24話 箱の中身
ギルガメッシュ商会の人達は後日、謝罪に来ると言っていたけどあそこまでお母さんや女将さん達を怒らせ、目の前で自分の上司が半殺しにされている所を見たら、恐ろしくて来ないだろうとボクは思っていた。
それと置いて行った荷物だけど結局、女将さんは縁起が悪いから「詫びに来た時に持って帰らせる」と言ってお店の隅に置いてしまい中身は確認していない。
だけどボクは中身がとても気になるから、目の前で震えながら椅子に座っている人に後で聞いてみよう。
そう本当に謝罪に来たのだ、勇気があるのか、それともただの蛮勇なのか流石に店主は連れて来ていないけど、あの時に代表して謝罪をしていた副店主のフランシスさんは震えながら、でもしっかりと女将さんの目を見て謝罪を始める。
「先日は本当に申し訳ありませんでした、店主は今回の事を含めて本部から召還にされてしまい、不在なので代わりに私が―――」
「御託はいいよ、で、何が目的さね」
「いえ謝罪です、その、私もたぶん…黙認しましたので近い内に逮捕されるのでその前に謝罪だけでもと」
「あん?逮捕だあ、何したんだい?」
女将さんに聞かれてフランシスさんは真っ青な顔で苦笑いを浮かべる。
逮捕される様な事、不正な決済か食品表示法に違反したとか?そう言えばここは国境が比較的に近いから密輸とかかな。
「実は、領主様と癒着していたのです店主は、それでマリアローズ様の才能を聞いた店主は、彼女を領主様に差し出そうと画策して……」
あ、この場にいる全員が殺気立ってる。
お母さんに対する仕打ちを知っていれば誰だってそうなる、だってボクも少し殺気立ってる。
「ただ私に関しては従業員を一人、その謀殺した事件を黙っていたので共犯として間違いなく逮捕されます。今回の店主に対する査問はそれも目的ですから、言い訳になりますがマリアローズ様の件は当日、従業員を謀殺された件は時間が経った後に知りました」
「そうかい、それでも罪の意識があるからこの後に自首するって腹かい?」
「……はい」
フランシスさんの顔はさっきまで怯えて真っ青だったのに、覚悟を決めた男の顔に変わっていた。ボッシュさんもといいボッシュさえいなければ、この人は日々を真面目に懸命に生きる善良な人だった筈なのに、許せないな……。
「覚悟は決まってるみたいだね、止はしないけど死んで責任を取るなんてするんじゃないよ、死んで償える事はあるけどね生きてこそ出来る償いもあるんだ」
「……はい」
「それとあれの中身は何だい?危なっかしくてそのまんまにしてるさね」
女将さんはお店の隅に置かれている木箱を指さす、そう言えばあの木箱の中身は結局何だったんだろう。
持った時に感覚からして相当な重量があった、それと置いた時に瓶同士がぶつかる音もした、火炎瓶?な訳ないよねするとお酒の類かお店で醤油を大量に使う様になったから、他の支店で売れ残っている醤油かな。
「ああ、あれはミリンという調味料です。東部の隠れ里で作られているお酒で甘いのですが癖がありまして、王都で売れずに各地をたらい回しにされて内に来たんです」
え、ミリン?ミリンと言いました?味醂なんですか?つまり味醂なんだ。
「それで醤油を定期的に購入されているこちらに押し付けろと店主が言い出しまして、ただ味に関しては本当に美味しですよ?私も味見をしてみたんですが、独特な甘さがあって―――」
「女将さん!味醂ですよ!ついに味醂です!!」
「お、おう、ああうん、ちょっと落ち着け」
「はい、ですが味醂です!!」
ボクは我慢が出来なくなってフランシスさんの言葉を遮り女将さんに箱を開けて中身を確認しても良いか尋ねる、女将さんは呆れつつ開けても良いと言ってくれたのでボクは勢いをそのままに急いで木箱を無理矢理こじ開けるとそれはあった。
醤油と同じ様にワインのボトルに詰められたその液体は黄色だった、揺らして確認すると少しとろみのある液体、間違いなく味醂だ。
「どうしたんですが彼女は?あんなに興奮して」
「まあ、細かい事情は話せないけど時々あーなるんだ。普段は聡明な子なんだけどね、一度でも興奮すると止まらないんだよ」
ボクは味醂を持って厨房に走る、コルクを抜いて本当に味醂なのか確認しなければ!
コルク抜きでボトルにはめられているコルクを抜くと懐かしいあの匂いがして来た、しかもこの匂いは、特売でもお馴染みの大手の酒造メーカーが作っている醸造アルコールで作っている味醂じゃない!
700ml一瓶で安価な味醂が2,3本は買える本格的な味醂の匂いだ。
ボクは小皿に味醂を少し出して指の先に少し付けて舐めてみる、深く濃厚な甘みと旨みが広がり確信する、間違いない味醂だ!それにこの溢れる旨味は高くて滅多に買えなかった伝統製法で作られた味醂と同じだ。
これならカラアゲやギョーザを今よりも美味しくできる、それに今まで諦めていた料理を作れる。
「おうマリア、何だそれ?」
「リーリエさん、味醂ですよ!味醂なんです!」
「ああ、マリアが前に言っていたあれか、どれ……甘いし、これ酒か?」
「はい、ですがこれがあれば今よりもずっとカラアゲやギョーザを美味しくできます!いえそれどころか他の料理も今よりもさらに美味しくできます!」
「そうか、それじゃあ試してみるか」
こうしてボクは副女将さんとリーリエさんとでカラアゲやギョーザの改良をしてその日の内にお店に出す事にした。
今まで圧倒的に塩派が優勢だったのに改良型が出た途端、醤油派が勢いを取り戻した。
ギョーザも以前から人気があったけど改良を加えた事でさらに注文するお客さんが増えて、お店の看板メニューとなった。
ただ今まで仕込みの準備を手伝っていなかった人達にもギョーザを包んでもらわないといけない事態になる程、人気を得たのは予想外だった。




