13話 ボクのメイドデビュー
ボクが着るメイド服がついに完成しました。
午前用の灰色のドレスと亜麻色のエプロン、午後用の黒のドレスと白色のエプロン。
これからどんどん背が伸びて行く予定なので少し大きめに作れている、だから今はまだボクには少し大きい、けどとても嬉しい。
自分だけ着ている服が違うから少し疎外感を感じていた、だからようやく皆の仲間入りが出来た様な気分だ、そして気分ではなく本当に仲間入りする為に今まで以上にボクはメイド道の修練に励まないといけない。
何でそう思っているかと言うと皆、たぶんというより間違いなく戦う事が職業の人達だからだ。
お母さんは元軍人志望だったから見た目に反してとても強い、そんなお母さんよりも明らかにキルスティさん、セリーヌさん、アデラさんの方が圧倒的に強そうな、いや強い雰囲気を纏っている。
魔法の制御を体得してからというもの、こう――気?が分かる様になった。
以前よりも感覚、五感とは違うの別の感覚が鋭くなって前は「重心がしっかりしているなあ」程度に思っていた事が「隙が無い」と感じる様になった、お母さんもお店の中だと何時もと変わらないのに、外に出ると纏っている空気が一変する。
それで理解しちゃった、この世界のメイドさんってボクのいた世界のメイドさんとは違う、戦闘職なんだって……まあ、アニメとかだと普通に銃を乱射していたからこれもファンタジーなんだと思う事にした。
とまあ、現実逃避をしていると音も無く副女将さんが部屋に入って来た。
そう今日はボクがメイドとしてお店に立つ最初の日、つまりお披露目の日なのだ。
「さて、もうすぐマリアのお披露目です、緊張せずに行きましょう」
「はい、分かりました」
お店が開くまであと少し、ボクは副女将さんと一緒に二階の事務所で待機している。
メイド姿のお披露目、メイド道では伝統的な習わしの一つで自分の師と共に主に自分のメイド姿を見せ自己紹介をするというモノで、ボクの場合は副女将さんと一緒にお客さんの前で自己紹介する事になった。
お店が開いたら女将さんの掛け声と共に副女将さんに伴われて一階に下りるんだけどこれやる必要あるのかな、皆の前で挨拶するだけなのに一大イベントみたいな事になっている。
「普通は主に挨拶をして終わりなのですが、皆マリアを自慢したいのです」
そ、そんな理由でこんな事を……駄目だ、緊張して来た。
どうやらお店が開いたのか下から話し声が聞こえて来た、常連のお客さんを中心に知らせているらしいから何時もより人が多い気がする、それにカプレーゼとポテトチップスを目当てに今まで来ていなかった人も来るようになったらしいから、どれくらいの人が来るのか想像できない。
逃げたいけど皆が準備してくれたんだ、逃げるなボク!
「さあ、内で働く新しい子を紹介するよ、下りてきな!」
そんな格闘番組でする様な掛け声…緊張して心臓がすごい音を出してる、駄目だ少し気分が悪くなって来た。
よし!深呼吸だ、すー、はー、すー、はー、少し足りない、なら気合を入れよう。
ボクは両方の頬をパンと叩く、よし落ちついた行ける。
「では行きますよ」
「はい」
扉を開けて最初に副女将さんが出て次にボクが出る、すると歓声が上がりお店全体が揺れている様な錯覚に襲われる、一階にはたくさんのお客さんがいて入りきれない人は窓を開けて外から見ていた。
挨拶するまで表情を変えてはいけない、ボクは副女将さんみたいに無表情に徹する。
というか何でレッドカーペット!?気になって視線が下に行きそうになるけど真っ直ぐ前を向いて歩かないと!副女将さんの後ろを歩きながらボクは一階の女将さんの隣に立つ。
「さあ、挨拶しな」
女将さんに肩を軽く叩かれたのを合図にボクは会釈をして挨拶をする。
「ルシオ・ベアトリーチェの娘、ルシオ・マリアローズと申します。今日より淑女の酒宴のメイドの一員となりました、よろしくお願い致します」
そしてボクが顔を上げると同時に再度、大歓声がが上がる。
え、ちょっと待った。
酒場で働いているメイドが一人増えるだけで何でこんなに歓声が上がるの、それに人も集まり過ぎだ。
あとお母さんと副女将さん、何でそんなにドヤ顔なの!?
「マリアはすごいぞ、カプレーゼとポテトチップスを作ったのはこの子だからな!」
女将さんの言葉にどよめきが生まれる、そして次の言葉でさらにに広がる。
「今度から料理の品数も増やして行く、他が出していないの料理ばかりさ、期待して待ってな!」
ハードル上げないで!まあ作れない訳じゃないけど、それでもハードル上げないで!
「あと、マリアに変なちょっかいを出したら分かってるね?」
女将さんはそう言うと握り拳を見せる。
それに対して一人の老人が前に出る。
あの人は確かこの街で一番の年長の人だ、名前は確かグスタフさんだった筈だ。
「その時はワシが責任を持って処罰するから安心するといい」
グスタフさん顔は笑っているけど、笑っているけど纏っている空気が下手したら女将さんより強いかもこのおじいちゃん!
「グスタフが言うなら安心さね、まあマリアは当面は厨房に専従さ、ある意味じゃあ一番安全さね」
そうしてお店は通常の営業に戻って行く、厨房では基本的に缶詰や乾物をお皿に乗せ換えるのが中心で、料理はカプレーゼとポテトチップスだけでポテトチップスは油を使うからボクはカプレーゼと缶詰や乾物をお皿に乗せ換えるだけだ。
でもこれからどんどん厨房が忙しくなって行く。
その為にも新しい料理をどんどん提案していかないと行けない。
ボクはそう決意して缶詰を開けて行く、あ、ツナ缶だこれ!




