18話 大爆発は一度だけで・・・・
領主館のある方向から黒煙が上がっていた、あと何か積乱雲の様な雲も見えた。
確か理科の授業で強力な熱エネルギー、つまり核や大量の火薬や爆弾とかが爆発したら出来る雲で、火山も噴火すると噴煙が同じ様になるらしい………バウマン、死んだかもしれないね。
逮捕、するんじゃなかったけ……あれ、というかあれだけの爆発なら領主館前の橋を封鎖している警邏官と自警団の人達は!?女将さんも知らなかったみたいで、開いた口が塞がらない程、驚いて呆然としている。
もしかしたら大怪我をしているかも!ボクは包帯や薬が入っている鞄を抱えられるだけ抱えて走る、兎に角、無事を確認しないといけない!
領主館に近付くにつれて気付いたけど、あちらこちらで窓ガラスが割れている!やばい、これだと怪我では済まない。
ボクは足に魔力を集中させて全速力で向かう。
出来る事は無くても医薬品だけは届ける事が出来るし大人一人くらい問題なく担いで走れる、メイド道の修練は一日だって怠っていない!
灯台を過ぎて領主館が見えた。
もくもくと黒煙を上げて燃えている。
橋の前は―――良かった……敵の本拠地の前だからという理由で厳重にバリケードを敷いていたから、爆風で転倒して怪我をしている人はいたけどそれだけだった。
本当に良かった。
ボクは医薬品が入った鞄を自警団の人に渡そうと近付くと今度は後ろの方から幾つもの爆音が響いて来たんだけど!何、今度は何!?もしかしてこの爆発を見た私兵団が動いたのかも!ボクは鞄を渡すと自警団の人達の静止を振り切って家に急行する。
「皆、無事でいてください!!」
♦♦♦♦
息を切らせてお店の前に到着したボクは目の前の光景を見て呆然とした。
アストルフォが美味しそうに山盛りのご飯を食べていた。
……さっきの、爆発は、一体何だったんだろう?
「お帰りなさいマリア、ちょうどアストルフォちゃんも帰って来た所よ」
お母さんは笑いながらアストルフォのお代わりを用意する、たぶん飲まず食わずで休む事無く飛び続けてくれたみたいだ、そうじゃなかったらこんなに早く戻ってこれない。
だけど!その前に!あの爆発!!
「それとマリア、さっきの爆発はお外で迫撃砲の砲弾が着弾しただけよ」
「クエ!」
「成程、そうだったんですね」
なんだ迫撃砲の……迫撃砲?迫撃砲!?
「お母さん!迫撃砲って、それ一大事ですよね!?」
「ええ、一大事ね。陸軍の大将さんが来てくださったみたいだから、おもてなしの準備をしないといけないわね」
「陸軍の大将さんが!」
「ええ、それも自動車化とか機械化した連隊なんですって」
「それは……そうじゃなくて!外で迫撃が自動車で連隊って!え?どういう事ですか!?」
「落ち着いてマリア、はい深呼吸」
お母さんに言われてボクは深呼吸をした。
すーはー、よし落ち着いた。
つまり早くても明日に来る筈だった救援が到着して街を包囲しているバウマンの私兵団を攻撃している、さっきの連続して聞こえて来た爆音は迫撃砲の砲弾が着弾して爆発した音だった。
だけどそれでも何でお母さんはこんなに暢気に構えているんだろう?
確かにお腹を空かせているアストルフォにご飯を食べさせるのは大切だけど、そう言えばお母さんは元士官候補生だった、こういう時の心構えはしっかりとしているのを忘れていた。
それにボクはボクで慌て過ぎだ。
落ち着いてお母さんや女将さんの様にどっしりと構えよう。
うん、それなら疲れているアストルフォを労う為に羽繕いと毛繕いをしてあげよう。
外から聞こえて来る銃撃音や爆発音は聞こえない、聞こえない。
さっきから傷だらけで朝食の鶏とひよこ豆のトマトスープと備蓄されていた固焼きパンを不機嫌そうに食べている司祭様がいても気にしない。
「マリア!気付いているのだろ!何か私にも労いの言葉をくれ!」
こんなんだから街に住む女性から胡散臭いと言われてしまうのだと思う。
いや、それよりも何で傷だらけなんだろう?擦り剝いた傷が多いし気の細い枝が服に付いているし、何をしたんだろう?
ボクがそう思っているとアストルフォがボクをじっと見つめて来る。
何だろう?と思っているとその理由が分かった。
そう言えば今のアストルフォは超大型犬並みの大きさだ。
乗せられなくても司祭様を前足で掴んだ状態なら飛べる筈だ。
つまり司祭様がボロボロなのは―――。
「やっとか!やっと気づいたのか!そしてどうしてこうなった!何で私は半日もの間、宙吊りで運ばれねばならなかったのだ!!」
「ごめんなさい司祭様、司祭様の不在時に色々と事件が起こってしまっていて、それでアストルフォが急いで連れて帰ろうとしてくれたみたいで……」
ボクが済まなさそうに言うと渋々だけど司祭様は納得してくれた。
「それで何があったんだ?」
「外神委員会から襲撃を受けました」
「はあああ!?」
司祭様は驚きのあまり大声を上げながらボクに詰め寄り、それと同時にボクの顔の左側が包帯で覆われている事に気が付いて驚き呆然とする。
ボクは司祭様を椅子に座らせて何があったのか説明する。
説明を聞き終わると司祭様は自分の顔を手で覆って空を仰ぎ見る。
周りに人はいないね……良かった、慣れていない人だったら今の司祭様が僅かに漏らしてしまった殺気で失神していた所だ、正直に言ってボクも危うく忘れたい事が再びだった。
「まさか、無貌が潜伏していたとはな……それに成り損ないが普通に教師をしていたとは、完全に私の判断ミスだ、すまないマリア……」
「司祭様……」
司祭様はボクに深く頭を下げる。
この人が素直に自分の過ちを認めるなんて、明日は槍でも降るんだろうか?
「マリア?何かとても失礼な事を考えていないか?」
「いえ、全く、これっぽちも」
「なら何で私から顔を逸らす?まあ、いい、それよりそろそろ准将閣下が勝利の凱旋をするぞ」
司祭様はそれだけ言うと立ち上がって門の方へと向かって歩いて行った。
外からはもう銃撃音も爆発音も聞こえてこない、どうやら全て終わったみたいだ。
ボクは肩から力を抜いてアストルフォの羽繕いと毛繕いを始める。




