夏がなつかしい
「”夏“が“なつ”かしい」ってね
季節は春。和室の一室。
そこはどこか古臭く、使いふるされていた。独特の匂いに混ざる今は亡き父の香りが残る。
窓は閉め切っており、動かそうにも酷くガタがきておりあきそうにもないので諦めた。
先日、父は亡くなった。急性心筋梗塞らしい。ショックはあったかというとなかった。
いや、あったのかもしれないが葬儀の忙しさのあまり悲しみの余韻にも浸れずにいた。
父は作家であった。頑固者で口少ない……というわけでもなく陽気で明るかった。そして真面目で正しい人だった。
僕は当時から父の背中を追っていた。一人っ子ということもありいつも父に甘えて、父も溺愛していたと思う。そのことでいつもお父さんはお母さんに「時には厳しくしなさい」といっていたが結局、厳しくされた覚えはなかった。
そして、そんな父を見ていつかお父さんみたいになってみたいって思った。だけど父は“俺みたいな出来損ないになるな”っていつも寂しそうに笑いながら言っていた。そんな事ないというと言っても父の表情が変わる事はなかった。
そしていつも父は“俺が亡くなったらお前が掃除してくれ。欲しいのはくれてやる”と言われた。そんなものいらないよ。だから一緒にいて。そう思っていた。
掃除をしていく。古い本に分厚い参考書のようなものめくられすぎて読めたものじゃないもの。色々あった。
棚の奥の方にはアルバムがあった。僕が小さくて赤ちゃんぐらいの写真。父は私を両腕で担ぎながら撮影者にだろうはしゃいでいる様子だった。
幼稚園の入園式
運動会。その内にパン食い競争に苦戦する父。
花火大会で大きな花火を背景に僕を肩車した写真。
小学校の入学式。そっぽを向く僕に泣き目の父
そして中学校の入学式。コンクールでガチガチに緊張して笑顔が硬い僕を後ろから笑った写真。
どれも懐かしい。
ペラペラとめくっていくと記憶にない写真。
それは母と父の結婚式。見知った叔父さんとか友人のおじさんもいた。みんな今と違って全然若々しい。
まためくるとニ枚の写真がアルバムの間から落ちてくる。拾ってみるとそれは、昔の頃の父の写真。
場面はどうやら小説を書いてる途中らしい。父の顔は真剣そのもで、写真からでもピリピリした様子が見て取れる。そしてもう一枚は、さっきの写真を撮る母をこっそり撮ったものだった。
なんだ、母も普段は鬼なくせにこういう時だけ乙女なんだなって鼻で笑ってやった。
あの後、母がきて片付いてるかと聞いてきて、写真をガン見していた僕の頭を殴ってアルバム事回収していった。
私は仕方なく、掃除を続けることにした。
終わる頃にはもう日がくれ、空がオレンジ色に染まる。終わってみるとだいぶ片付いていた。本棚はもうすでに空っぽでタンスの中も机の中ももう何も残ってない。父のかけらは全て回収されていた。
いろはすを飲みながら寝転ぶ。
あぁーっと息を漏らしながら天井を眺める。ボーッと眺める。
飛び起きる。
天井にナニカガ張り付いていた。紙のようなもの。紙切れで何かの表紙の裏のようなものだった。
中身は『11720』と書かれいた。頭をハテナにさせながらも考えていると思いついた。あれだ。あれに違いない。
僕は急いでタンスの戸棚を開ける。
鉄の金庫には五桁の暗証番号に『11719』の文字をさしていた。
僕はゆっくりとダイヤルを回していく。
カチリと小気味良い音が内部から聞こえる。そして、引いてみるといとも簡単に解錠した。何か意図を感じると思いつつ中身を取り出すと。
それは一冊の本と衣装箱。後は……風鈴。
まずは風鈴と持ち上げると風鈴には夏には似合わぬ雪の結晶が描かれていた。
特に関心もなく次のを見ていく。次は一冊の本。
題名は『夏がなつかしい』
ダジャレかよと思ったが、開いてみると不思議な本だった。語りかけてくる本だった。多分これは父の体験談を小説に落としこんだものなんだと思った。
兄の事故。田舎ぐらいでの東京行きでの村八分。小説家になることに対しての周囲の反発。あとは母に対する愛とかだったりと知っている人にとってとても面白い本だった。
流石に読み耽ると明日になるので良い具合で読みやめた。これは明日学校で読もう。どうせなら夏の読書感想文にしてやろう。母に見せるつもりはない。
後は
この衣装箱。結構大きい。段ボールのガムーテープを父のカッターで開けていく。出てきたのは
「お母さん!明日。これ明日気に行ってみよ!!!」
母は、少し驚いたかと思うとそれを眺め
「懐かしいわね。それ。良いわねあなたに似合うと思うわ」
くそつまらんギャグ