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主食はビーフウエリントン

ヤマト、ガンダム、エヴァ――三大アニメと太平洋戦争の国民的トラウマ

 日本アニメの三大傑作は「宇宙戦艦ヤマト」、「機動戦士ガンダム」、「新世紀エヴァンゲリオン」とする評論を、ネットか雑誌で読んだ記憶があります。

 それぞれ70年代、80年代、90年代というように10年間隔で登場した大ヒットアニメで、これまでのアニメの常識を一新する画期的な作品として、放送当時(厳密にはその数年後)、マスコミから大絶賛されました。

 私は三つの作品ともほぼリアルタイムで鑑賞しましたが、いずれも第二次世界大戦、あるいは太平洋戦争に対する日本の国民的トラウマが、この三つの作品の共通したテーマであるように思えるのです。



1.ヤマトは特攻隊への鎮魂歌


 「宇宙戦艦ヤマト」は誰が見ても、戦前の日本軍をそのままSF化したドラマであることがわかります。

 漫画の原作者、松本零士氏は戦前生まれの戦中派(1938年出生)。アニメの制作スタッフのリーダーたちも松本氏に近い世代だと思います。

 彼らは戦争体験のトラウマを背負っているがゆえに、未来社会のSFドラマを作っても無意識のうちにトラウマが作品ににじみ出てしまうのです。

 ヤマト乗務員のうち、女性は森雪だけで残りは男性。彼らすべて日本人で、上官以外は苗字を呼び捨てで呼び合います。まさに戦前の日本軍の光景そのものです。

 映画「さらば宇宙戦艦ヤマト」のラストシーンでは主人公古代進が、神風特攻隊のようにヤマトで敵に体当たりして玉砕します。

 ヤマトはコテコテの反戦映画ではなく、またアニメ製作者たちが反戦のメッセージを意図的こめたわけではありませんが、彼らが無意識のうちに自らの戦争体験のトラウマを作品中に色濃く表現しており、私はヤマトを見て、戦前の軍国主義の日本には戻すべきでない、との思いを強くしました。

 ヤマトに出てくる特攻隊精神を持ったヒーローたちは勇ましく、カッコいいですが、どこが自虐的で哀愁に満ちています。ヤマトは反戦ドラマではありませんが、戦前の日本兵たちへの鎮魂歌になっているのです。



2.ガンダムはコテコテの反戦ドラマ


 これに対し、アニメ制作者が意図的に反戦メッセージを盛り込んだのが「機動戦士ガンダム」です。

 ホワイトベースの登場人物は名前から国籍が推定できます。

 ブライトはアメリカ人、セイラはイギリス人、ミライとハヤトは日本人、リュウ・ホセは南米と日本人の混血。カイ・シデンは中国人、フラウボウはドイツ人。

 そして主人公のアムロは安室、つまり日本人と言うより「沖縄人」です。

 アムロの母親は連邦軍基地で働いていますが、ホワイトベースが地球に到着するとアムロは母親と再会します。この連邦軍基地は沖縄の在日米軍基地のメタファーになっていることは明らかです。

 日本人であって本土の日本人とは違う「沖縄人」アムロ。彼を主人公にしたこと自身、アニメ制作者側の意図でしょう。国家のアイデンティティーとは何かを問う、作品のテーマに直結しているからです。


 アメリカ人ブライトはホワイトベースのリーダーで善玉に描かれますが、「親爺にさえ殴られたことのない」アムロを平手打ちにします。彼は本当に善玉なのでしょうか。

 一方、中国人カイは、意地悪な役に描かれますが、でも本当はいいやつかもしれない、という描かれ方をします。

 アメリカ人と中国人に対するイメージ。このへんにも、製作者側の意図を感じます。


 「機動戦士ガンダム」の続編「機動戦士Zガンダム」では、アムロのガールフレンドだったフラウボウとハヤトが結婚しています。

 アムロから彼女を奪うとはハヤトこそ最大の悪者ではないでしょうか。

 オタキング、岡田斗司夫氏によれば、ハヤトは薩摩隼人を表しており、一方、アムロは琉球人。ハヤトのフラウボウ略奪は、かつて薩摩藩が琉球王国から搾取したことのアナロジーだとのこと。

 しかし私はもっと単純にハヤトは本土の日本人で、沖縄人アムロからいろいろ搾取していることをアニメ制作者は表現しているのではないか、と考えます。


 ジオン公国はナチスドイツと旧ソ連を足して二で割ったような軍事国家です。

 普通、子供向けアニメならジオン公国が悪玉、連邦軍が善玉とはっきりさせるところですが、このアニメはどちらが本当に悪玉なのかわかりません。

 レヴィル将軍は、ホワイトベースに乗り合わせたアムロなど民間人を勝手に軍隊に編入させます。連邦軍は果たして善玉なのでしょうか。

 悪玉であるはずのジオン公国軍側でも、時には戦死したキャラクターたちを悲劇的に描きます。悪いのはジオン公国でなく、戦争行為そのものであるかのようなメッセージが伝わってきます。

 そして最終回のラストではジオン公国が負けるのではなく、両国で条約が締結されて戦争が終結します。つまり最後までどちらの国が善玉でどちらの国が悪玉なのかわかりません。

 ただし最終回をよく見るとホワイトベースのキャラクターに加え、アムロのライバル、シャアがニュータイプであることがわかります。シャアはもう一人の主人公のような重要キャラクター。

 地球連邦とジオン公国で善玉と悪玉にわけるのではなく、ニュータイプとそうでない人間で善玉と悪玉にわけるべき、というアニメ製作者側の意図なのでしょうか。

 ここでニュータイプとは新しい価値観に目覚めた人間、すなわち戦争の主体たる国家のアイデンディティーを越えた人間を象徴しているのかもしれません。



3.エヴァが描く「戦争を知らない子供たち」が背負う戦争トラウマ


 さて、最後は「新世紀エヴァンゲリオン」です。

 難解なアニメの走りで、ブーム時は解説書まで出版されました。政府の情報操作を扱った世界観もエヴァが最初のようです。

 シンジ、ミサト、アスカ、レイ。主要キャラクター全員が、エヴァに乗ってシトと戦う以前に、精神科や心療内科で治療してもらった方がいいような、何らかの心の病気を持っています。そして彼らたちのトラウマが、ロボットアクション以上にドラマ全体の主要なテーマになっています。


 自分の個人的な解釈ですが、この作品に出てくる”セカンドインパクト”は第二次世界大戦のアナロジーでしょう。

 敗戦のショックで、日本人は”お国のため”から、”会社のため”に、己の滅私奉公先を切り替え、50年代後半から70年代前半にかけて高度経済成長を実現しました。

 表面的には幸せでも、家族を犠牲にしてでもよく働くこの世代の日本人は、敗戦からある種のトラウマを背負っていたのです。彼らは、戦中派や団塊の世代でしょうか。

 一方、戦中派や団塊の世代の子供たちは、戦争を全く知らない世代。物質的な不自由は経験していないものの、社畜と化した非人間的な親に育てられたおかげで、間接的に”セカンドインパクト”のトラウマを背負い、ある種のアダルトチルドレンになってしまったのです。

 このアダルトチルドレン世代が大人になったのが90年代以降。トラウマの原因が分かりづらく、個々人でその症状が異なっているものの、”心の渇き”は”セカンドインパクト”を遠因とする世代的なもの。

 こうしたメッセージを作者が発しているように思えてなりません。


 フォークソング「戦争を知らない子供たち」が流行ったのが1970年。この歌で表現される「戦争を知らない子供たち」世代は、現在では還暦または古稀を迎えてるかもしれません。

 それはともかく、エヴァは反戦ドラマではありませんが、戦後世代が無意識のレベルで間接的に陥っているかもしれない戦争トラウマ、これを分析した心理ドラマだと思います。



                                    (了)


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