成し遂げ、名を上げる。【勇者】が【魔王】を滅ぼした。その偉業はどんな辺境の村にも広まるはずよ」


「それで有名になったところで自分は異世界から来て、妹を探していると広めるんですね!」


 頭のなかでバラバラだったパズルのピースがカチッとはまり。

 つい、白石先生の説明の後半を奪ってしまった。


「凄いですね、そんなところまで考えて、『勇者の恩恵』を授けてくれたなんて」


 曇りのない眼で賞賛するが、悲しいかな。

「そう」と簡素な返事が返ってくるだけだった。

 ――頬を掻きながら、照れ照れな返答を待っていたのに……がっかりだよ!

 すると、白石先生はわざとらしく咳払いをし、黒板前に移動する。


「初めは言語からが妥当かしらね」


 と、唐突に本題に戻る。


「え? なんですか、いきなり」


「これからどうするかの話よ。初めは言語を重点的に勉強しましょうか」


「え⁉ 言語違うんですか? まぁ日本語は分かりますけど英語も通じないんですか?」


「当然でしょ! ここは海外じゃなくて異世界なのよ!」


「うっ、すいません。実感が湧かなくって……」


「はぁ~別に謝ることじゃない。実感なんてそのうち勝手についてくるわ」


「そんなものですかね……」


 俺の返答を興味なく聞き流し、白石先生はチョークを手に持ち黒板に白い文字をすらすらと淀みなく俺にも読めるよう日本語で書き進め。

 学校で言う所の、時間割表を書き上げた。


「これは望月君がこれからこの世界でどんなことをし、何を学びながら生きていくのかを示した表よ。まだ三か月分しか決まってないけど、続きは成長次第ね」


 黒板の表に目を向ける。

 そこには『言語習得』や『常識理解』、はたまた理解不能な『剣術指南』の文字が書かれ、その上に日程と時間が記され。

 常識理解(お金について)という具合にその日に行われる細かい内容すら書かれてある。

 一体いつから考えていたのか、綿密すぎる。


 と、その時ふと黒板の表の違和感に気づく。

 ちょうど今から三か月が経つ日の下に書いてあるその日のカリキュラム。

 そこには『言語習得(読み・書き・聞き・話すの完全理解)これにて言語習得全四過程は全て終了』の文字が――ッ!


「いやいやいや、いくら何でもこれは無理ですよ! 言語を三か月でマスターするなんて不可能、読みだけに焦点を当てて勉強しても三か月は短すぎですよ!」


 俺は大きくジェスチャーを入れながら表の内容に抗議を入れる。

 ――流石にこれは無理ゲーだろ!

 しかし、白石先生は俺に詰め寄られることを歯牙にもかけず、「三か月もあれは十分よ」と冷静に答える。


「十分じゃないですよ! 学校で何年間英語を習うか白石先生も知っていますよね。幼稚園から大学、短い人でも小学校から高校までの十二年を英語の学習に使うんですよ」


 一言発するたびに語気が熱を帯び、ジェスチャーも大袈裟になっていく。


「にも関わらず、ほとんどの日本人は話すことはおろか読むこともできない。日本人の何パーセントが英字新聞を正しく読めるんでしょうね!」


 すべて言い終わると俺は、はぁーはぁーと肩で息をしていた。

 手振りしすぎて腕が痛い。声を荒げすぎて喉が痛い。

 三か月でも言語の完全習得は不可能だと伝えるにしては大袈裟だったかな。

 でも、言った。自分の意見を言い切った! 

 さぁ一体どんな反応をしているんだ、と白石先生の顔を覗くと。

 白石先生の表情は――何一つ変わっていなかった。

 俺の意見を聞き流した訳ではないのだろう。 

 しっかり受け止めたうえでこの意見はこの状況には相応しくないと判断したのだ。


「望月君がさっき言ったこと全て正しいわ――英語をほとんど必要としない日本での英語教育に限った話だけれど」


 白石先生は俺の目をまっすぐ見つめ、諭すような口調で目の前の生徒が犯した間違いを指摘する。


「ほとんどの人間はね、当然好きなもの以外を学びたいなんて思わないのよ。勉強は辛い、その上なかなか結果が出ないことが大半だから」


 当然よね、と続ける。


「でも、ここで一つ疑問が湧いてくる。『なら、好きではないものを必死に学んでいる人たちは何なのだ?』という疑問が――」


「そ、そうですね」


「――それはね『必要』だから勉強しているのよ」


「!」


「もっと難しいこと考えてたの? ふふ、『必要だから』とっても単純な理由よ。でもここで重要なのは、必要は必要でも『何に必要か』ということなの」


「何に?」


「さっき望月君の意見を例に考えると、日本の生徒は英語を何のために勉強してるの?」


「それはもちろん……あっ! 定期テストや受験のため」


「だから望月君が言っていたことが起こるの。でも大丈夫! 望月君は今この世界の言語を生活するために必要としている。言語が分からないと何もできないから」


 この状況なら切羽詰まってやる気もでてくるでしょ? と笑いかけてくる。


「ははは、そうですね。それでもまだ三か月は短いと思いますけど」


「そうね、ここまで言ったけど確かに三か月は短いと思うわ……」


「なら――」


 俺が言葉を遮るように『バシッ!』と乾いた音が教室内に響き渡り、続いてペシッ! ペシッ! ペシッ! という音が一定のリズムで聞こえてくる。

 それは、白石先生が何もなかった空間から教鞭を取り出し、自分の手に叩きつける音。


「確かに短い、でも可能よ! さっき言ったわよね『私を信じてついてきてくれるだけでいいわ』と、そして望月君は『はい!』と返事をした。」


 いきなり異世界に連れてこられて考えることが沢山あったせいで。

 重要なことを一つ忘れていた。

 目の前の女性――白石沙織(しらいしさおり)は『教育』のことになると、残酷なまでに厳しくなると言うことを。

 生徒が「もう許してください」と泣いて懇願しても聞き耳を持たず無理やりにでも知識を押し付けてくる鬼教員だということを……


「はやく席につきなさい!」


「席?」


 俺は何かを探すように自分の背後に視線を向ける。

 そこには一組の机と椅子が置いてあった。

 あぁ、これは逃げられないやつだなと直感的、いや白石先生の目を見て悟り一切の抵抗をせずおとなしく席につく。


「ちょうど予定した時刻になったみたいね」


 腕時計を確認しながらそう告げ、優しげに微笑みかけてくる。

 白石先生が今、どんなに美しい笑顔をしようが不気味に嗤ったようにしか見えない。


「授業をはじめます」


 いつの間にか取り出した教科書たちが勢いよく教壇に置かれるのと同時に。

 俺――望月晃(もちずきあきら)の異世界での初めての授業が始まった。



次からようやく、本格的に異世界生活が始まります。

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