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守護竜は暗躍中

 王宮に来てから色々あったが、私はアイビンエネス国の新しい守護竜として受け入れられエディオンと出会ってから8ヶ月になろうとしている。

 今の私はこの国のどこでも自由に歩き回ることが許されている。

 もちろん安全面も問題はない。

 この国で竜は象徴であり、信仰の対象でもある。

 もともと竜は大切にされているのだ。

 そんな国で守護竜に害をなす者などいるはずがない。


 私の新しい日課として文字の学習と王宮の散策が加わった。

 文字が書ければ人の姿にならなくても誰とでも交流出来るし、エディオンとの交流も楽になる。

 そして王宮散策は、情報収集の他にエディオンの側に置く味方を探す為だ。

 第二王子の周辺がきな臭いことはすでにわかっている。

 ならエディオンの周りの守りを固めなければ……。

 それには信頼できる者を探したい。

 王ではなく、エディオンに忠誠を誓う者。

 その素質がある者を探す必要があった。


 王宮内を歩くには二本足だと遅いので今は飛んで移動している。

 正直、飛ぶと言ってもいいのか悩むベルでひどい。

 床からたった50センチくらいの高さしか飛べないし、飛行速度も歩くよりはマシなレベル!

 もうこれは浮いていると言っていいだろう。

 守護竜と言われるようになったドラゴンなのに、まともに移動すらできないのだ。

 すっごいガッカリである。


 エディオン落下事件から私は魔法を理解し、使えるようにはなったけれど、これがそう簡単な話ではない。

 ドラゴンが使う古代魔法を理解したから魔法が使えるようになったんだけど、

 魔法には熟練度があり、同じ魔法を使うにしても熟練度が大きく作用してしまう。

 つまり飛ぶことすら熟練度が必要なのだ。


 例えばドラゴンなので口から火を吐き出すとする。

 これも古代魔法を使っているのだ。

 詠唱なしの古代魔法は脳裏に文字を浮かべ、「使う」という意志で発動する。

 口で詠唱していたら詠唱が終わるまで火を吐けない。

 それでは意味がないのだろう。

 逆に人間が使う魔法は精霊魔法系だ。

 この世界のエネルギーであるマナから生まれた精霊は、マナを使って魔法を発動する。

 人間は精霊の力、つまり魔法として発動するのだ。

 精霊に命令を与えることこそが詠唱である。


 話を戻すと、ドラゴンの親がつきっきりで子供の世話をするのは熟練度が低い子供を護るためなのだ。

 つまり、私が色々な魔法を使いこなせるようになるには熟練度を上げなければならないってこと。

 使えるのに使っている意味がない状況に、まさにガッカリ状態である。

 しかも私は光属性のドラゴン。

 ドラゴンの中でもっとも攻撃魔法が少ない属性で、「守る」「癒やす」「補助」の3つが他の竜に比べて特化している。

 考えようでは使えるが、状況によっては使えない竜なのだ。


 王宮内で背中の羽根を激しく動かせつつ、50センチほどの高さを浮いて移動する私の姿は、王宮内で温かい視線に見守られていた。

 ドラゴンの子供が必死に飛んでいる姿が可愛いと、最近はもっぱら話題になっているらしい。


 その上、良いこともある。


「守護竜様。くだものはいかがですか?」


 王宮の廊下を飛んでいると、ちょうど部屋から出てきたメイドにそう声を掛けられる。

 こんなふうに気軽に声をかけられ、最近は色々ともらう。

 どうやらお供えやプレゼントのような意味合いらしい。

 私は素直に声をかけてきたメイドの方へ向かう。

 もし毒か何か入れてもドラゴンの私の嗅覚でわかるし、守護竜の私に毒を盛ろうなんて人間はこの国にはいない。


 私がメイドの前に行くと、赤くて丸い果物をメイドが差し出す。

 以前グエンに通達をしたように、人間は私に触れない。

 私が前足の短い指の手を出せば、落とさないように手の上に果物を置いてくれる。

 しっかり前足て果物を掴み、しっぽをメイドの前でピコピコと振って見せれば、メイドは顔を輝かせて喜んだ。


 こっちは子供のドラゴンで、可愛いのがわかっているのだ。

 私の仕草に喜んで当然である。


 果物を貰うだけもらって、エディオンの部屋に向かう。

 エディオンはちょうど執務が終わり、私の戻りを待っているはずだ。


 その途端、私は止まった。

 どこからか、すごくいい匂いがするのだ。

 エディオンの甘く痺れるような匂いとは全然違うが、懐かしく何度か嗅いだことのある匂い。

 それが何なのか、鼻をクンクンさせて嗅ぎ取る。


 甘い花の匂い……。

 夕方、家に帰る時……。

 そうこれは金木犀の香り。


 私は匂いの元を探す。

 何度か角を曲がると、メイドが2人立っていた。

 この子だ。


 私の姿に気づいたメイド2人が廊下の端に寄る。

 赤い髪を1つに団子にして、明るいオレンジの瞳。

 外見年齢予想は20代前半。

 とても優しそうで綺麗な子だ。


 私はその赤髪の女性の前に飛んだまま止まって匂いを確認する。

 金木犀の甘くて懐かしい香りが確かにこの子からしていた。


「キュ! キュキュ!!」

「え? 守護竜様?」

「キュウキュウ!」


 女性をエディオンの部屋に連れて行きたいのだが、両手は果物を持っていてふさがっている。

 さて、どうしたものかな?と女性を見つめた。


 女性の後ろに回ってつけていたエプロンを結ぶリボンの端に自分の尻尾を絡ませ引っ張る。

 当然、エプロンは解けて首にかけている部分だけが女性に残るだろう。

 そうしたら女性は私がエプロンを欲しがっていると思って外してしまうかもしれない。

 言葉を話さないって意外と面倒だなぁと思いつつ、私は果物を女性に差し出してみた。

 女性は隣の女性と視線を合わせ戸惑いつつも、私から果物を拝命するかのように敬々しく受け取った。

 これで私の両手は空いたし、受け取った女性の腕に自分の尻尾を絡めて引っ張る。


 女性から「あの」とか「クレール様?」とか困っている言葉が出ているけど、どうせ話せないのだ。

 無視してエディオンの部屋まで引っ張って行く。

 部屋に連れていけば護衛のグエンがいる。

 何とかなるだろう。

 そうしてメイドを一人スカウトしてきたのだった……。






 連れてきたメイドの名前は『リタ』。

 突然部屋にメイドを連れてきたエディオンとグエンは時間がかかったものの、的確に私の望みを汲み取ってくれた。

 つまり、私の望み通り、リタはエディオンの専属メイドとなったのだ。


 最初戸惑っていたリタだが、今は配置換えでエディオン付きのメイドとなりテキパキと働いている。

 痒いところに気づいて言われる前に動けるし、仕事もこまめで丁寧だ。

 いい買い物をした。

 私が買ったわけじゃないけどね!


 王宮内でリタが私じきじきにスカウトされたことは、またたく間に知れ渡って今ではどのメイドもスカウトしてもらえるのではないかと期待の目で散歩中の私を見るようになった。

 貢物というプレゼントが増え、相変わらずしれっともらいつつも王宮散策をする。


 そうして、今私は騎士の一人をしっぽで掴んでエディオンの部屋に向かっていた。


 この騎士はまだ見習い騎士のようで訓練室に一人で訓練したところを捕獲したものだ。

 紺より少し明るい青い髪はサラサラでダークグレイの瞳の年齢的にもエディオンと近そうだし、大人しく真面目そうでなんとなく、グエンに近い雰囲気を持っていたし、匂いははちみつレモンみたいな匂いをしていた。

 名前は『ノイ』。

 護衛だけでなく、エディオンの友達的なポジションにいいかもしれない。


 また一人部屋に連れてきた私にエディオンとグエンの表情が苦笑が向けられる。


「またか……。こっちにおいで、クレール」


 エディオンに呼ばれ、ノイの腕を離し執務机の上に座る。


「彼を……僕の護衛にすればいいの?」


 困ったよう笑うエディオンに私はこくこくと首を縦に振る。

 そんな様子に先に専属になったリタがノイに同情めいた視線を向けた。


 別に強制じゃないよ?

 あくまで任意。

 リタもノイも嫌なら断ればいい。

 それだけの話なのだが、どうも私が直接スカウトしてきたせいで、断るという選択肢はなくなっているそうだ。


「今度から直接私の所に連れてくるんじゃなくて、グエンを連れて行って彼に説明させて?」


 私が選んでいる時点で同じような気がするけれど、エディオンがそう言うならと頷いておいた。


「まあ、クレール様が直接選んだ時点で説明も何もないような気もいたしますけど……。私もエディオン様の専属になってからは随分王宮内で立場が向上いたしましたし、選んでいただけて本当に良かったと思っておりますわ。ノイも数日は大変でしょうが選んでいただいたことを感謝するようになると思いますよ?」

「……まあ、確かに動きやすくなりましたね」


 グエンもリタの言葉に賛同してくれた。

 むふ。

 さすが守護竜。


 エディオンはクスクスと笑いながら私を優しく撫でてくれる。

 とにかく、今のエディオンには一人でも多くの信頼できる者が欲しい。


 私が嗅ぎ分けている匂いは、たぶん悪意と敵意なんだと思う。

 悪意や敵意を嫌な匂いとして認識し、逆に好意はいい匂いと認識していると考えている。

 嫌いな匂いをしている人間は王宮内でもけっこういるが、そのすべてが私やエディオンに向けられているわけではない。

 匂いの強さにも差があり、エディオンや私に向けられる敵意は尖った腐ったような匂いがした。

 ただ嫌いな匂いの人はこの国や環境に不満を抱いている人が多い。

 毎日の散策で私はまだ仮にだけど、そう判断していた。


 匂いで判断できるのは助かる。

 エディオンの側にいる人間をスパイか裏切る人間なのかどうか疑わなくていいからだ。

 急に匂いフェチになっちゃったのかと思っていたけど、こういう能力なのだろう。

 便利で助かる能力で良かった。


 エディオンが甘く痺れるような匂いなのは私と言うより、ドラゴンに対し、深い愛情の含まれた好意だからだ。

 竜騎士になりたいのは竜が好きだから。

 この国の伝説の守護赤竜レッドドラゴン・サンチェス。

 その物語の本はたくさんある。

 小さい時のエディオンはサンチェスの活躍する本が大好きで、竜と通じ合う竜騎士に憧れるようになったとエディオンは話してくれた。

 竜が好きなエディオンからいい匂いがするのは当然のことだろう。

 優しい子だし、穏やかだ。

 匂いがなくても、きっと一緒にいて守ってあげたいと思ってしまう。


 まだ幼いけれど、きっと大人になればいい竜騎士になる。

 だから私はエディオンの願いが叶うように行動していくつもりだ。


 それには王位継承者であるシーフクスの健康だろう。

 いつもあんな青い顔をしている状況で、弟のアークスが思い違いをするようになるのもしょうがない。

 周りも担ぎ上げるコバエもいるし。

 エディオンの周りにもコバエが集るようになったしね。

 どこの世界でも権力を持つ者の貪欲さは同じだ。


 私は今エディオンに抱っこされてシーフクスの所へ向かっている。

 最近はいくつかの単語を覚えたのでなんとかシーフクスの所へ行きたいことは伝えられた。

 『シーフクス』『部屋』『行く』『会う』と書いただけなんだけど、それで十分だろう。

 こうしてシーフクスの部屋に向かっていることだしね。


 リタは部屋付きのメイドなのでお留守番だが、先日正式にエディオンの専属護衛騎士になったノイはエディオンの少し後ろを歩いている。

 もちろんグエンは前だ。

 もう一人か二人、エディオンの護衛が欲しいところだなぁ。

 でも、王の息子ではないエディオンにだけ忠誠を誓える騎士を見つけるのは難しく、見つからない。

 メイドももう一人くらいは欲しいよいね。

 エディオンは優しいし、剣技もなかなかの腕前だと聞いている。

 このまま他の騎士達に混じって訓練していれば、いずれエディオンに憧れる騎士も出るかもしれない。

 それを期待するしかないだろう。


 シーフクスの部屋に通されると、今日も青い顔したシーフクスは私を抱っこしているエディオンの足元に膝を折る。


「守護竜クレール様。本日はわたくしの部屋に足を運んでくださり、ありがとうございます。私めに御用があると伺っております」


 今日、シーフクスは王宮専属の医師による定期検診の日でそこに立ち会いたかったのだ。


「エディオンも付添の為に時間を取らせてしまったようですまないね」

「いえ、いつもお忙しいシーフクス様にお会い出来て嬉しく思っております」


 エディオンとシーフクスが楽しそうに挨拶していると、王宮専属の医師が到着したらしい。

 シーフクスは自分の寝室のベッドに横になる。

 王の息子と言うことで部屋数も大きさもエディオンとは雲泥の差だ。

 広い寝室に入り、医者がシーフクスを検診しているのを私はシーフクスのすぐ横でそれを見る。

 小型のメガホンのようなもので医者が心音を聞いたり、瞼の裏を見たりしてるけど、なによりびっくりしたのはシーフクスのやせ細った体だった。

 病弱なのだから当然なのだろうけど、細すぎる。

 ちょっと風邪をひいただけでも数日間寝込んでしまうって話を聞いていたけど、これじゃ納得出来てしまう。


 定期検診の結果、シーフクスは現状維持状態で安定しているとのこと。

 私はシーフクスの腕に触れ、自分の回復魔法をシーフクスに流してみた。

 最初私の力にシーフクスはびっくりしていたようだけど、されるがまま大人しくしている。

 彼は王と同じく、私に対し従順で誠実な態度を示す。

 私がこうしていられるのも、この国で一番地位のある王と次期王位第一継承者である彼が私に対し敬意を持って接するおかげなのだ。

 だから私もこうして回復魔法を使うのも、彼らの態度に対するお返しだと思っている。

 私の回復魔法がシーフクスにどれだけ影響を与えるかわからないが、少しでも元気になればアークス派の勢いを止めることができるかもしれない。

 そういう意味も十分あるけどね。

 回復も熟練度が関係するから出来る限り毎日シーフクスに魔法を流して、熟練度をあげるしかないだろう。

 私は魔法をかけた後、魔法をかけたことの口止め、食事管理の注意、普段の生活改善点などを、カタコトと覚えられた単語を繋げつつシーフクスの側近達に伝えた。

 シーフクスは才能的にも次期王に相応しい人物と言ってもいい。

 それにエディオンに対しても友好的だし、なんとしても彼を次期王の座に就かせたいと思っている。

 私は、エディオンの立場を守る限り、彼を見捨てることはしないと約束する言葉も添えてこの部屋を後にした。


 今この国での敵はアークス。

 彼を王にしたらエディオンの身が危うい。

 賢くない彼はコバエ達にいいように利用され、国を荒廃させることなんてあきらかだ。

 絶対にシーフクスを次の王に就かせるつもりだ。

 私はそのために、もっと王宮を動き回り情報を集めなければならない。

 まだ幼さが抜けない優しいエディオンを守る為に、そう決意するのだった。






 私の回復魔法は少しではあるが結果が出始めたらしく、寝込む回数が減ったとシーフクスが私に傅いた。

 魔法をかけてからの定期検診でも、弱々しかった脈が随分としっかりしてきたし、顔色も青白く今でも倒れそうだったのに、今は白いだけで青くはなくなっていた。

 そのおかげなのかシーフクスは今こうして私に忠誠を誓っている。

 

「守護竜クレール様に一生忠誠を誓います」


 傅くシーフクスの少し後ろでも側近や専属護衛とメイドが傅いている。


 私はラグの上で果物皿から赤い実の果物をしっかりと握りしめつつ、その忠誠にこくこくと頷く。

 王族達が私に忠誠を誓っている真面目な状況で、私は私の為の果物皿からこの赤い実を抱えているという情けない状況なのだけど、なんか、ドラゴンになってから、果物に執着してるんだよね。

 もらえる果物の中でもこの赤いアップルマンゴーのような果物が大好きで、これを見ると不思議としっかり握ったまま離せなくなるのだ。

 そういうのドラゴンの本能なのか、ちょっと恥ずかしい。

 短い指を器用に使って果物の皮を剥いて口にまるごと突っ込む。

 ドラゴンの口はよく開くので果物の1つくらい丸呑みできる。

 そうして次々と果物を口の中に押し込んで行く中、横でシーフクスが頭を垂れ傅いているので、私は魔法でペンを動かし、「わかった」「シーフクスは休む」と書いた。

 シーフクスは体弱いんだし、全員に傅かれながら果物を咀嚼するのってちょっとね?


「お心使い、ありがとうございます。では、座らせていただきますね」


 私の文字を読んだシーフクスは素直に立ち上がり、ソファに座った。


「メリク、クレール様にもっとアッセンテを」


 アッセンテは私の大好きな赤い実のアップルマンゴーみたいな味のする果物の事だ。

 この部屋に来ると必ず食べることに気づかれていたらしい。

 シーフクスの専属メイドのメリクが部屋を出ていく。

 厨房かどこかに取りに行くのだろう。

 戻って来るまでこの部屋から出られなくなってしまった。


 私はまたペンを取ると、紙に「何か」「情報」「ほしい」と書く。

 魔法で紙をシーフクス達に見えるように向ける。

 本人が優秀なだけあって側近もけっこう優秀なのだ。

 私の知らない情報はかなり持っているはず。

 待っている間、それを利用させてもらおうと思った。


「情報ですか……。どのような情報が必要でしょうか?」


 今集めているのはアークス関連と隣国の情報だ。

 何か隣国の動きがおかしいと王宮に来る商人達が話していたのを立ち聞きしたので気になっていた。

 隣国は「ブレイームズ国」と言う名前で、海と山に挟まれているアイビンエネスの山の向こうの国になる。

 あまり交流はないようだが、アークスと同じ年齢の王子が1人いるらしい。

 その王子の噂話はあまりいいものではなく、しかもアークスと少し交流があると耳に挟んだのだ。

 そういうのもちゃんと調べておきたい。


 私は「アークス」「貴族」「最近誰仲良し?」「隣の国の悪いお話」と書く。

 その文字に側近が最近アークスとどの貴族が交流あるのか書面で届けさせることと、隣国の話を色々教えてくれた。

 どうも、ここ1ヶ月その王子とアークスが親書のやり取りを頻繁にしているらしい。

 こちらでも、もっと情報を集めて報告してくれると約束してくれた。


 何かわからないけど、何か隣国の噂が最近頻繁に耳に入る事が気になる。

 その上アークスが絡んでいるとなるとすごく気になってしまう。

 コバエの入れ知恵でろくな事してないんじゃないだろうかと疑うのはちょっと軽率かな?

 それでも備えておくのは悪くないので、合わせて隣国の経済状況なども報告を送るように頼んだ。


 そしてアッセンテを編みに入れてもらって、部屋に戻ることにした。

 毎日シーフクスの所に行っているのに後で報告を回すということは、今日中に報告を見ることができると言うことだ。

 私はエディオンの執務室に向かうことにした。

 





「お帰り。ずいぶん果物を貰ってきたね」


 執務室に戻って来た私に、エディオンの笑顔が向けられる。

 机の端に降りると、エディオンが両手を私に向かって広げた。

 これは抱っこするという意味だ。

 私はポテポテと歩いて行き、エディオンの膝の上に降りると、しっかりと抱っこされ背中を擦られる。

 ドラゴンの背中には背びれのようなものがあり、それにぶつからないように撫でてくれて意外と気持ちいいのだ。


「シーフクス様のご様子はどうだった?」

「きゅ!」

「そっか、今日は体調が良いんだね。良かった」

「キュイ!!」


 ちなみに以心伝心できているわけじゃなくて、なんとなく通じているだけだ。

 あまりにも一緒にいる時間が長すぎて、エディオンの方が私の声の音や仕草から読み取れるようになってきている。


「そろそろ食事の時間だけど、その様子だとけっこう食べちゃったんでしょ? 食事食べられるの?」

「きゅ……」


 ぷっくりと膨らんだお腹を見てエディオンがため息をつく。

 うーんバレバレだ。


 エディオンと食事をするために私室に戻ると、すでにシーフクスから頼んだ報告が届いていた。

 それをエディオンに読み上げてもらう。

 エディオン達と情報共有することで、本人と周りの危機感を理解させる事と連携を取るためでもある。

 誰がアークスについているのか判れば動けることも多くなるし、その中で隣国の王子がアークスとコソコソしていることが判れば皆も集めてくる情報もピンポイントで集めやすくなるからだ。

 アークスがちゃんと自分の未熟さを自覚し、きちんと成長してくれればいいけど、ああゆうタイプはすでにコバエ達が集っている状況での変化は難しいだろう。

 煽てられ乗せられていると判断出来る知能があるのかすら怪しい。

 シーフクスと同じ教育を受けているはずなのだが、片方は継承者1位として自覚も覚悟もある。

 それが大きいのだ。

 周りに乗せられ努力もしない者に自覚も覚悟も生まれるはずはない。

 だから私はアークスを敵とみなしている。

 エディオンが王になりたいと望むなら自分の権限をフルに利用するけど、本人がシーフクスの王位を今は望んでいるのだから、私はその手伝いをするだけ。

 エディオン以外に自分の権限を発動させるつもりはない。

 ちゃんとシーフクス本人に努力を続けてもらうつもりだ。


 優しく微笑むこのかわいいエディオンを私は守りたい。

 その為にこの国でのエディオンの立場をしっかり確立させるつもりだ。

 なんか息子を持つ母親のような気持ちである。

 自分のエディオンが一番可愛いよね!

 

 私が9歳の時に生まれた子だけど、こっちの世界でのドラゴンの方が後に生まれた事になるけど、細かい話はどうでもいいのである。

 本当に可愛いって正義だと思う。


 にこにことしているエディオンを見て、私はこっそり左手を握りしめた。






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