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Re:Maria Rose  作者: 以星 大悟(旧・咖喱家 )
第3章 這い寄る様に始まるセイラム事変
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6話 本性

 あの一件以来、エマは何かとお菓子を催促する様になって満面の笑みでお菓子を食べるエマを見て、今までボクを奇異な目で見ていた生徒達も少しずつボクが普通の子供だと理解してくれるようになった。

 そしてあの時、ボクを糾弾した女の子はあれから姿を現していない。

 何人かの子に聞いてみたら、どうやらボクに関する悪い噂を吹聴して回っていたのはあの女の子だった、だけど誰もその女の子に関して詳しい事は知らないらしい。

 気付いたらいる、もしくはいた、それがボク以外の共通認識だ。


 エマも最初に会った時にボクをゴブリンだと言ったのはあの女の子が「君のお母さんがそう言っていた」と言われて鵜呑みしたらしいのだ。

 エマはあの時の最初に出会った頃を振り返って、自分は変だったと言っている。

 ボクと友達になりたいと思っているのに嫌がらせをする事しか思いつかなかった、それも件の女の事出会った後からそうなったと、エマは苦しそうに言っていた。


 その言葉を聞いて、ボクはとても腹が立った。

 許せないと思った。


「おい、何そんなに悩んでるんだ?」

「いえ、ちょっと気になる事が多過ぎて考え事を、それよりも賑やかですね」

「まあな、再来週だろ?新しい領主様が来るのは?」

「領主様じゃなくて領主代行です、噂だとセイラム領自体を廃領するらしいですよ」


 隣を歩くエマとボクは話しながら大通りを歩いている。

 行き交う大人達は誰も彼も明るい顔で、それでも忘れていたら急に『再来週に領主代行が行くから』と通達が来て、何の準備もしていなかったから今は必死に準備が進められている。


 そんな状況でも本来なら既に領主館から出て行っていないといけないバウマンがまだ領主館を占拠していて、自警団の人達が再集結して領主館の前でバウマンの私兵団と睨み合いをしている。

 まあ、その件を除くと準備は順調だとグスタフさんは言っていた。

 で、子供は本来なら家の手伝いで学校は休校になる筈だけど何かと喚いて五月蠅いカリム先生が『子供の教育の機会を奪うとは言語道断、通わせるべきです』と猛抗議した事で希望する生徒だけ登校する事になった。

 子供の教育の機会を奪う、とは恐ろしく見当違いな事を言った物だと思う。

 純粋に危ないのだ。


 学校に行くまでの道のりは必ず灯台前を通らないと行けないのだけど、公園では演説が行われる予定で、その付近では頻繁に馬車が行き交い重い木材とか下ろしてそして組み立てたりしている。

 本当に危ない、さっきから走り回る大人達に子供がぶつかりそうになっている。

 隣を歩くエマもさっき木材を持った大人が飛び出してきて、ぶつかりそうになった。

 咄嗟にボクがお姫様抱っこで華麗に避けて見せたけど、本当に危ない。

 そうしてやっとの思いで教室に到着すると、どうやら殆どの生徒が登校していないみたいだ。


 教室にいるのは4人だけだった、隣のクラスはさっき来る時に見たけど誰も来ていたなかった。

 ただ奇異な事にカリム先生が居た。

 いや居ただけなら別に問題は無かったけど黒板に書かれている文字にボクはとても見覚えがあった。


 それは術式だった。

 術式とはボク達が魔法を行使る時に無意識の内に世界に刻んでいる複雑な式を文字として現した物だけど、それはとても複雑で専門にならった国家資格を持った者にしか扱えない物だと前に謎の術式が刻まれている事件でロドさんがボクに教えてくれた。

 そして術式はその式でどんな魔法が発動するのか正確に理解していないと、どんなに術式を真似をしても術式にならず、ただの意味不明な模様にしか見えない、だから魔法が使える様になった者はどんな魔法なのかは理解出来なくても、それが術式か否か判断が出来る様になる。


 ロドさんの言った通り、ボクにはカリム先生が書いている物が術式に見えた。

 そしてその術式は学校の四隅に刻まれていた外神委員会の術式と同じだった。


「カリム先生、何をされているんですか?」


 ボクがそう呼び掛けてもカリム先生は振り向く事なく一心不乱に術式を刻んでいた。


「マリア?」


 エマが不安そうな声でボクに話し掛けて来たけど、どうしようたぶん、とても危ない状況だ。


「エマ、ゆっくりと他の生徒と一緒に教室から逃げてください」

「な?どうい―――」


 大声を出しそうになったエマの口を押えてボクは小さな声でエマに指示を出す。


「説明している暇はありません、兎に角、大急ぎでお願いします」


 ボクの言葉に尋常じゃない雰囲気を悟ったエマはゆっくりとカリム先生に気付かれない様に生徒達に教室から出る様に言いに行ってくれた。

 そしてボクは太腿に巻き付ているポーチからナイフを取り出して、何かあればすぐにカリム先生を牽制できる様に構える。


「ルシオさん、何ですかそれは?危険ですよ、危ないですよ、先生に向ける物ではありませんよ、そして末席とは言えラシードに一杯食わせたのは偶然ではない様ですね」


 術式を刻む手を止めて振り返ったカリム先生の顔はあの日、ボクを襲った黒衣の男と同じ醜い化け物の様だった。


「やっぱり、あの男の仲間たっだんですね」

「そうです、しかし驚きました…何時気付いた、小娘」

「さあボクも何となくでしたし、何となく雰囲気が似ていると思っていただけだったので……」


 ボクは左の袖からナイフを取り出して握る、そして魔法で体を強化してすぐに飛び出せる様に構える。

 後ろではカリム先生の豹変に怯える生徒を必死に逃がそうとエマが奮闘してくれている。

 時間はボクが稼がないと!


「そうですか、そうですか、そうですか、そーでーすーかー」


 顔が醜く変化したと思ったら今度は肌の色がどんどん青白くなっていく。

 そして手首の辺りに何か穴の様な物が出来ている。


「カリム先生、いえカリムは何が目的ですか?」

「目的、そうですね取り合えず暴発して欲しいのです。それがバウマン卿の望みです」


 暴発?何が暴発するっていうんだ。

 そもそもここは―――ここは、学校だ!しまった、クソ!?そう言う事か!


「おやおやおや、おぉぉおおやあ?理解されたみたいですね、そうです自警団です!子供が襲われたのなれば自警団が武装蜂起します、そしてその大義名分を振りかざしてバウマン卿が暴動を華麗に私兵団で鎮圧してしまう。という目論見です、そしてこれ―――」


 馬鹿だ、と正直に思った。


 目の前に術式があって、その解除の仕方も教わっているから普通に発動する前に壊す事が出来る。

 例えば術式が刻まれた黒板に机を蹴り飛ばして壊すとかすれば、発動なんてしない。

 ああ、本当にあの馬鹿な変態黒男の仲間みたいだ、どうやらラシードと言うらしい。

 前日に仕込むかボクが来る前に終わらせるかしておけば、それ以前にこんなに堂々とせずに鼠の様に怯えながらしていれば気付かれずに事を成せていた。

 本当に馬鹿な男だ。


「マ…マリア?」

「エマ、逃げてください。正直に言いますと、周りに気を使える自信がありません。ボクは今、たぶん、人生で初めて……本気で怒り狂っていますので!!」

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