30話 ボクが君に出来ること
「よっ!マリア」
「いらっしゃいアレックス、それにグスタフさん」
「ふむ、今日もいつものを」
「はい分かりました、アレックスは今日は何にする?」
「それじゃあ…そうだこのチーズハムカツとバターロール」
「分かった、副女将さん!チーズハムカツ1つ入りました」
グスタフさんの何時もの、それはビールにメイド風ピクルとギョーザだ。
アレックスは何時も来てくれる様になったけど決まったメニューは頼まずに何時も目についた物を選んで頼んでいるけど必ずギョーザは頼む。
あと、最初は少し硬かった喋り方も近頃はとても砕けた年相応の少年に喋り方になった。
「それにしても、ハムカツやトンカツもそーだけど何でこんなにザクっとした歯ごたえなんだ?トンカツに似てるシュニッツェルはこんな歯ごたえじゃねーのに」
当然の疑問だ、なんせ淑女の酒宴で提供している揚げ物は基本的に街で一軒しかないパン屋さんが毎日作ってくれる生パン粉を使っているから、一般的なきめの細かいパン粉じゃなくて日本式の肌理の粗い、しかも生のパン粉だから歯ごたえはもとより見た目も普通のパン粉で揚げるよりボリューム感があるのだ。
最初は副女将さんとリーリエさんが勝手にパン屋さんに話を持ち掛けてしまって、肌理が小さ過ぎて食感やボリューム感が足りなかったという問題があったけど、今ではしっかりと日本式のパン粉を再現して後それがバターロールの誕生に繋がって気付いたらアーカムの食堂ではバターロールと生パン粉は欠かせない物になっているのだ。
と、ボクが自画自賛をしていたらどうしてだろう?アレックスが俯ている。
「どうしたですか、そんな暗い顔をして」
「あ、その…実はさあ、そろそろ帰らないと行けないんだ」
「そう、なんだ……」
もうすぐ梅雨が本格的に始まる、そうしたら街道はあっと言う間に水浸しになってしまう、そうなったら街道に張られている魔物除けの結界が弱まるから、その前に帰らないと危ない。
そうだよね、アレックスは王都に住んでいるから何時までもアーカムにいる訳じゃないんだ。
ボクは、昔の事とはいえ一度は殺されかけた。
だから基本的に外で遊ぶことは殆どない、お母さんと一緒に買い物に行く事はあっても歳の近い子供と一緒に遊ぶ事は無くて、そう言えば歳の近い友達はアレックスに出会うまで一人もいなかった。
だからとても寂しく感じてしまう。
「何時、帰るんですか?お見送りとかしたいですから」
「天気次第だけど、その、いつ帰るかは言えないんだ。本当にごめん……」
アレックスの顔は暗い、そう言えばアレックスは時々こういう風な暗い顔になる。
とても辛そうな顔をして、でもすぐに笑って誤魔化して…ううん、このままだと後味が悪い。
ボクがアレックスにしてあげられることは……うん、料理だけだ。
チーズハムカツとパンだけだと夕飯には足りないし、それにまた来たくなる料理を作ろう、アレックスのご両親も興味を抱いて来るかもしれない。
「アレックス、実は今試作中の料理があるんですが味見をお願いしても良いですか?」
「味見?俺が?」
「はい、お願いします」
「俺でいいなら」
よし、それじゃあ作ろう。
と言っても揚げ物だからボクが作る訳じゃないけど仕込みとか上から掛けるソースとかはボクが作る。
作るのはカラアゲ、フライドチキン、タツタ揚げに続く鶏肉を揚げて作る料理の代表格、讃岐うどんを提供するお店では定番中の定番、そう鶏天である。
鶏肉はもう仕込んであって、醤油・味醂・生姜などを入れた漬けダレに漬けてある。
なので準備するのは鶏天で一番大切な衣だ。
ボクが生前、毎度同じく某国営放送で和食の特集がされた時に見たレシピで作る。
まずは卵水を作る、卵水は全卵一つに黄卵三つ、それと水を900mlを入れてかき混ぜて作る、この卵水をふるった薄力粉に流し入れて軽く混ぜる。
だまが残っていも気にせず下手に混ぜ過ぎると美味しいサクッとした食感の衣が出来ないから、本当に気にせずそのまま行く。
後は副女将さんの仕事だからボクはその間にタルタルソースの準備をする。
茹で卵、メイド風じゃない普通の胡瓜のピクルス、そして玉葱をみじん切りにする。
それにマヨネーズ、塩・胡椒・粉辛子を加えて混ぜると完成だ。
あと試作していた天タレ、これは醤油・味醂・砂糖・鮎だしをトロミが出るまで煮詰める事で出来る、難しい手順が無いから簡単に出来る。
鶏天が揚がったら千切りのキャベツを乗せたお皿に乗せてタルタルソースを添えて完成だ、それとバターロールも追加で置いておく。
「はいアレックス、これはトリテンという試作中のカラアゲです、サービスなので気にせず食べてください」
「そうか、それじゃあお言葉に甘えて――これは、変わった食感だけど何も付けないとカラアゲと味が変わらないな、それに少し味も薄い……」
まずは一口何も付けずに、アレックスって何だろうな、何と言うか食べ方が批評家みたいだ。
初めてお店に来た時もこんな感じに食べていた、つまりアレックスは商家の息子かもしれない、だから王都には無い料理を舌でしっかりと記憶して持ち帰ろうとしているのかもしれない。
まあ、だからと言ってボクは何かするつもりは無いけどね。
美味しい料理は広く知れ渡って欲しいからどんどん味を持って帰ってもらおう。
「では、このソースを掛けてみてください」
「おう、これは…甘辛い味だな、とすると――旨い!トリテンと良く合う!ならこっちのタルタルソースも一緒にすると――これは病み付きになる味だ!!そうか、この為に少し薄味にしていたのか!」
どうやらアレックスは鶏天を気に入ってくれたみたいだ。
それにとても良い笑顔だ、さっきまで暗い顔をしていたけどとても幸せそうだ。
でもきっとまた暗い顔をする、辛そうな顔になると思う。
なら友達としてボクが出来る事は、するべきなのは―――。
「アレックス、また食べに来てよ」
「え?」
「辛くなったり、苦しくなったら、そしたらボクの料理で笑顔にしてあげます」
「あ、ありがとう、うん…また来るよ」
ボクが笑ってそう言うとアレックスは恥ずかしそうに顔を赤くする。
何でだろう?まあ、いいかな。
大切な友達が笑顔になったのならそれでいい。




