彼の名は〜息抜き短編集〜
「お前達は完全に包囲されている!おとなしく降参して出てきなさい!」
「人質を解放しろ!そうすれば罪は軽くなる!」
「うるせぇ!こっちにも考えがあるんだ!」
「お前達国家権力なんかに従うかよ!」
2135年。日本は貧富の差が激しく、一部の人間が贅沢をしそして沢山の人たちが苦しい生活を虐げられていた。犯罪の数は増加する一方で人々は日々怯えながら生活をしていた。
今日も都内某銀行で銀行強盗が発生していた。
犯人グループの要求は逃走経路の確保と車の用意。そして彼らは銀行にいた15人の人質をとり現在も銀行に立てこもっていた。しかし銀行受付嬢の素晴らしい判断で犯人に気づかれないように警察に連絡。すぐに駆け付けた警察が機動隊を要請し現場の周囲はすでに警察と機動隊で囲まれ、彼らは突入の機会を今か今かと待っていた。
犯人グループは拳銃を所持し興奮状態にあるためすぐに突入しては死者が出るかもしれない。そう考えた警察はまず彼らとの交渉を試みていたのだ。
事件発生から2時間。とうとう犯人グループの一人がしびれを切らし客の一人に拳銃を突き付ける。
「おら!さっさと車を用意しやがれ!あと5分以内に用意できなかったらこいつの頭を吹き飛ばすぞ!」
「ま、待て!早まるな!」
現場の緊張が一気に高まる。待機か、突入か。現場指揮官の判断は難しく、だが選択を迫られていた。
「るーるるー、るーるるー」
そんな時だった。どこからともなくあの歌が聞こえてきた。
「こ、この歌は!!」
「や、やっくんマンか!?」
警察や機動隊の皆がおなじみの歌声の元を探している。犯人グループは何が起きているのかわからずその声に呆然としていた。
「るーるるー、るーるるー」
「いたぞ!あそこだ!ビルの6階だ!」
銀行のあるビルの上、居住区になっているそのベランダに彼は立っていた。
「くそ!やっくんマンだと!?こんな時に!?」
犯人グループのリーダーはそう叫び頭を抱える。
「リーダー!?彼を知っているんですか!?」
「ああ、奴は俺たち犯罪者にとっての天敵だ」
犯人たちはどんな時でも冷静沈着なリーダーが真っ青な顔で立ちすくんでいるのを見て冷汗をかく。彼は一体何者なのだ、と。
「るーるるー、るーるるー。世界の平和と住民をこよなく愛する!愛するだけで何もしない!大事な物は自分自身!世界の平和を祈るだけ!やっくんマン!参上!」
「「「「は?」」」」
「平和愛」と書かれた白のTシャツにジーパンというなんともふざけた格好をしたやっくんマンから発せられた言葉に犯人グループのリーダー以外はあっけにとられる。
「ちょ、リーダー?あいつ何言ってんですか?」
「あれは恐らく罠だ。俺たちを油断させてその後制圧しようというやっくんマンの狙いがあるんだ」
「え、いや、そんな風には見えませんよ?今だにベランダからこちらを見下ろしてるだけですし」
「あいつに初めて会ったのは二年前、そう、今日みたいな天気のいい日だった」
「リーダー?何急に語りだしちゃってんですか?聞いてませんよ?」
「あの時の俺は今のお前達のように下っ端だった。その時も銀行強盗をしようとして奴が現れ、そして失敗したんだ」
犯罪グループの緊張が高まる。だがやっくんマンの歌は終わりではなかった。
「世界の平和は守らない!愛と勇気を抱くだけ!世界の秩序はどうでもいい!君の笑顔もどうでもいい!愛や希望より金を愛する!現実主義者なスーパーヒーロー!社会保険には入ってるか?労働基準法は守っているか?残業パワハラ勘弁してくれ!笑いを愛し自分を愛する!悪と犯罪は憎むだけ!自分で何とかしてください!やっくんマン!参上!」
るーるるー、とやっくんマンの歌が街に鳴り響く。意外といい声しているところがなんか腹立つが皆がやっくんマンを見つめ何となく目をそらせないでいる。
「ね、ねぇリーダー。なんか腹立つからあいつ撃っちゃいません?」
「ば、馬鹿野郎!そんな事より……あ!?クソ!?」
「え?あ、マジかよ!」
犯人グループ皆がやっくんマンに気をとられている隙に機動隊が突入、怪我人を出さずに全員確保事件は無事解決した。
「クソ!?リーダーの男がいないぞ!?」
だがリーダー格の男だけはいち早く機動隊が静かに突入していることに気が付き逃げてしまった。だが今回の事件は警察の大勝利と言ってもいい結果となった。
「あれ?そう言えばやっくんマンは?」
ふと警察官がやっくんマンにお礼を言おうとし顔をあげるとすでにそこには彼はいなかった。
「ふ、彼はいつだって皆の心の中にいるのさ。さあ、さっさと現場をかたずけて家族に会いに帰ろうぜ」
「そうっすね!……やっくんマンありがとう」
警察官はそんな会話をしながら現場処理を行った。
「クソ……なんで、奴さえ現れなかったら全てうまくいっていたのに」
一方銀行近くの路地裏に逃げ込んだ犯人グループリーダーは先ほどの出来事を反省しながら次につなげようと逃走をしていた。そんな時だった。どこからともなくあの歌が聞こえてくる。
「るーるるー、るーるるー」
「う、嘘だろ?何故この逃走経路が分かった?」
男の目の前にゆっくりとやっくんマンが歩いてい来る。
「ろ、止まれ!止まらんと撃つぞ!」
男はやっくんマンに向かって銃を構える。するとやっくんマンは素直に立ち止まり、そして歌を止める。
「まぁ待ちなさい。とりあえず銃を撃つことはお勧めしないぞ?そんな事をすれば大変なことが起きる」
「た、大変な事だって?何だよ、大変な事って」
「それは勿論。私が死ぬ」
「お前が死ぬんかい!?」
男は思わずツッコんでしまったがそりゃ銃で撃たれれば人間死ぬものだ。
「だがお前が死ぬならそれでいい。お前には二度も邪魔されたからな」
「ほう?私には覚えがないが?」
「ふざけるな!まぁいい!死ね!」
耳を塞ぎたくなるような破裂音が路地裏に響くと、ゆっくりと男は倒れる。
「だから撃つなと言ったのに……」
そう言い残すとやっくんマンはどこかへ静かに消えていく。それを見ていた警察官が数人いたが皆驚き口を開け立ちすくんでいた。調べると男の銃の玉は不発、暴発し男はその衝撃と音で気を失っているだけだった。
やっくんマンが登場すると事件は何故か解決する。銃は不発になったり犯人が突然気を失ったりと不可解なことが続いていた。いつしか警察はやっくんマンを謎のヒーローをいう認識をしていたのだ。
「ふう、今日も事件解決してよかった」
「お疲れじゃのう。しっかり休むがよい。すぐに次の事件の為に走り回らなければならなくなるからの」
「うん。そうさせてもらうよ」
とある地下室で沢山のカプセルの一つにやっくんマンは入ると目を瞑る。
「さて、事件の発生のようじゃ。やっくんマン起きなさい」
先ほどカプセルに入ったやっくんマンの隣のカプセルが開くとそこには先ほどと全く同じ姿をしたやっくんマンが目を覚ます。
「事件?」
「ああ、そのようじゃ行けるか?」
「勿論」
そう言うとやっくんマンは地下室の階段を上がっていく。
そしてその日もやっくんマンの登場によって事件は解決していく。
彼はいったい何者なのだろう。
地下室に並ぶやっくんマンの大群は何なのか。
その答えを知る者はいるのだろうか……。
いや、いないだろう。
作者でさえこの物語はよく分からずに書いているのだから……。
兎に角私が伝えたかった事は、やっくんマンは君の心の中にいるという事だけさ。
意味不明ですみません。
しばらくしたらこの作品は消します。