21話 過去は何時までも
「ギリウスという青年、その身に不釣り合いな叡智は彼が前世の記憶を持つ廻り者だったから、異なる世界より廻りし悪しき魂だったが故に彼は災厄を振りまいたのです」
―――え、異なる世界から廻って来た、前世の記憶を持つ者、それ僕の事だ。
いや、違う僕はギリウスじゃないマリアローズだ。
「魂は廻る、輪廻を、円環を、されど時としてその大罪が故に元の世界より弾かれる魂もある、その魂もまた廻るのです、異なる界から彼はこの世界に廻って来ました」
僕は別に何もしていない、ただ父さんに認められたくて、父さんを馬鹿にした人たちを見返したくて必死に生きただけだ、弾かれる様な罪は犯していない。
「誰もが苦しんだ時代を築いたギリウス、そんな彼にも功績があります、それは…異界より廻りし魂は皆、大罪を犯した者だと教えてくれたことです。故に異界より廻者はその場で殺さねばなりません、親でも殺せ子でも殺せ、決して愛してはならない決して慈しんではならない」
きっとそれはこの三流吟遊詩人が勝手に言っている事だ、お母さんがそんな事をする訳がない、皆だってそんな事はしない筈だよ、だってこんなにも愛してくれているから……。
「そうだな殺すしかねえ!廻者は殺すしかねえ!」
酔ったお客さんの声だ、一人だけじゃない何人も同じ様に叫んでる。
もしかして廻者は…僕は危険な存在?殺すのが当たり前の存在?、嘘だ、そんなの嘘だ!
もう聞きたくない、知りたくない!
『死んで償え』
「ひ!」
後ろを振り向いたけど誰もいなかった、でも父さんの声が聞こえた。
僕は布団を被って耳を塞ぐ、下から聞こえて来る声から自分を守る為に、でも聞こえて来る。
『死んで償え』
やめろ、何時まで僕を苛めば気がすむんだ。
死んで償ったじゃないか!
『死んで償え』
これ以上何を償えっていうんだ!
『死んで償え』
僕が幸せになっちゃいけないのか!
『死んで償え』
愛されたいって、認められたいって、思っちゃいけないのか!
『死んで償え』
やめてくれ!
「マリア!?」
「え……お母さん?」
お母さんがいた。
まだ仕事の時間の筈だけど、もう着替えてる、いやお店が薄暗いからあの後からだいぶ時間が経ってる、僕は悪夢を見ていたんだ。
違う、僕は夜起きてお店の様子なんて見ていない、日課にもしていない。
時間になればアストルフォと一緒に寝ている。
そうだあれは夢だ。
現実なんかじゃない。
「…吟遊詩人が酷い詩曲を歌ったから、その所為で悪い夢を見たのね。もう大丈夫よ」
……酷い詩曲、そうだ僕は眠っていたら聞えて来たギリウスの火が怖くなって布団を被っていたんだ、お母さんが父さんと同じ目を僕に向けて来るんじゃないかって……。
あの目、忘れていたのに鮮明に思い出して、もしお母さんがあの目で僕を見たら、もし僕が廻者だと知られたら、お母さんはどんな目で僕を見るんだろう、不安になって怖くなった。
でもお母さんがあの目で僕を見る筈なんてない、聞けばいいんだ。
「ねえ、お母さん……」
「なに?マリア」
悪夢に魘された僕を心配する優しいお母さんの目、温かい微笑みで心を埋め尽くしていた不安は…無くならなかった、より輪郭がはっきりしだした。
「ううん、何でもない」
隠し通す。
僕が廻者である事を隠し通す、騙す事になるけど隠し通す。
異世界から廻って来た事を生涯に渡って隠し通す。




