表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

感情の育み

 私がこの王宮に来て一年になるほどの時間が過ぎる間。

 エディオンとアークスとの関係はエディオンの評判が上がるほど悪化し、逆にシーフクスとの関係は良好になっていった。

 成人した事によって責任も執務も多くなっていったけれど、エディオンは竜騎士になることを諦めてはおらず、毎日時間をひねり出し必死に訓練を続けている。

 私も毎日色々とすることがあり、エディオンと一緒にいる時間は少なくなってしまって、少しさびしく感じていた。

 けれど、エディオンを守る事。

 この世界がどう病んでいて、10年の時間の中で何を決めるのか、今の私には何もわからない。

 その情報も必要だ。

 私は時々、王宮以外では子供の姿になって歩き回ってこの国を自分の目で見ている。

 この国は意外と豊かで海の幸、山の恵み、海を使った貿易、山の鉱山。

 一年を通して温暖で、地形的なことから雨もちゃんと降る。

 様々な要因がこの国を豊かにしているのだ。

 国民性もおっとりしているせいで攻撃性はほぼなく、明るく人懐っこい。

 愛情が深く、人や国、そして竜を愛している。

 国民は助け合い平和に生きていて、子供が一人で街を歩いていても気にして声はかけるが、悪意を持って近づくことはないほど治安がいい。

 交易が盛んなので、港の方は他の国からの人間がたくさんいて港町は少し治安が悪いのだけど、街は高い塀に囲まれ、その国の人間以外の者が港町から出るには色々と厳しい条件があるおかげで問題のある者は港町からは出ることが出来ないのだ。

 それに港町の自警団は海の男から構成され、街が守られている。

 細い裏路地はなく、白い塀と青いアクセントの建物が立ち並んでいて街は美しい。


 私はそんな港街に情報を求めてよく出かけていた。

 飛行距離も飛行速度も毎日の魔法訓練で上達していたので、港町へは1時間ほどで行けるのだが、まだ子供の姿以外にはなれず、港町の子供のふりをして情報を集めているが子供の姿だとどうしたって限界がある。

 この港町に信頼できて情報収集に長けている情報屋を探して、ようやっと数人の情報屋と契約をすることが出来た。

 最初は子供の姿のせいで交渉が大変だったけれど、情報を紙で受け取るには子供を使う方が警戒されないだとか、色々言って何とか一人と契約出来て、きちんとお金を支払い信頼を得て他も紹介してもらった。

 情報屋には情報の種類の得意があるし、1人ですべての情報を集めるには限界があるから、欲しい情報が得意な情報屋と契約していくと、結果数人の情報屋と契約することになる。

 受け取った私が最初に報告書を読むけど、お金はシーフクスからもらっているので、報告書はシーフクスに渡してそれから必要な分を受け取ってエディオン達と共有していた。


 情報収集の他に優秀な人材の情報も頼んでいる。

 シーフクスの側近の1人が非常に優秀で、ああいう人間がエディオンの側にも欲しいんだけど、優秀な人材でエディオンだけに忠誠を誓える人間となると難易度は高い。

 とりあえず、優秀な人材の情報はまず私が会って、それからシーフクスに紹介している。

 エディオンか、守護竜にだけ忠誠を誓う優秀な人材じゃなくても、優秀ならシーフクスに貸しを作れるからだ。

 少しづつでもいい、エディオンと私が信用出来る人を集める必要がある。

 その為にはコツコツと探すしかない。


 ああ、エディオンともっとたくさんいたいなぁ。

 忙しい毎日に、ため息とちょっとの不満がこぼれる。

 最近は朝ごはん食べたら夜ご飯までエディオンと会わないなんてざらだ。

 私もエディオンも忙しすぎなのだ。

 頭では理解していても、心は少しさびしい。

 一緒にご飯食べてるけど、一緒にお風呂入っているけど、一緒に寝てるけど、会話が少ないんだよぉおおお!!

 あの可愛い声でもっと名前を呼ばれたし、もっと抱っこしてほしいし、もっと背中をさすさすしてほしいし、全然エディオンエネルギーが足りない!

 エディオンが成人したらこんなに忙しくなるとは……。

 何もかも放り出してエディオンの側にいることは出来る。

 でも、何もわからない状況ではエディオンを守ることは出来ないだろう。

 自分の気持を優先して、もし手遅れになってしまったら、自分が自分を許せない。

 そう考えるだけで、今の選択は間違っていないし他に選ぶことなどできないとわかる。

 私はがっくりと頭を折り、ぽてぽてと王宮の廊下を歩く。

 部屋に戻ったらエディオンを舐めまくろう。

 ああ、エディオンの匂いが恋しい……。


 そんな寂しい私がエディオンと朝食を食べている時だった。


「ほら、王族専用の王庭に大きな池があるでしょ? そこに舟を浮かべるだけなんだけど、舟遊びが出来るんだよ。クレールはそういうの好き? 今日これからやってみない?」

「キュウ?」


 突然言い出した舟遊びが好きかどうかなんてしたことないからわからないけど、エディオンと一緒にいられるならなんでもいい。

 私は食べるのをやめてエディオンの所へ行き、その膝の上に座る。

 そしてエディオンに抱きついた。


 自分も忙しいくせに、私を気遣って時間を作ろうとしてくれているエディオンの気持ちが嬉しい。

 まだ幼いくせに人の気持に敏感に感じ取るエディオンに愛おしい気持ちが湧き上がる。

 本当にエディオンは優しくていい子だ。


 その後、私とエディオンは王宮の庭にある池の上に舟を浮かべて、エディオンから果物を貰い食べつつ舟遊びをした。

 エディオンの楽しそうな笑顔に癒やされる。

 自分にエディオンみたいな弟がいたら、絶対ブラコンになる自身があるね!

 ほんとうに可愛くて食べちゃいたいくらいだよ。


 午前中だけだったけれど、久々にエディオンと一緒に過ごせて私もすごく楽しかった。

 舟には紗のような布が上に張られて太陽の光を遮っている。

 池には美しい花びらが散りばめられていて、水面がゆらゆら揺れて光を反射するのが美しかった。

 エディオンの銀髪が水面の反射を受けて輝く。

 大きくクリっとした神秘的なパーティカラードサファイアのような瞳に見つめられると幸せな気持ちになれるのだ。

 びっくりするほど美少年ってわけじゃないけど、キレイな子だと思う。

 まだ幼さが残るけど、どんなふうに羽化するのかとても楽しみなのだ。

 今の私はドラゴンの体に引っ張られる感情と、珠李として大人の人間としての感情の両方を持ち合わせている。

 でもエディオンを大切に想う気持ちは同じだ。

 優しいエディオンを幸せにしてあげたい。


 私の運命はエディオンを拾った時に決まってしまったのかもしれない……。






「グエン隊長」

「なんだ」


 池の端に立つグエンに横にいたノイが話しかける。


「ドラゴンっていつになったら体が大きくなるものなのでしょうか?」

「普通のドラゴンなら半年ほどで小馬くらいにはなるな」


 エディオンに視線を固定したままグエンはそう答える。


「グランドドラゴンって普通のドラゴンではないのですか?」

「いや普通のドラゴンだな。他のドラゴンに比べると寿命が長く、500年くらい長生きすることもあるとドラゴン研究所の者から報告を聞いているが」

「確か背中の背びれの形と角の数と生える場所で竜種の特定が出来ると学びました。クレール様ってグランドドラゴンなのですよね?」

「そうだな」

「………」


 質問にあっさりと答えられたノイは少し迷ったものの、また口を開く。


「クレール様は1年間、まったく大きさが変わっておりませんが、クレール様が特別なのですか?」

「……たぶんな。普通のグランドドラゴンが読書をしたり、文字を覚えて人間と意思疎通するなど聞いたこともない。情報を集めたり、人間と同じように食事し、風呂に入り、ベッドで寝る竜など知らぬし、可愛い仕草を見せて人間からプレゼントを巻き上げるなど聞いたこともない」

「た……確かに……」


 クレールは王宮でも大人気だ。

 触らせてもらえないが、プレゼントを捧げると受け取る為に近づいてくれて、愛想を振りまいてくれるのだから王宮内のメイドや騎士など常にクレールの為の捧げ物を持ち歩いている者が多い。

 特に竜騎士からの人気は絶大でクレールを唯一触れることが出来るエディオンが妬まれている状態だ。


「すごく人間くさいドラゴンですよね。クレール様って」

「そうだな」

「……自分にだけ懐いて必死に自分を守ろうとしてくれる真っ直ぐで可愛い女の子。ドラゴンだからどうこう出来ませんが、人間だったら殿下には良かったのに」

「殿下は王族だ。身分と言うものがある。例えクレール様が人間でもどうこう出来まい」

「……」


 船の上でエディオンとイチャイチャしてるようにしか見えないクレールをノイは静かに見つめる。

 ノイは騎士団の見習い騎士だった。

 訓練室でクレールに捕まって今はエディオンの専属騎士として出世している。

 この国では竜は崇拝の対象だ。

 小さな時から守護赤竜の物語を聞いて育ってきたノイにとって竜は憧れの対象で、本当は竜騎士になりたかったのだが竜騎士になるには適正がいる。

 ノイにその適性がなく、普通の騎士になるしかなかった。

 それがこの国で新たに守護竜として認められたクレールに見出され、エディオンの専属騎士になってクレールに近づくことが認められ許されている。

 考えられないほどの大出世だ。

 

 ノイから見て、エディオンとクレールの間には特別な絆があるように思えた。

 深い愛情。

 敬愛。

 労り。

 時に母親のよう守り。

 時に姉のように世話し。

 時に恋人のように癒やす。

 ドラゴンと人間という種別の垣根さえなければいいのにと思ってしまうほど、2人はお互いを大切にしている。


 今日もそうだ。

 いつもは執務に忙しいエディオンがクレールの為に時間を作り、天気のいい庭で舟遊びを提案した。

 池には花を浮かべ、船にはクレールの好きな果物が乗り、庭に咲く花を2人は愛で、クレールの為にエディオンは果物の皮をむき口に運んでやっている。

 その様子は愛玩動物に餌を与えるものとは違う。

 恋人同士のような甘い雰囲気を少し感じるのだ。


 成人したばかりのエディオンは成長期で、体は少しづつ大人の男になろうと変化し始めている。

 幼さが抜け、毎日鍛えている体は骨ばり始め柔らかさがなくなっていく。

 顔つきも優しくて愛らしかったが、少しづつシャープになってきていた。

 可愛らしい子供から、美しい青年へと変化しているのは毎日見ているノイにもわかる。

 日に日に王弟妃に似てきて、美しさが際立ち始めているエディオンに目が奪われるのだ。


 風になびく美しく銀髪。

 長いまつげに縁取られた水晶のように透き通った瞳は紫と桃色に分かれている。

 細身ながら筋肉がつき出した体はスラリと伸び始め、王宮内の令嬢やメイドの熱い視線を向けられるようになっていた。

 本人はクレールに夢中でまだまだ恋には興味ないようだが、王の息子ではないエディオンには自由恋愛の婚姻が許されている。

 将来どんな女性を妻にするのか楽しみでもあった。

 けれどノイは出来るならクレールと2人だけの時間が長く続くことを望んでいる。

 人間とドラゴン。

 今のまま仲良くしている2人を見続けたいとノイは思っていた。





 


 エディオンとの舟遊びは意外と楽しかった。

 寂しい気持ちも薄れ、元気が補充されたような気持ちだ。

 文字の勉強は着々と成果が出てきてるし、シーフクスも熱を出す回数が少しづつ減ってきているみたいだし、こっそり魔法の熟練度を上げ頑張っている。

 今日はあまり時間もないし、港町のような遠いところへは行けない。

 城下町に降りることにする。

 人間への変異の魔法はまだ熟練度が足らず、人間の子供にしかなれないし、服も出せない。

 仕方ないからリタに作ってもらったナップサックに服を入れて、人がいない場所で着替えている。

 ナップサックの中にはおやつといくらかのお金も入っているので、欲しい物があればちゃん買うことも出来た。


 金の髪に金の瞳。

 色自体は珍しくはないけど、両方同じというのはこの世界ではけっこう珍しいらしい。

 どれくらい珍しいかと言えば100万人に一人くらいの確立なんだとか。

 なので目立ってしまう。

 魔法で変異しているので、どうしても元の自分の顔がイメージの対象になってしまうせいか、人間の姿は子供の頃の自分だ。

 美少女でもなんでもない。

 良く言って親しみやすい顔。

 悪く言って普通なんだ……。

 まあ、そのおかげで両方同じ色って珍しさが薄れて、普通の子供として平民に紛れることが出来るんだけどね。


 どうして街に来たのかと言うと、街には魔石屋があるのだ。

 魔石とは魔獣が死んだ時に残る核だったり、魔力の強い地場で生成されるものだ。

 使い捨てになるが、鉱山で採れた数種類の石に魔力を込めて魔石にすることも出来る。

 そういう魔石を扱う専門の店である魔石屋が街にはあるのだ。

 エディオンに頼めば、わざわざ街に来て魔石屋に行かなくても魔石は手に入る。

 けれど人工的に作った魔石は逆に手にいれることができないのだ。

 それでは意味がない。

 石に魔力を込めて魔石にする。

 それが私の魔法訓練でもあるからだ。

 魔石屋には魔法を込められる鉱石も扱っているので、まず石を買って魔法を込めて魔石にし、魔石屋でそれを売ってさらに石を買う。

 そういう事を繰り返し魔法の熟練度を上げているだ。

 しかも石を安く買って魔石にして高く売って、今の私はけっこうお金持ちだったりする。


 石以外にも魔法を付与することは出来る物はあるが、その中で鱗は特に都合が良い。

 薄くて軽く、衝撃に強い上に魔法付与しやすい特徴を兼ね備えている。

 鱗がちゃんと再生されるのか調べる為に試しに剥がしてみたんだけど、鱗の再生は半年くらいはかかった。

 なのであまりぽんぽん剥がすことは出来ないし、魔法付与出来る竜の鱗を持つ竜自体も希少で売るには高額すぎるらしい。

 売ったらいくら位いになるのかとグエンに聞いたら、広大な屋敷1つは軽く買えるとかで売るのは諦めた。

 試しに所持者を守る色々な魔法をかけてみたら、すっごい効果のあるお守りになってしまい、すごすぎて値段がつけられなくなってしまったのだ。

 なので私のお金を隠している場所にこっそり鱗も隠してある。


 今日は銀と石が欲しくて魔石屋に来た。

 魔石屋のドアを開けると、店の親父がすぐに私に気づいて嬉しそうに笑いかけてくる。


「おう、いらっしゃい」

「こんにちは!」

「ちょうど今日はいい石が入ったんだ。見るかい?」

「うん」


 店の親父は革袋からいつくかの石を出す。

 大小様々な色とりどりの石が袋から転がり出てくる。


「今お嬢ちゃんが出来そうな依頼が多いのは足の速度強化と筋力効果だな」

「じゃあ、依頼に必要な石を必要なだけください。それと、他に欲しい物があるの」

「欲しい物?」

「うん、魔石を加工する道具一式と装飾用の銀のチェーンとハサミカンとかのアクセサリー素材と、ピンクと紫の石が欲しいの」

「魔石で装飾を作るのかい?」

「うん、そう」


 人工の魔石はあまり装飾に加工されることはない。

 装飾に加工しても魔石を使うと、またその魔石に魔法を付与しなければならない。

 手間とお金がかかりすぎる。

 魔獣の核とかの元々魔石として存在している魔石の方が半永久的に魔法が持続するし、装飾にするなら普通そういう魔石を使う。

 そう言った理由から人工魔石は使われることがないのだ。

 けど、魔石にするならだ。

 魔石にしなければ普通の鉱石のまま。

 装飾として使うには十分なのだ。

 つまり今欲しいのはただの鉱石だった。


「ピンクと紫の石は……大きさは決まっているのかい?」

「小さいのが欲しいの。んと、1センチくらいのがいい」

「そんな小さいのは裏だなぁ。ちょっと待ってな」


 魔石屋の親父が探してくれた小さな石を数個、加工道具を一式購入する。


「お嬢ちゃんは王宮で働いている家族がいるって言ってたよな?」

「うん……」


 親父から王宮の話が急に出て少し警戒する。

 情報を引き出すのはいいけど、こっちの情報を渡すには吟味する必要があるからだ。

 うかつな話は出来ない。

 けれど、親父の聞きたかったことは警戒するようなことなどなかったのだ。


「王宮には守護竜のクレール様がいるって聞くんだが、お嬢ちゃんは見たことあるかい?」

「……うん」

「そうか! やっぱり王宮に入れるっていいよな!」

「親父もクレール様に興味あるの?」

「おうよ! 俺だけじゃない街のみんなクレール様のお姿をひと目見たいよなぁっていつも話してるぜ。何かパレードとかお祭りとかでクレール様を見ること出来ねぇかなぁ」

「そんなに見たいの?」

「そりゃそうだよ。グランドドラゴンなんて元々希少だしな。そんな希少なドラゴンがエディオン殿下に寄り添うなんて、初代守護竜のサンチェス様以来なんだぜ。もう街中みんなその話ばっかりだぜ」

「そ、そうなんだ」


 興奮気味に話す親父は、目をキラキラと輝かせている。

 さすが守護竜の国、ドラゴンは大人気らしい。

 エディオンと一緒に街を歩けるなら私も嬉しいけど、どうなんだろう。

 後でシーフクスにも相談してみよう。


 私はうきうきとした気持ちのまま鉱石を選ぶ。

 今選んでいる鉱石はエディオンの誕生日プレゼントの材料だ。

 指が短いせいで、何かを掴んで細かいさぎょうすることは出来ない。

 出来るのは魔法で操ることだけ、そのせいで時間がかかると予想し、今から材料を集めているのだ。

 私がそんなふうに想像している間、世界はゆっくりと滅びへの道を確実に進みだしていた……。





「恐ろしい……」


 男が青ざめた顔をして呟く。


「こんなことがあってはならない!!」


 違う男が叫ぶ。


「どうしたらいいんだ……」


 もう1人の男が両手で顔を覆ってその場に崩れた。


「何とかせねばなるまい……」

「何とかってどうすればいいのだ!!」


 苦しそうに目を閉じてそう言った男の言葉に違う男が食いつく。


「竜だ」


 目を閉じていた男はゆっくりと瞼を上げ、周りにいた男たちに向かって口を開く。


「竜?」

「このタイミングで竜が現れたのだ。竜なら何とか出来るかもしれぬ」

「何とかって、その竜をどうやって担ぎ出すのだ!」

「やるしかあるまい。滅びたくはないのだろう? 力を持ってしても我々の前に!」


 絶望していた男達はその言葉に顔を上げる。


「そうだ……。竜を我々の物にするしかない」

「奪い取ればいい。殺してでも奪うしかあるまい」

「竜を……」

「竜を!」


 男達は何かにとりつかれたかのように呟く。


 竜を自分達の物にするのだと……。








「シーフクス様、それはどういうことなのでしょうか?」


 私と一緒にシーフクスの部屋に来ているエディオンが困惑げに聞き返す。


「つまり、友人であるアークスを訪ねて隣国ブレイームズから王太子であるイルス殿がこの国に長期間滞在することが決まった。イルス殿はブレイームズの唯一の王位継承者。決まったからとそうすぐにはこちらに来ることは出来ないだろうし、こちらも警備や準備もある。滞在期間も長いことから実際にこちらに訪問されるまでどのくらいかかるのかわからぬゆえ、実際は訪問日も未定だ。クレール様の予想通り、あの2人にはあまり良くない繋がりがあるようだ。エディオンも今後十分警戒しなさい」

「はい……」

「しかもイルス殿はどうやらクレール様に興味があるようで、訪問日も決まっていないのにすでに謁見の申し出があった。その際、エディオンの立ち会いではなくアークスの立ち会いを望んできたが、それは無理だとはねのけておいた。クレール様はエディオン以外は許さないのでエディオン以外を望むなら謁見を却下させてもらうと強気ではねのけたのだが、向こうがそれを受け入れたので謁見の取りやめは出来なかったのだ」


 そのシーフクスの言葉にエディオンが不安そうに私を抱きしめる。


「私が調べた所、興味からクレール様に謁見を申し込んで来たとは思えない。だからこそお前がしっかりクレール様をお守りしなさい」

「はい」


 不安げな声で返事をしているエディオンを見上げる。

 私は光属性のドラゴンだ。

 私自身に危害を咥えるのは難しい。

 私に何かしたいなら、私が守っているエディオンに手を出してくるはずだ。

 エディオンを守る為にももっと色々な魔法の熟練度を上げておきたい。

 それと隠れる為の準備もいる。

 私はある作戦の実行を求めるつもりだ。


 イルスって王子がこの国に来るのに時間がかかるなら、準備をどうするか考える時間も十分あるってこと。

 情報をもっと集めなければならないだろう。

 アークスがどこまで愚かな策に乗せられているのか把握出来ないことがもどかしい。

 エディオンとシーフクスが親しく交流していることがアークスに伝わっているらしく、最近のアークスの動向がおかしいことは把握していた。

 すでに乗せられて次期王位継承者になるつもりらしく、横柄な態度にも磨きがかかっていると聞いている。

 守護竜である私がアークスの所にいたならそうなっていたかもしれない。

 けれど、私はエディオンと共にシーフクスの所にいる。

 できればエディオンを私ごと取り込みたいようだが、アークス自身がエディオンを嫌い疎んでいるせいでそれは出来ないようだ。

 だからこそなんとかして私を自分に手懐けようと近づいてくるが、その度に私に威嚇されている状況だった。

 あんな臭い匂いを撒き散らしながら、近づくことを私が許すはずがない。

 今の王宮はアークスとその一派だ。

 何とか1人でも多くアークスから引き剥がせればいいのだけど、腐っていても貴族、それもなかなか難しい。

 そんな状況の中、隣国の王子までもなんてますます頭が痛い状況だ。

 

 なんで頭がアークスと交流があるんだろう。

 第一王子はシーフクスなのに……。

 良い予感はしない組み合わせに、私は本能からか警戒心がいっそう刺激されていることがわかった。





 


 読んでくださっている方、ブックマークしてくださってる方、ありがとうございます。

 2部まで恋愛要素がうすうすで、エディオンの成長編として読んでいただけると嬉しいです。


 文字を打ち込むのが遅い上に、文章の修正や誤字脱字チェックもしていると、更新がかなりまったりになってしまい、次の更新が遅くてすみません。

 ですが、出来る限り早く更新しようと頑張っていますので、温かい気持ちでお待ちいただけたらと思います。


 関東に住んでいる上に、相方がコロナの濃厚接触者認定になってしまい、コロナの脅威に私もさらされております。

 「たぶん大丈夫だろう」ではなく、今の期間だけでもご自分を守る為に、マスク、手洗いうがいなど、忘れないでくださいね?

 後遺症なども報告されえていますし、飼い犬も感染することがわかり、コロナから守る大切さを感じております。

 皆様と一緒にがんばれたらと思っております。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ