27話 真実は何時も残酷で
「……はっきりと言おう、マリアローズ、君はベアトリーチェが望んで得た子供ではない」
「………え?」
「そもそもベアトリーチェは若過ぎる、今年で20歳だ」
「………」
「君を生んだのはまだ17の時だ、普通なら学校に通っている歳だ」
「………」
「付け加えるならソルフィア王国の法律では23歳歳までを未成年者として扱う、地域によって30歳まで未成年者とする場合もある」
「………」
「ここから先は本来なら私が語る資格は無い、だが義務がある、心して聞いてくれ」
頭が真っ白だ、何も考えられない。
お母さんにとっては僕は望まない子供だったという言葉だけで、僕は何も考えられなくなって、ただ黙って司祭様の話す言葉を聞き続けた。
「ベアトリーチェには君以外の血縁者はいない、両親はベアトリーチェが14歳の時にトンネルの崩落事故に巻き込まれて亡くなった、両親以外の縁者がいなかったベアトリーチェは学費を払えず学園を中退した、そして―――」
お母さんは色々な屋敷で使用人として働きながら各地を転々とした。
でもお母さんを雇う人は体を目的とした最低な人ばかりで、例え良識のある人の家に雇われてもその家の奥方や周りの女性から嫉妬されて辞めなければならなくなり、そうやってお母さんは一つの場所に留まる事が出来ず、各地を転々とするしかなかった。
雇われても年齢を理由に賃金を不当に安くされたり、払われなかったりお母さんの暮らしはどんどん困窮していった。
「16歳の時だ、ベアトリーチェの前に親類を名乗る男が現れたのは、男はセイラム領の領主の館で働かないかと持ち掛けたらしい、失業した直後だった事もあり二つ返事で受けたそうだ。精神的に追い詰められて自棄になっていたのだろう、聡明なベアトリーチェなら普通は断っていたはずだ」
そしてお母さんはセイラム領の領都アーカムにあるディルク・バウマン子爵の屋敷で働くことになった、そして子爵はその日の内にお母さんを薬で眠らせて犯した。
「何か月も監禁されていたそうだ、私が保護した頃は無理矢理飲まされた堕胎薬の影響で一人で満足に歩く事も出来ない程、弱っていた」
バウマン子爵は嫁いで来た奥方にお母さんの事が知られる前に堕胎薬を飲ませてお腹の子を堕させようとしたけど、失敗して奥方に知られて弱り切ったお母さんを見た奥方は激怒してお母さんを教会に突き出した。
教会に保護されたお母さんは女将さんに預けられて淑女の酒宴で働き始めた。
「私が保護した時には臨月が近い状態だった、そこまで育っていては法律で堕胎する事が禁止されていてな、堕す事が出来ずその後は君の知っている通り君を生み今まで育てて来た」
お母さんは、どうして今まで僕を愛してくれていたんだ。
僕が生まれなければ自分の人生を送れたのに、それに僕は憎んでいる男に孕まされた子供だ、お母さんに似ていない所も沢山ある。
それは父親にバウマン子爵に似ている所があるという事だ、顔を見る度に憎い男の顔が目に浮かぶ筈なのに、お母さんは今までそんな素振りを一度だって見せていない。
何時だって慈しみと優しさと温かさで僕を抱きしめてくれる。
何時だって僕を一番に考えてくれる。
だけど僕がいなければお母さんは一人の人間としての人生を歩める、将来の夢があった筈だ、僕が生まれなければその夢に向かって歩めた筈だ。
僕は今まで幸せな日々を送っていた、愛されて大切にされて勉強だって好きな事が出来た、させてもらえていた。
お母さんだってやりたい事が沢山ある筈なのに、僕がいなければ出来るのに…僕がいなければお母さんは幸せになれる。
「マリア、君が生まれた日にベアトリーチェも君が廻者だと気付いていた、そこで君がある程度まで大きくなった時に悪性なら教会で引き取るという約束をした。育てられないと判断したら教会で引き取ると約束をした」
ああ。
それが最良だ。
今、僕に出来る唯一の恩返しだ。
「…お受けします」
「いいのか?」
「だって、そうすればお母さんは幸せになれる。こんな得体の知れない化け物で憎い男に孕まされた子供と居たらお母さんは幸せになれない」
僕が居なくなればお母さんの生活は楽になる、僕が居なくなればお母さんは自由に生きられる、僕が居なくなれば憎い男の事を思い出さなくても良くなる。
「……分かった、話は私が通しておく。今日中に孤児院に移ってもらう」
「はい」
これで大好きなお母さんが幸せになれる。




