14話 モンタークは平静を装う
「マリアを宿舎のベットに寝かせて来ます」
「わかりました。リーリエ、一緒について行ってください」
「あいよ、姉さん」
マリアは癖である分かっている事などをノートに書き情報を整理し推理する作業が終わらせると、そのまま眠りについてしまいました。
若干、知恵熱も出ていた様です。
気丈に振舞っていますがやはり顔の左側に負った火傷と謎の魔力の枯渇は私達が思っていた以上に酷かったようです、あの子は苦し時にこそ歯を食いしばって逆に笑って何とも無さそうに振舞う、分かっていてもどうしても見逃してしまう。
あの子が過ごした生前の日々を知っていてもやはり完全に理解している訳でない、今日はその事を痛感しました。
「……」
「どうしましたか?リンドブルム令嬢、それともバウマン子爵婦人」
「リンドブルム令嬢もバウマン子爵婦人もお断り、昔と同じ様にシャーリーかシャーロットでお願い」
「分かりました。それでは取り合えずシャーロット様、マリアのノートを凝視してどうしたのですか?」
先程からマリアが分かっている事柄、つまり情報を整理して纏めたノートをシャーロット様は食い入る様に見ている、あの子は感情より理性を優先する気質からか何事においても整理し精査する時間を必ず取ります。
無暗に前に進む事を嫌っているのか、それとも勉強好きな気質からなのか。
それでも纏められている事はとても重要な事ばかりです。
セーシャルと名乗った外神委員会に所属する怪人、その者が廻者である事とその理由について事細かく書かれています、それにバウマンとの深い繋がりとマリアが聞いたセーシャルの物言いから既にセーシャルはアーカムを脱している可能性、他にもグリンダ嬢の正体は少なくともセーシャルに知られている事など詳細が書かれています。
他にも色々と可能性として、ほんの僅かですが起こり得る事の予想までも。
7歳の少女がこんな軍の参謀さながらの分析能力を持っている、何も知らないシャーロット様には驚天動地というモノでしょう……どうやら違ったみたいですね。
「さすがはお姉様の娘ね、廻者だけでも驚きなのに可愛くてさらに頭も良くて、そして可愛い……これはもう愛でるしかないわね」
事情を既に把握されているみたいですね。
……またあの男が後ろに居そうです。
本当にいい加減にマリアから離れて欲しいですね、私を弄んだだけで飽き足らず今度は幼い少女にまでその毒牙に掛けようとする、もう処分しますか。
私はベルの様に軍歴を持たない普通のメイドです。
本来なら戦闘技術を学ぶのは初段から上になってから、ベルの様に本格的な戦闘技術を学ぶのは4段になってから、私の様に戦闘以外を専門とするメイドはどこまで上がっても3段まで、つまり私は戦いに関する全般を苦手としています。
ただしそれでも暗殺術に関しては今は落ちぶれた実家の伝統でそれなりに使えます。
次に会った時に始末しますか……。
「おーいモンタークさん、お願いだからそっちの世界に行かなでね。こっちに帰って来てね、話はまだ終わってないから」
これは失態ですね、最近は少し暴走気味なので自重を心掛けなといけません。
「それで話とは?」
「地下に集積している物資、主に銃火器は新式?」
「いえ、旧式も旧式、中には試作品もありますが小銃は単発ですが金属薬莢の後装式です」
「それは重畳、あっちの私兵団は前装式で火縄、おまけに銃身にライフリングされてない超旧式で紙薬莢も知らないお馬鹿の集まりよ」
困りましたね、少しは落ち着きが出来たと思っていましたがどうやら生来の本能と思考と行動が直結している所は変わらない様です、すぐに相手を見縊る悪癖は今も健在とはこれはギース様には体を張ってもらう必要がありますね。
あとララは、まだ帰っていない様です。
マリアが傷つけられた事で頭に血が上り昔に立ち戻ってしまった様で、今は自分を落ち着かせる為に灯台に上って狙撃銃を構えています。
明日の朝に予定通りバウマンの私兵団が来たら一人残さず眉間を撃ち抜きそうですね。
ララ・フゥベー、ソルフィア王国陸軍が誇る個人で最も多くの狙撃を行った兵士にして史上最も遠くの標的を撃ち抜いた凄腕の狙撃手、彼女は今まで一度たりとも目標を撃ち損じた事が無い。
何よりその魔眼から逃れられた者は誰一人としていない。
他の者達も平静を装っていますが内心では怒り狂っています。
さて、明日に備えて今日中にここを改装しなければなりません。
臨時の野戦病院として。
♦♦♦♦
思っていたよりも早く臨時の野戦病院の開設が出来ました。
明朝までかかると思っていましたが今は深夜2時なので3時間から4時間は眠る事が出来そうです、ララは…まだ帰っていませんね。
お店の方は完全に処置室として使う為に余計な家具などはバリケードに追加して、ギルガメッシュ商会に運び込んでもらっていた医薬品は2階と宿舎の一階に移動して中庭にはテントを張って宿舎の一階は病室に、元から緊急時に野戦病院とする予定だったので滞りなく終わりました。
……これならやはり、ベルが立てた予定通りにベティーとマリアを王都か信用のおける人物に預けておくべき出した。
敵地とは言え淑女の酒宴には腕利きのメイドが揃い不本意ながらレオニダスと言う王国屈指の異端審問官であり拷問官がいるのだから、どこよりも安全だと私は過信していました。
蓋を開ければマリアは二度も殺されかけ、今は顔の左側に重度の火傷を負う結果となりました、そして今はこれから始まる争いに巻き込まれる。
自分の不甲斐無さが憎い。
そして、グリンダから聞いたあの事は全てが終わるまで私の胸の内に閉まっておきましょう。
『突然、マリアの肌がベティーさんみたいに褐色になって、そしたら……部屋一面が氷の世界になって、でも飛んで来た火の玉から私を庇って……』
マリアにはまだ私達もそして本人すらも知らない秘密があるようです。




